映画/批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~

約20年に亘って「カイエ・デュ・シネマ」誌と共同で企画されてきた「カイエ・デュ・シネマ週間」が、今年から新たに「映画/批評月間~フランス映画の現在をめぐって~」として生まれ変わり、カイエ誌を含む、より多様な組織・人材とのコラボレーションによって、最新のフランス映画を紹介する特集上映へと進化を遂げた。初陣を飾る今回は、フランス日刊紙「リベラシオン」の映画批評家であり、同紙文化部のチーフ、ジュリアン・ジェステールを迎えた最新フランス映画の上映<ベスト・オブ 2017-2018>、新作『ハイ・ライフ』が2019年4月に日本公開予定のクレール・ドゥニ監督の作品群、<見出された映画作家>ギィ・ジルの作品群の上映が予定されている。また、瞠目すべきクレール・ドゥニ×黒沢清対談をはじめとして、ジュリアン・ジェステール氏のレクチャー、映画と批評の可能性を探るトークセッションも行われる。絶えずアップデートし続ける<映画史>の最新版が、今まさに、ここで生成されようとしている。
(上原輝樹)
2019.3.1 update
3月9日(土)~4月21日(日)
会場:アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ
企画協力:ジュリアン・ジェステール(「リベラシオン」文化部チーフ)
特別ゲスト:クレール・ドゥニ、黒沢清
ゲスト:マチュー・カペル、五所純子、五十嵐耕平、松井宏、三浦哲哉、大寺眞輔、須藤健太郎、富田克也、結城秀勇(アルファベット順)

料金:一般1,200円、学生800円、アンスティチュ・フランセ会員500円
開場時間:15分前
チケット販売時間:上映当日各回の30分前から上映開始10分後まで。チケット販売時間内には、当日すべての回のチケットをご購入いただけます。全席自由。整理番号順での入場とさせていただきます。また、上映開始10分後以降の入場は、他のお客さまへの迷惑となりますので、固くお 断りいたします。
*『ハイ・ライフ』は入場無料。上映当日11時から整理券を配布します。
*シネ・リセ 若者向け映画講座は、21歳前後の方を対象とした講座です(料金:500円)

公式サイト:https://www.institutfrancais.jp/tokyo/agenda/1903090421/
上映スケジュール

3月9日(土)
12:00
ジャン・ドゥーシェ、ある映画批評家の肖像
(85分)

14:15
パリ、18区、夜。
(112分)



17:00
20年後の私も美しい
(95分)




3月10日(日)
12:15
美しき仕事
(89分)



14:30
レット・ザ・サンシャイン・イン
(95分)


17:00
パリ、18区、夜。
(112分)




3月12日(火)
18:45
ハイ・ライフ
(113分)
アフタートークあり(ゲスト:クレール・ドゥニ、黒沢清)
3月15日(金)
13:45
傑作短編集
(90分)



16:00
私たちに散弾銃が残されているかぎりは
(31分)
ブラギノ
(50分)
19:00
勤務につけ!
(73分)




3月16日(土)
11:45
ウルトラ・ドリーム
(82分)



14:00
現代の映画作家シリーズ:ジャック・リヴェット、夜警
(125分)

17:00
ポール・サンチェスが戻ってきた!
(101分)
アフタートークあり(ゲスト:三浦哲哉、五十嵐耕平、松井宏)
3月17日(日)
12:15
巨匠たちの短編集
(83分)
14:30
35杯のラムショット
(100分)





17:00
ガーゴイル
(100分)






3月29日(金)
15:00
ソヴァージュ
(99分)
18:00
ジェシカ
(97分)
アフタートークあり(ゲスト:ジュリアン・ジェステール、五所純子、大寺眞輔、結城秀勇)
3月30日(土)
11:30
ワイルド・ボーイズ
(110分)
14:15
シェエラザード
(112分)





