永遠のオリヴェイラ マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集 東京最終上映

2016年の1月から2月にかけて開催された「永遠のオリヴェイラ マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集 PART1」、2016年7月に開催された、オリヴェイラ監督の片腕ヴァレリー・ロワズルー氏を迎えての『フランシスカ』特別上映と、"世界最大の映画作家"の作品を改めてスクリーンで見る貴重な機会を提供してくれた追悼特集が、今回の「東京最終上映」を以て一区切りを迎える。本来であれば、PART1の後に、PART2を立ち上げる予定だったとのことだが、権利交渉が難航し、今回の「東京最終上映」という形になったという。本ページ末尾に掲載しているオリヴェイラ監督のフィルモグラフィーを見れば明らかだが、未だ日本で上映、公開されていないオリヴェイラ作品の数は多い。今後、更なる未知のオリヴェイラ作品がスクリーンに投影される未来に思いを馳せながら、まずは、当時22歳だったオリヴェイラが撮った初監督作品『ドウロ河』(31)のニュープリント版、そして、久々のスクリーン登場となる『永遠の語らい』(03)も上映されるアテネ・フランセの「東京最終上映」に、満を持して駆けつけたい。
(上原輝樹)
2017.3.3 update

2017年3月6日(月)〜3月18日(土)※3月12日(日)は休館
会場:アテネ・フランセ文化センター
料金:一般 1回券 1,300円、2回券 2,000円/学生・シニア 1,000円/アテネ・フランセ文化センター会員 800円
※各回入替制
※全作品日本語字幕付き
※やむをえない事情により作品及び上映時間が変更される場合がございます。

公式サイト:http://www.athenee.net/culturalcenter/program/ol/oliveira2017.html
上映スケジュール

3月6日(月)
17:00
ドウロ河
(21分)
アニキ・ボボ
(71分)
19:00
春の劇
(91分)



3月7日(火)
15:30
過去と現在 昔の恋、今の恋
(115分)

16:50
フランシスカ
(166分)



3月8日(水)
16:00
カニバイシュ
(91分)


18:00
神曲
(141分)



3月9日(木)
15:30
アブラハム渓谷
(188分)


19:10
春の劇
(91分)



3月10日(金)
14:30
過去と現在 昔の恋、今の恋
(115分)

16:50
階段通りの人々
(96分)



19:00
永遠の語らい
(95分)
レステロの老人
(19分)
3月11日(土)
13:00
フランシスカ
(166分)


15:50
レクチャー:
渡辺一史(ポルトガル文学・思想研究者/ポルトガル大使館)
17:50
ノン、あるいは支配の空しい栄光
(110分)
3月13日(月)
17:00
カニバイシュ
(91分)


19:00
ドウロ河
(21分)
アニキ・ボボ
(71分)
3月14日(火)
16:10
神曲
(141分)


19:00
階段通りの人々
(96分)


3月15日(水)
16:00
永遠の語らい
(95分)
レステロの老人
(19分)
18:30
過去と現在 昔の恋、今の恋
(115分)

3月16日(木)
15:40
フランシスカ
(166分)


19:00
カニバイシュ
(91分)


3月17日(金)
13:50
ノン、あるいは支配の空しい栄光
(110分)

16:10
神曲
(141分)


19:00
永遠の語らい
(95分)





3月18日(土)
12:50
アブラハム渓谷
(188分)


16:30
ドウロ河
(21分)
レステロの老人
(19分)
17:15
シンポジウム:「映画の作り手が語るオリヴェイラ」
篠崎誠(映画監督)、青山真治(映画監督)ほか
作品ラインナップ

『ドウロ河』(Douro, Faina Fluvial)
1931年/21分/モノクロ
監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:アントニオ・メンデス

22歳のオリヴェイラによる初監督作品。オリヴェイラ作品にたびたび登場する、ポルトを流れるドウロ川の一日。様々なものが行き交う河岸の市場で働く男たち、女たち、二階建て構造のドン・ルイス一世橋を走る車、漁に向かう帆船、川沿いに広がるポルトの町、機関車、自動車、牛車、飛行機...。オリヴェイラの親友であり、詩人・作家のジョゼ・レジオは、本作について「・・映画監督が芸術家(他のいかなる分野のもっとも誠実な芸術家にも劣らぬ芸術家)であることを実際に証明する、その詩的輝きと人間的感動を達成した...」と絶賛した。
『アニキ・ボボ』(Aniki Bóbó)
1942年/71分/モノクロ/35ミリ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:アントニオ・メンデス
出演:ナシメント・フェルナンデス、フェルナンダ・マトス、オラシオ・シルヴァ

