『ハンター』

上原輝樹
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本作の原作小説「The Hunter」は、1999年にオーストラリアで刊行され人気を博し、9カ国語に翻訳、イギリスやフランスでは賞を受賞している。作者のジュリア・リーは英オブザーバー紙で"21世紀の21人の作家"のひとりに選ばれたのだという。本作は、その原作小説をダニエル・ネットハイム監督(ともう1名)が脚色し、それをベースに脚本家がホンを起こしている。

『アニマル・キングダム』のプロデューサー、ヴィンセント・シーハンが本作の製作を手掛けており、『アニマル〜』にしても本作にしても(主役デフォーは別として)オーストラリア俳優陣の充実は記憶に留めておきたい。ただ、原作を読んでいないので、映画を観た限りの話だが、原作小説に脚色が加えられたという本作は、どうも物語や人物設定に合点がいかないところが幾つかある。

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映画は、オーストラリア、タスマニアの大自然を舞台に、絶滅したといわれる"タスマニアタイガー"を探し求める"ハンター"を描いた物語で、その謎めいた主人公をウィレム・デフォーが演じている。"ハンター"は、バイオテクノロジー企業に雇われ、"タスマニアタイガー"の生体サンプルを獲得すべく、絶滅したといわれる"タイガー"の最後の一匹を探し求め、野生が息づくタスマニアの山中に身を潜めていく。

しかし、タスマニアでは、自然を守ろうとする環境保護活動家が集まり、森林の保護活動を展開しており、地元の森林伐採業者と激しく対立していた。現地入りした"ハンター" は、タスマニアの民家をベースキャンプとして間借りするのだが、そこで出会った家族と交流を深めて行くうちに、その家族の父親が失踪していることを知る。失踪した父親は、環境保護活動のリーダー的存在だった。

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映画は、タスマニアの大自然を舞台に、絶滅種を追い求める謎めいた"ハンター"のプロフェッショナルな行動と、地元の利害が対立する中、複雑な人間関係に巻き込まれ、今まで周囲の人間に感情移入をしないで生き残って来た必殺仕事人的キャラクターの"ハンター"が段々と人間味を醸し出して行く変化を描いて行くが、まず、"ハンター"のキャラクタ設定が今一つ中途半端だと感じてしまうのは、我が国に"ゴルゴ13"という完璧すぎる仕事人キャラクターが存在しているからだろうか?"ハンター"を演じているデフォーの腕っ節が、弱いのか強いのかよくわからない、という点もフィクションとしての造形が少し弱い。

つまり、環境保護活動家と森林伐採業者が対立し、その背景では、製薬会社が暗躍しているという、生臭い社会派的構図と、絶滅種を追うストイックな"ハンター"という強度のフィクション性を求められるはずのキャラクター造形がマッチしていない為に、今ひとつモヤモヤした感覚につきまとわれながら物語を追うことになる。しかも、ここでは具体的に明かさないが、終盤のあの展開はちょっと残念すぎると言っておきたい。

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しかし、そうした物語上の問題点を鑑みても、『ハンター』は観る価値の映画である。まず、画面に映えるタスマニアの自然が素晴らしい。この画を観ているだけで、映画館を飛び出して、どこか旅に出たくなる、そうした二律背反の衝動を感じさせる本作は決して優等生的な良い映画とは言えないかもしれないが、偏愛したくなる独特な魅力のある映画である。そして、主演のウィレム・デフォーがやはり良い。少し中途半端な人物造形ではあっても、この映画には2011年時点の、タスマニアの大自然の中で、周囲のワイルドな植物群と一体化し枯れ木にメタモルフォースしたようなデフォーの姿が紛れもなくドキュメントされている。時には、"物語"などどうでも良い、と言ってしまいたくなる映画もあるものだ。

"ハンター"と、父親を失った家族との交流が上手く描かれているので、むしろ、製薬会社の謀略というミステリー的設定はなくても良かったのではなかろうか?本作がタスマニアという辺境の地における"新しい家族"の誕生を描くだけの映画であればもっとシンプルで力強い映画になっていたかもしれない。ダニエル・ネットハイム監督は、より親密な人間関係を描いた映画において、一層力を発揮するのではないかと思ったのにはわけがある。それは、未だかつてブルース・スプリングスティーンの音楽が映画で重要な役割を果たした記憶がないにも関わらず、この家族が住まう民家の庭に聳える大木に仕掛けられたスピーカーから、スプリングスティーンの歌う「I'm on Fire」が素晴らしい空間的な響きを伴って流れ出すに至る演出の用意周到さに、大いに感動させられてしまったからだ。

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『ハンター』
原題:The Hunter

2月4日(土)より、丸の内ルーブルほか全国公開
 
監督:ダニエル・ネットハイム
製作:ヴィンセント・シーハン
脚本:アリス・アディソン
撮影:ロバート・ハンフリーズ
美術:スティーヴン・ジョーンズ=エヴァンス
衣装:エミリー・セラシン
編集:ローランド・ガロワ
音楽:アンドリュー・ランカスター
出演:ウィレム・デフォー、フランシス・オコナー、サム・ニール、モルガナ・デイヴィス、フィン・ウッドロック

© 2011 Porchlight Films Pty Limited, Screen Australia, Screen NSW, Tasmania Development and Resources and Nude Run Pty Limited.

2011年/オーストラリア/100分/カラー/シネマスコープ
配給:ブロードメディア・スタジオ

『ハンター』
オフィシャルサイト
http://hunter-movie.jp/
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