17:00
ソフィア・アンティポリス
(98分)
アフタートークあり(ゲスト:ジュリアン・ジェステール、富田克也、マチュー・カペル)
3月31日(日)
12:30
海辺の恋
(71分)
14:30
地上の輝き
(102分)





17:00
切られたパンに
(71分)
上映後、ジュリアン・ジェステールによる講演会あり



4月5日(金)
17:00
カレ35
(67分)
19:00
反復された不在
(79分)





4月12日(金)
16:45
巨匠たちの短編集
(83分)


19:00
死んだってへっちゃらさ
(91分)
4月19日(金)
15:45
僕たちプロヴァンシアル
(137分)

19:00
20年後の私も美しい
(95分)

4月20日(土)
12:15
ソヴァージュ
(99分)


14:45
美しき仕事
(89分)

17:00
ソフィア・アンティポリス
(98分)
4月21日(日)
13:00
パリ、18区、夜。
(112分)
【シネ・リセ】
講師:須藤健太郎
17:00
35杯のラムショット
(100分)

 
上映プログラム

クレール・ドゥニを迎えて

©2018PANDORA FILM - ALCATRAZ FILMS
『ハイ・ライフ』(High Life de Claire Denis)
2018年/ドイツ、フランス、イギリス、ポーランド、アメリカ合作/英語/113分/カラー/PG-12/原題:High-Life/日本語字幕
監督・脚本:クレール・ドゥニ
出演:ロバート・パティンソン、ジュリエット・ビノッシュ、ミア・ゴス、アンドレ・ベンジャミン

遥か彼方、太陽系外の宇宙。死刑囚たちが極刑の免除と引き換えに、代替エネルギーを得る実験のために宇宙船の中で生活している。その一人であるモントは、まだ赤ん坊である娘を守りながら過ごしている。実験を指揮するのは、ひとりの美しい女性科学者。彼女のミッションは、信じられないほど衝撃的なものだった......。宇宙船などの美術には、デンマークの現代芸術家オラファー・エリアソンが参加し、ミニマルながらこれまでにない幻想的なSF映画の世界が創造されている。
「この映画を作ることで人類の終わりを、別の何かへの変転(生成)、はかりしれない冒険の可能性として想像することができた。」クレール・ドゥニ

「クレール・ドゥニはロバート・パティンソンとジュリエット・ビノッシュを恍惚とさせるような、永遠と続く宇宙の旅(オデュッセイア)へと送り出す。偉大なジャンル映画に連なり、幻覚にとらわれた、奥深い傑作。」リベラシオン

配給:トランスフォーマー
4月19日(金)より ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
公式HP:http://www.transformer.co.jp/m/highlife/
公式TWITTER:https://twitter.com/highlife_film
現代の映画:シリーズ『ジャック・リヴェット、夜警』
(Cinéaste de notre temps : Jacques Rivette, le veilleur)
フランス/1990年/127分/カラー/ベータカム/フランス語/日本語同時通訳付
監督:クレール・ドゥニ
撮影:アニエス・ゴダール
編集:ドミニク・オブレー
出演:ジャック・リヴェット、セルジュ・ダネー、ビュル・オジエ、ジャン=フランソワ・ステヴナン