オリヴェイラの長篇デビュー作。陽光降り注ぐポルトの街を舞台に、躍動するアナーキーな少年少女たちを縦横無尽に活写してネオレアリズモの先駆的作品と見なされる。「アニキ・ボボ」とは警官・泥棒という遊びの名前。幼い恋の冒険を「罪悪」と「友愛」の寓意へ変貌させる演出のスケール感はすでにして巨大。
『春の劇』(Acto de Primavera)
1963年/91分/カラー/35ミリ
監督・脚本・撮影:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:ニコラウ・ヌネス・ダ・シルヴァ、エルメリンダ・ピレシュ、マリア・マダレーナ

16世紀に書かれたテキストに基づいて山村クラリェで上演されるキリスト受難劇の記録。自ら「作品歴のターニングポイント」と述べる本作でオリヴェイラが発見したのは、「上演の映画」という極めて豊かな鉱脈だった。一見して不自然な「虚構」のドキュメントだけが喚起する謎と緊張。前人未踏の「映画を超えた映画」の始まり。
『過去と現在 昔の恋、今の恋』(O Passado e o Presente)
1972年/115分/カラー/35ミリ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:アカシオ・ド・アルメイダ
出演:マリア・ド・サイセット、マヌエラ・ド・フレイタス、ペドロ・ピニェイロ

長篇劇映画第三作。ヴィンセンテ・サンチェスの戯曲「過去と現在」を、監督が自ら映画用に翻案。『フランシスカ』に至る「挫折した愛の四部作」の第一部にあたる。現在の夫に心を開かず、事故死した最初の夫への想いを募らせる妻ヴァンダを中心に、過去と現在、死者と生者の間を交差する奇妙な愛が描かれる。
『フランシスカ』(Francisca)
1981年/166分/カラー/35ミリ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
出演:テレサ・メネデス、ディオゴ・ドーリア、マリオ・バローゾ

1850年代のポルト。小説家カミーロ・カステロ・ブランコと友人のジョゼ・アウグスト、そして「フランシスカ」と呼ばれる英国人の娘ファニー・オーウェン、実際にあった3人の恋の物語をもとに、アグスティナ・ベッサ=ルイスが書いた小説「ファニー・オーウェン」の映画化作品。二人の男に愛されたフランシスカはジョゼを選ぶが、3人の関係は悲劇的な結末を迎える。
『カニバイシュ』(Os Canibais)
1988年/91分/カラー/35ミリ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:マリオ・バローゾ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、レオノール・シルヴェイラ、ディオゴ・ドーリア

『過去と現在』から音楽を担当してきたジョアン・パエスとともに作られたオペラ・ブッファ映画。厳かに進行する貴族たちの晩餐会は、やがて、タイトルが予告する驚愕の食人場面へ。人間と動物、人間と機械、見せかけと本質...ヴァイオリンの調べに乗ってあらゆる境界が軽々と侵される。
『ノン、あるいは支配の空しい栄光』(Non, ou a Vã Gloria de Mandar)
1990年/110分/カラー/35ミリ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:エルソ・ロケ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ディオゴ・ドーリア、ミゲル・ギリェルメ

1974年、独立戦争が長期化していたアフリカのポルトガル植民地で、疲弊した兵士たちは戦争の意味と自国の歴史を振り返る。カモンイスの叙事詩「ウズ・ルジアダス」、アントニオ・ヴェイラ神父、フェルナンド・ペソア、ジョゼ・レジオなどの文学作品に想を得て、ローマ時代から20世紀まで、ポルトガル民族の2000年にわたる歴史の中の四つの敗北の物語を描く、オリヴェイラによる壮大な歴史・戦争映画。
『神曲』(A Divina Comédia)
1991年/141分/カラー/35ミリ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:イワン・コゼルカ
出演:マリア・ド・メデイロス、ミゲル・ギリェルメ、ルイス・ミゲル・シントラ

「精神を病める人々」の表札が掲げられた邸宅で、アダムとイブ、キリスト、ラスコリーニコフ、ニーチェのアンチ・キリストら、歴史的文学作品の登場人物たちが、信仰と理性と愛についての議論を戦わせる。西洋古典の深奥に分け入りながらも「まったく未知なものとして、絶対的な驚き」とともに再び映像として蘇らせるオリヴェイラ芸術の真骨頂。
『アブラハム渓谷』(Vale Abraão)
1993年/188分/カラー/35ミリ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
原作:アグスティナ・ベッサ=ルイス
撮影:マリオ・バローゾ
出演:レオノール・シルヴェイラ、セシル・サンス・ド・アルバ、ルイス・ミゲル・シントラ

フロベール「ボヴァリー夫人」をもとにポルトガル文学の巨匠アグスティナ・ベッサ=ルイスが原作を執筆。彫琢された言葉の響きとオリヴェイラの完璧な映像が火花を散らす"文芸映画"の最高峰。監督が追求し続ける女性美が、主人公エマを演じるレオノール・シルヴェイラと洗濯女を演じるイザベル・ルトの両極に具現する。
フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
『階段通りの人々』(A Caixa)
1994年/96分/カラー/35ミリ
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:マリオ・バローゾ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、ベアトリス・バタルダ、フィリペ・コショフェル

リスボンの街路を舞台にした群像劇。「すべての私の映画同様、『階段通りの人々』は人生から沸きだした特別な何かだ。それは貧しくて周縁にいる、ほとんど忘れられた人々の目を通した真の人間性のポートレイトだ。これは、1920年代の映画、初期映画への回帰を示す映画なのだ」。
フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター
『永遠の語らい』(Um Filme Falado)
2003年/95分/カラー
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:マリオ・バローゾ
出演:レオノール・シルヴェイラ、フィリッパ・ド・アルメイダ、ジョン・マルコヴィッチ

9.11の事件をきっかけにして、西洋文明をテーマに雄大な地中海文明を辿る母と娘の旅。"観客の理性をも刺激する映画でありたい"という監督の信念によって描かれた美しい映像美と流麗な音楽、そして会話から生まれた問題作。オリヴェイラの人生観が、ギリシャやエジプトなどの歴史的観光地の美しい映像を通して語られる。名優たちによる競演も見もの。
『レステロの老人』(O Velho do Restelo)
2014年/19分/カラー/DCP
監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:レナート・ベルタ
出演:ルイス・ミゲル・シントラ、リカルド・トレパ、ディオゴ・ドーリア

ポルトガルの大航海時代を詠った国民詩人カモンイス、「ドン・キホーテ」の作者セルヴァンテス、『破滅の愛』の原作者である19世紀ポルトガル・ロマン派の小説家カステロ・ブランコ、20世紀初頭の詩人パスコアイス。4人の文学者がポルトガルの過去と未来について語り合う。タイトルである"レステロの老人"は、大航海時代の栄光に異を唱える人物として、カモンイスの詩『ウズ・ルジアダス』の中に登場する。
特別上映『ヴァレリー・ロワズルーによるオリヴェイラ・オマージュ映像』
1991年の『神曲』以降、『アブラハム渓谷』や『クレーヴの奥方』等々、ほとんどすべてのオリヴェイラ作品の編集を手掛けてきたヴァレリー・ロワズルーが、ポルトガルの依頼を受けて、オリヴェイラ作品の様々な場面の映像を編集してつくった11分のオマージュ映像。
マノエル・ド・オリヴェイラ Manoel de Oliveira
1908年12月11日にポルトガル北部の港町ポルトに生まれる。1931年に初監督作『ドウロ河』を撮り、42年に初の劇場用長篇映画『アニキ・ボボ』を発表。家業を続けながら映画制作を続け、62年に長篇第二作『春の劇』を発表するが、「ポルトガルには検閲が存在する」という発言によって投獄される。10年を経て1972年3本目の長篇『過去と現在 昔の恋、今の恋』を発表。1974年独裁政権が終わり、オリヴェイラは『ベルニデまたは聖母』(75)、『破滅の愛』(78)、『フランシスカ』(81)と「挫折した愛の四部作」を構成する3作品をつぎつぎに発表。また、敏腕プロデューサーのパウロ・ブランコと組み、自分の望む企画を実現できる環境を得る。以後、上映時間6時間50分の大作『繻子の靴』(85)、『神曲』(91)、『アブラハム渓谷』(93)、『世界の始まりへの旅』(97)、『クレーヴの奥方』(99)などの輝かしい傑作を発表し続け、2000年代に入り、90歳をこえてもなお、ミシェル・ピコリ(『家路』01)、ジョン・マルコヴィッチ(『永遠の語らい』03)、カトリーヌ・ドヌーヴ(『永遠の語らい』03)、ビュル・オジェ(『夜顔』06)、ジャンヌ・モロー(『家族の灯り』12)といった世界的名優を迎えて、作品を生み出しつづけた。2014年のヴェネチア映画祭で短篇『レステロの老人』上映。2015年4月2日没。
マノエル・ド・オリヴェイラ フィルモグラフィー