60年代初頭にジャニーヌ・バザンとアンドレ・S・ラバルトにより企画された「現代の映画作家シリーズ」は、ルノワール、ブニュエル、ラング、フォード、カサヴェテスなどの巨匠たちを、彼らを敬愛する映画監督たちがドキュメンタリーとして撮るというコンセプトであり、貴重な資料であると同時に、二人の監督の出会い、共鳴によって、多くが素晴しい作品となっている。このシリーズは1972年に一旦、打ち切られ、1988年に「現代の映画シリーズ」として新たにスタートする。ナンニ・モレッティ、デヴィッド・リンチ、マーティン・スコセッシなどを迎えてスタートした新シリーズで、初めてフランス人監督を迎えて撮られたのが「ジャック・リヴェット、夜警」である。かつて、リヴェットは「現代の映画作家シリーズ」で最も敬愛する映画作家のひとり、ジャン・ルノワールのドキュメンタリーを監督しているが、今度は自らが撮られる対象、「モデル」となることを引き受け、その横にリヴェットが「カイエ・デュ・シネマ」編集長の時代からの仲間で、信頼を置く映画批評家セルジュ・ダネーが寄り添っている。監督するのは、やはりリヴェットが信頼し、彼の何本かの映画でアシスタントを務めている女流監督クレール・ドゥニである。リヴェットがかつて撮影したパリのいくつかの場所を訪れながら、現代と過去、フィクションとドキュメンタリー、昼と夜、光と影が交錯して行く。顔を撮ること、身体を撮ることとは、セクシュアリティーとは、ヌーヴェルヴァーグとは、孤独であるとは、そして映画とは......。ステヴナンが言うように、「孤高なカウボーイ、イーストウッド」のように歩きながら、あるいは、カフェでしきりに手で豊かなしぐさを見せながら、リヴェットは、映画=人生について、いつになく雄弁に語ってくれる。
『死んだってへっちゃらさ』(S'en fout la mort)
フランス/1990年/91分/カラー/DVD/フランス語/日本語字幕
監督:クレール・ドゥニ
出演:イザック・バンコレ、アレックス・デスカス、ジャン=クロード・ブリアリ、ソルベイグ・ドマルタン

それぞれ、ベナンとアンティル諸島からの移民であるダとジョスリン。ふたりはパリ南郊の中央卸売市場ランジスのレストラン経営者と結託し、闇で賭け闘鶏を行っている。それによって生計を立て堅実な生活を送ることを望んでいたが、不利な状況に追い詰められていく。ドゥニ長編二作目でモンテ・ヘルマン監督の『コックファイター』(74)から着想を得た闘鶏映画の傑作。
『パリ、18区、夜。』(J'ai pas sommeil)
フランス/1994年/109分/カラー/35mm/フランス語/日本語字幕
監督:クレール・ドゥニ
出演:カテリーナ・ゴルベワ、ベアトリス・ダル、アレックス・デスカス

女優をめざしリトアニアからパリにやってきた若い娘ダイガは18区の安ホテルで清掃の仕事をしながら下宿することに。そのホテルで暮らしているアフリカ系移民のカミーユは精悍な肉体を売り物にゲイ・クラブでダンサーをしている。時を同じくして、パリでは老女を狙った連続殺人事件が起こる。昼も夜も休むことなく人々が蠢いているパリ18区で様々な人生、運命、フィクションが交錯する。
『美しき仕事』(Beau travail)
フランス/1999年/90分/カラー/35mm/フランス語/英語字幕
監督:クレール・ドゥニ
出演:ドゥニ・ラヴァン、ミシェル・スボール、グレゴワール・コラン

マルセイユ、元准尉のガルーがジブチの湾岸で仲間たちと過ごした時間を回想していた。ガルーたち外人部隊の小隊が道を補修し、訓練を重ねている。無機質なアフリカの海岸の風景、目を眩ませるような光、灼熱の暑さの中で、有機物と無機物、抽象と具象が溶け合う。
「戦争についての映画を撮ろうとしたとき、それを戦闘的動きの緩慢なる変化としてのダンスを通して表現したいと思った。」クレール・ドゥニ
『ガーゴイル』(Trouble Every Day)
フランス/2001年/100分/カラー/35mm/カラー/フランス語/日本語字幕
監督:クレール・ドゥニ
出演:ベアトリス・ダル、ヴィンセント・ギャロ、トリシア・ヴェッセイ

アメリカ人研究者のシェーン・ブラウンは、新妻のジューンを伴い、ハネムーンでパリにやって来る。しかし、シェーンはなぜか妻を抱こうとしない。一方、パリ郊外の屋敷で監禁されながら暮らす女性コレ。部屋の鍵を壊しては夜の街をさまよう彼女の行動に夫は心を悩ませていた。
「『ガーゴイル』には、排除というものが存在しない。すべての瞬間を映画に込めるという意志が働いている。ここに、映画が解放されているという希望を私は持った。」黒沢清
『35杯のラムショット』(35 rhums)
フランス/2009年/100分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕
監督:クレール・ドゥニ
出演:アレックス・デスカス、マティ・ディオップ、ニコール・ドーグ、グレゴワール・コラン

RERの運転手のリオネルは、娘のジョゼフィーヌと二人でパリ郊外に暮している。父は愛する娘との別れが遠くないことを感じ始める。父親を演じるのはクレール・ドゥニ作品にかかせない俳優アレックス・デスカス。娘役は、セネガルの巨匠ジブリル・ディオップの姪で、自らも映画監督として活躍しているマティ・ディオップが演じている。小津安二郎へのオマージュが込められた作品で、父と娘の関係を詩情豊かに描いた秀作。ヴェネチア国際映画祭出品作品。
『レット・ザ・サンシャイン・イン』(Un beau soleil intérieur)
フランス/2017年/95分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕
監督:クレール・ドゥニ
出演:ジュリエット・ビノシュ、グザヴィエ・ボーヴォワ、フィリップ・カトリーヌ、ジェラール・ドパルデュー

アーティストでシングルマザーのイザベルは愛を探している、真実の愛を。
「カミーユはジュリエットそのものだ。胸の開いたTシャツ、ミニスカートにニーハイブーツを纏い、女らしくあることを恐れない女性。そしてそのジュリエットが踊る『At last』を歌うエタ・ジェイムズ、彼女自身についての映画でもある。」クレール・ドゥニ
「この素晴らしい初のラブ・コメディにて、クレール・ドゥニはジュリエット・ビノッシュを陶然とさせるような誘惑のバレーの只中に誘い込む。」

クレール・ドゥニ略歴
パリ生まれ。幼少期を植民地行政官の父の赴任地であるアフリカの国々を移動しながら過ごす。フランスへ帰国後、フランス高等映画学院へ入学、卒業後は、ジャック・リヴェット、ヴィム・ヴェンダース、ジム・ジャームッシュなど名だたる映画監督たちのアシスタントを務める。1988年、初の長編で自伝的作品『ショコラ』がカンヌ国際映画祭のオフィシャル・コンペティション部門に選出。続いて、人種の坩堝パリ18区を舞台とした群像劇『パリ、18区、夜。』(94)で自らの作家性を確立し、日本でも熱烈なファンを獲得。アルテのテレビ・シリーズ「彼らの時代のすべての男の子たち、女の子たち」で撮られた『US GO HOME』(94)は自らの思春期を題材に若者たちの行き所のない欲望、身体を瑞々しく描き、その続編として企画された『ネネットとボニ』(96)はロカルノ映画祭のグランプリをはじめとする三冠を受賞。1999年にドニ・ラヴァン主演で再び自らの原点であるアフリカの地、ジブチに戻って撮った『美しき仕事』で第28回ロッテルダム国際映画祭KNF賞など多数の賞受賞。その後も現代の吸血鬼たちを描いた官能的な『ガーゴイル』(2001)、父親と娘の絆を繊細に描いた『35杯のラムショット』(2009)、カンヌ国際映画祭「ある視点」部門に出品されたフィルム・ノワール『バスターズ-悪い奴ほどよく眠る』(2013)、そして2017年にカンヌ映画祭監督週間に出品されたジュリエット・ビノッシュ主演の『レット・ザ・サンシャイン・イン』では初のラブ・コメディと、その作風の豊かさは新しい世代の映画監督たちからも熱烈な賞賛を受けている。最新作の『ハイ・ライフ』はドゥニが数年かけて準備してきた念願の企画であり、彼女にとって初のSF映画、初の英語作品、ロバート・パティンソンやジュリエット・ビノシュ、ミア・ゴスといった国際的スターが出演し、2018年9月にトロント国際映画祭で世界初上映された。つねにあらたなジャンル、スタイルを追求しながら、人間の奥深くにある欲望、暴力性、愛の形などをときに瑞々しく、ときに生々しく、ときに禍々しくスクリーンに映し出し、観る者たちを魅了してやまない映画作家。
ベスト・オブ 2017-2018:
「使い古された主題や作風に身動きが取れなくなり、資金不足で製作力も弱っている、何年もの間そのように言われ続けてきたフランス映画だが、2018年、クレール・ドゥニ、パトリシア・マズィ、ソフィー・フィリエールらベテランの女性監督たちが斬新で偉大な作品を発表し、豊かなフィルモグラフィーにさらなる奥行きを与えている。そして驚くべき才能を担った新たな世代も出現している。彼ら若手監督たちの作品は、大きな志や独特な想像力によって、使い古されたコードや時代が定める気がめいるような宿命にはっきりと抵抗を示している。」ジュリアン・ジェステール