* は日本公開・上映作品

1931 ドウロ河(Douro, Faina Fluvial)*
1932 白い石炭(Hulha Branca)
1932 リスボンの彫刻(Estátuas de Lisboa)
1937 最後の雷嵐―テージョの洪水(Os Últimos Temporais: Cheias do Tejo)
1938 ポルトガルではもう車を生産している(Já se fabricam Automóveis em Portugal)
1938 ミラマール、バラの海岸(Miramar, Praia das Rosas)
1941 ファマリカン(Famalicão)
1942 アニキ・ボボ(Aniki-Bóbó)*
1956 画家と町(O Pintor e a Cidade)
1958 心臓(O Coração)
1959 パン(O Pão)
1963 春の劇(Acto da Primavera)*
1963 狩り(A Caça)
1964 ヴィラ・ヴェルディーニョ 山の向こう(Villa Verdinho - Uma Aldeia Transmontana)
1965 わが兄ジュリオの絵(As Pinturas do Meu Irmão Júlio)
1972 過去と現在 昔の恋、今の恋(O Passado e o Presente)*
1975 ベニルデまたは聖母(Benilde ou a Virgem Mãe)
1978 破滅の愛(Amor de Perdição)
1981 フランシスカ(Francisca)*
1982 訪問または回想と告白(Visita ou Memórias e Confissões)*
1983 文化都市リスボン(Lisboa Cultural)*
1983 ニース─ジャン・ヴィゴについて(Nice-Á propos de Jean Vigo)*
1985 繻子の靴(Le Soulier de Satin)
1985 国際シンポジウム(Simpósio internacional de Escultura em Pedra)
1986 私の場合(Mon Cas)
1988 マヌエル・カジミーロの考え―国旗(Proposito da Bandeira Nacional)
1988 カニバイシュ(Os Canibais)*
1990 ノン、あるいは支配の虚しい栄光('Non', ou A Vã Glória de Mandar)*
1991 神曲(A Divina Comédia)*
1992 絶望の日(O Dia do Desespero)
1993 アブラハム渓谷(Vale Abraão)*
1994 階段通りの人々(A Caixa)*
1995 メフィストの誘い(O Convento)*
1996 パーティ(Party)
1997 世界の始まりへの旅(Viagem ao Princípio do Mundo)*
1998 不安(Inquietude)*
1999 クレーヴの奥方(La Lettre)*
2000 言葉とユートピア(Palavra e Utopia)
2001 家路(Je rentre à la maison)*
2001 わが幼少時代のポルト(Porto da Minha Infância)*
2002 家宝(O Princípio da Incerteza)*
2002 モメント(Momento)
2003 永遠の語らい(Um Filme Falado)*
2004 第五帝国─今日という昨日(O Quinto Império - Ontem Como Hoje)
2005 マジック・ミラー(Espelho Mágico)
2005 可視から不可視へ(Do Visível ao Invisível)
2006 夜顔(Belle Toujours)*
2006 起こりえないことは不可能なこととは違う(O Improvável Não é Impossível)
2007 コロンブス 永遠の海(Cristóvão Colombo - O Enigma)*
2007 唯一の出会い(『それぞれのシネマ』所収)("Rencontre Unique" (Chacun son Cinéma))
2008 ヴィラ・ド・コンデのロマンス(Romance de Vila do Conde)
2008 ステンドグラスと聖なる死人(O Vitral e a Santa Morta)
2009 ブロンド娘は過激に美しく(Singularidades de uma Rapariga Loura)*
2010 アンジェリカの微笑み(O Estranho Caso de Angélica)*
2011 Mundo Invisível("Do Visivel ao Invisivel")*
2012 家族の灯り(O GEBO E A SOMBRA/GEBO ET L'OMBRE)*
2012 ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区(Centro Histórico)*
2014 レステロの老人(O velho do Restelo)*




永遠のオリヴェイラ マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集 東京最終上映について、皆様のご意見・ご感想をお待ちしております。
なお、ご投稿頂いたものを掲載するか否かの判断については、
OUTSIDE IN TOKYO 編集部の判断に一任頂きますので、ご了承ください。





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