『ジェシカ』
(Jessica Forever de Jonathan Vinel et Caroline Poggi)
フランス/2018年/97分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕
監督:キャロリーヌ・ポギ&ジョナタン・ヴィネル
出演:アオミ・ミュヨック、セバスティアン・ウルゼンドヴスキー、オウギュスタン・ラグネ

ジェシカは闘士であり、母親、魔術師、気高い女神、スターである。ディストピア的世界で、ジェシカは孤立し、愛情を知らず怪物になってしまった子どもたちを救う。彼らはひとつの家族となり、生き残る権利を得られる世界を自分たちで作り始める。ジェシカはゲーム『メタルギアソリッドV』のクワイエットから着想を得ている。本特集で短編2本が紹介される期待の監督コンビ、ポギ&ヴィネルの長編処女作をフランス公開に先駆けて特別上映!

配給:クロックワークス
『ポール・サンチェスが戻ってきた!』
(Paul Sanchez est revenu! de Patricia Mazuy)
フランス/2018年/101分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕
監督:パトリシア・マズィ
出演:ローラン・ラフィット、ジタ・オンロ、フィリップ・ジラール

10年前に失踪した犯罪者、ポール・サンチェスが、プロヴァンス地方のレ・ザルクで目撃されたという。憲兵隊舎では誰もそのことを本気にしなかったが、若い憲兵のマリオンは違った...。
「このような場所を映画に撮れるのはパトリシア・マズィをおいて他にいないだろう。丘陵、レ・ザルク、谷、国道、まるでラオール・ウォルシュの映画に見られるような広大な世界。ある人物の狂気が拡散していくとともに物語が展開し、やがてその狂気は集団の中へと波及していく。(...)」
『勤務につけ!』(Au poste de Quentin Dupieux)
フランス/2018年/73分/カラー/デジタル/フランス/日本語字幕
監督:カンタン・デュピュー
出演:ブノワ・ポールヴールド、アナイス・ドゥムースティ、グレゴワール・ルディッグ、マルク・フレーズ

舞台はとある警察署。ブロン捜査官は、血まみれで見つかったある男の殺人事件の調査を担当し、遺体を発見したフガンという男を第一容疑者として取り調べを受けることに。言葉が記憶を呼び、記憶が現実に侵入し、そこに虚構と混ざり合っていく......。フレンチ・エレクトロ・ムーブメントを代表するアーティストであり、映像作家でもあるミスター・オワゾことカンタン・デュピューの6本目の長編。80年代フランスの刑事ものへのオマージュであると同時に、間違った時に、間違った場所に居合わせてしまったカフカ的とも言える世界を描くミステリー・コメディ。
『ソヴァージュ』(Sauvage de Camille Vidal-Naquet)
フランス/2018年/99分/カラー/デジタル/フランス/日本語字幕
監督:カミーユ・ヴィダル=ナケ
出演:フェリックス・マリトー、エリック・ベルナール、ニコラ・ディブラ

22歳の青年レオは、街娼をして僅かな金を稼いでいた。次から次へと行き交う男たちに、彼は愛を求め、身体を差し出す。明日がどんな日になろうとも、そんなことは関係ない。彼は今日も街に繰り出してゆく。胸に高鳴る鼓動を感じて......。カミーユ・ヴィダル=ナケの処女長編作品で、カンヌ国際映画祭批評家週間にてプレミア上映され、作品の持つ奥深さが大いに感動を呼んだ。
「むき出しの鮮烈さとセンチメンタルな側面を併せ持つカミーユ・ヴィダル=ナケの処女長編は、とりわけ主役のレオを演じるフェリック・マリトーという新たな才能とともに、作品のテーマが孕む危険を見事に乗り越え、素晴らしい作品を生み出している。」
『シェエラザード』(Shéhérazade de Jean-Bernard Marlin)
フランス/2018年/112分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕(R12+)
監督:ジャン=ベルナール・マルラン
出演:ディラン・ロベール、ケンザ・フォルタス、イディール・アズグ

ザカリは17歳、刑務所から出所したばかり。母親にも見捨てられ、マルセイユの下町をぶらついていたところ、シェエラザードという名の少女と運命的な出会いをする......。2018年ジャン・ヴィゴ賞受賞作品。
「ここ最近、若手のフランス映画作家たちが精力的に、偉大な作家たち(ここではデパルマ、パゾリーニ)からの影響を怖れることなく受け入れ、クレイジーな試みに乗り出している。北マルセイユ界隈、それも学校と刑務所を往来するように撮られJ=P・マルランの作品はその証となる一本だ。」
『ワイルド・ボーイズ』(Les Garçons sauvages de Bertrand Mandico)
フランス/2017年/110分/モノクロ&カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕(R12+)
監督:ベルトラン・マンディコ
出演:ヴィマラ・ポンス、ポリーヌ・ロリラール、ディアンヌ・ルクセル、アナエル・スノーク、マチルド・ワルニエ、サム・ルーウィック、エリナ・レーヴェンソン

20世紀初頭。良家出身の5人の少年が、ある日解放的な気分に魔が差して、卑劣な罪を犯してしまう。罪を償うため謎の船長に預けられた少年たちは、過酷な航海の旅へと連行される。密かに反乱を企てる5人だが、ある無人島に座礁すると、そこには快楽を与えてくれる幻想的な植物が生い茂り、いつの間にか欲望に溺れていく。すると、少年たちの身体は次第に変異していき、ゆるやかにセクシュアリティーの境界線が溶けていく...。デジタルトリックに一切頼らない、驚くべき造形の美しさも見所のひとつ。
『ソフィア・アンティポリス』(Sophia Antipolis de Virgil Vernier)
フランス/2018年/98分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕(R12+)
監督;ヴィルジル・ヴェルニエ
出演:ドゥイ・キュネツ、ユーグ・ンジバ=ムクナ、サンドラ・ポワトゥ

ソフィア・アンティポリス、それは地中海と森と山の間にある不思議な場所。眩いばかりの陽光の下、男も女も生きる意味を、人と人のつながりを、自分たちが属する共同体を探している。そしていつのまにか彼らは失踪した一人の若い女性の運命と交錯していく。

「前作『メルキュリアル』にて幻覚にとらわれた郊外の地での漂流を描いた現在の偉大な政治的映画作家の中でももっともノワールなヴェルニエが、コートダジュールの太陽と遅れてきた資本主義の凍りつくような炎に焼き尽くされたこの超現実主義的ホラー映画においてさらにその方法論を磨き上げる。そこは南仏でありながら、まったく別の世界のようにも見え、非常に冷たく鋭利なものが燃えるような官能性へと至る。そして超=現在の強迫観念や孤独にもとづく数世紀来の神話、至福千年説の恐怖、中世風の信仰がそこに蔓延っている。現代の不安(混乱)を目がくらむほど鮮やかに浮き彫りにする作品。」
『20年後の私も美しい』(La Belle et la Belle de Sophie Fillière)
フランス/2018年/95分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕
監督:ソフィー・フィリエール
出演:サンドリーヌ・キベルラン、アガット・ボニゼール、メルヴィル・プポー

大学生のマルゴーは、恋愛についても、将来についても進むべき道が見えず、成り行きに身を任せて日々を生きている。そんなとき、40代半ばの女性マルゴーと知り合う。全ての偶然が彼女たちを結び付け、自分たちが一つの人生の異なる年齢を生きる同じ人間である事を知ることに......。現代を生きる女性たちが風変わりなシチュエーションに巻き込まれるラブ・コメディをコンスタントに発表してきたソフィー・フィリエールの長編8作目。監督の実娘で、透明感のある美しさが魅力のアガット・ボニゼールとフランス映画界でもコメディエンヌとしての才能抜群のサンドリーヌ・キベルランがひとりの女性の20代と45代をそれぞれ軽やかにも繊細に演じている。
『僕らプロヴァンシアル』
(Mes provinciales de Jean-Paul Civeyrac)
フランス/2018年/137分/カラー/デジタル/フランス語/英語字幕・作品解説配布
監督ジャン=ポール・シヴェラック
出演:オンドラニック・マネ、ゴンザグ・ヴァン・ベルヴェセレス、コランタン・フィラ

エティエンヌは大学で映画を学ぶため、パリに上京する。そこで映画への情熱を同じくするマティアスとジャン=ノエルと出会う。しかし年月とともに彼らの抱いていた幻想が徐々に変質していき......。
「シヴェラックは、ブレッソン、ロメール、ユスターシュと同じような方法で、アナクロニズムを引き受けている。たとえば現在そのものを言葉の中に詰め込め、それを古くからの思想によってねじ曲げ、時を越えたプロットの中で純化させるように。それは大いに野心的な行いであり、しかも非常に繊細なる簡素さ、清澄なるモノクロ映像によって俳優たちの顔、彼らが発する言葉が見事にとらえられている。」
『カレ35』(Carré 35 d'Eric Caravaca)
フランス/2017年/67分/カラー/デジタル/フランス語/英語字幕・作品解説配布
監督エリック・カラヴァカ

「カレ35は私の家族の中で一度も名指しすることがなかった場所です。3歳で亡くなった私の姉が埋葬されたのもその場所です。姉のことは人からほとんど聞いたことがなく、両親も奇妙なことに一枚も写真を残していませんでした。彼女のイメージの欠如を埋めるために私はこの映画を作ることにしました。忘れ去られた人の生が流れていることを信じて、私がずっと知らずにいた彼女が生きた時間、私たち一人ひとりの中に意識せずとも存在してきて、私たちを作っているとも言える記憶へと、秘密の扉を開けたのです。」エリック・カラヴァカ
『映画/批評をめぐって ジャン・ドゥーシェ、ある映画批評家の肖像』
(Jean Douchet, l'enfant agité de Fabien Hagege, Vincent Haasser, Guillaume Namur)
フランス/2017/85分/カラー/デジタル/フランス語/英語字幕・作品解説配布
監督:ファビアン・アジェージュ、ギヨーム・ナミュール、ヴァンサン・アセール

ジャン・ドゥーシェは50年以上前から映画批評家として世界中を旅してきた、映画についての伝道師、「渡り守(パサール)」である。その類まれなる知性、教養、ユーモアによって、映画作家や映画ファンたちに影響を与えてきた。ある晩、三人の仲間たちがドゥーシェと出会い、彼の話にすぐさま魅惑され、ジャン・ドゥーシェという謎も多い男との特権的な関係を持ち始める。
短編映画祭
アンスティチュ・フランセは、フランス国立映画センターの支援のもと毎年3月に開催される「短編映画祭」に参加し、世界各国で、優れた短編作品を紹介しています。新世代の監督たちから巨匠たちまで、彼らの才能、作家性が短いフォルムの中に凝縮されている作品群をどうぞこの機会にご覧下さい!



『ウルトラ・レーヴ』
(Ultra Rêve de Bertrand Mandico, Yann Gonzalez, Caroline Poggi, Jonathan Vinel)
フランス/2018年/82分/カラー/デジタル/フランス語/日本語字幕
監督:ベルトラン・マンディコ、ヤン・ゴンザレス、キャロリーヌ・ポギ、ジョナタン・ヴィネル

カンヌ国際映画祭ほか数多くの映画祭で上映され、話題をよんだ気鋭の若手監督による3作の短編作品が『ウルトラ・レーヴ』というタイトルで一本にまとめられたオムニバス作品。『アフタ・スクール・ナイト・ファイト』は16ミリ、その他の2本は35ミリで撮られている。
「甘美なほどに過激、ピリッとしていて、ネオ・バロック的作風が光る3本の短編集には、様々な記憶、ポップ・カルチャーへのオマージュ、セクシュアリティーの破片が満ちている。」
『アフター・スクール・ナイフ・ファイト』
(After School Knife Fight)
21分
監督・脚本・音楽:キャロリーヌ・ポギ、ジョナタン・ヴィネル

レティシア、ロカ、ニコ、ナエルの4人は、最後の練習のために、空き地に集まった。レティシアが遠くへ進学するため、まもなく皆で集まる事はなくなる...。離れ離れになりたくない若者たちは...。16mm撮影。2017年カンヌ国際映画祭批評家週間出品作品。

『アイランズ』(Les Îles)
23分
監督:ヤン・ゴンザレス
出演:サラ=メガン・アルシュ、トマ・デュカス、アルフォンス・メトルピエール

欲望だけに導かれ、彼らはエロスと愛の迷路をさまよう。2017年カンヌ国際映画祭批評家週間出品作品。

『アポカリプス・アフター』(Ultra Pulpe)
37分
監督・脚本:ベルトラン・マンディコ
出演:ローラ・クレトン、ポーリーヌ・ジャガード、エリナ・レーヴェンソン

見捨てられた海辺のリゾート。世界の終焉を描いたファンタジー映画影も終わった。撮影クルーの二人の女、女優と監督であるアポカリプスとジョイは、彼女たちの恋愛も終わらせようとしていた。2018年カンヌ国際映画祭批評家週間出品作品。
『ブラギノ』(Braguino de Clément Cogitore)
フランス・フィンランド/2017年/50分/カラー/デジタル/ロシア語/英語字幕・作品解説配布
監督:クレモン・コジトール

シベリアに広がるタイガのど真ん中、一番小さな村からも700キロ離れた場所にブラギヌ家とキリヌ家は暮らしている。そこにつながる道はない。ただ、エニセイ川を舟で進み、のちにヘリコプターに乗り換える長い旅を経てやっとブラギノの地にたどり着ける。そこで、二つの家族は自給自足の生活を彼ら独自のルールにのっとって営んでいた。サンセバスチャン国際映画祭の自由な発想、新たな創造に挑んでいる作品を集めたタバカレラ部門で最優秀作品賞を受賞。
『私たちに散弾銃が残されているかぎりは』
(Tant qu'il nous reste des fusils à pompe de de Caroline Poggi et Jonathan Vinel)
2014年/31分/カラー/デジタル/フランス語/英語字幕・作品解説配布
監督:キャロリーヌ・ポギ&ジョナタン・ヴィネル

暑い日。奇妙にも路上にはほとんど人影がない。椰子の木が唸り、散弾銃は涙を流している。ジョシュアは死にたいと思っているが、弟のマエルを一人残して逝けない。そんな時、武装したアイスバーグのギャングたちに出会う。第64回ベルリン国際映画 祭短編部門金熊賞 受賞作品。
短編傑作集

『東京の闇』
『リュックによる人生』
(La Vie selon Luc de Jean-Paul Civeyrac)
フランス/英語字幕/デジタル/1991年/5分/カラー
監督:ジャン=ポール・シヴェラック

『娘たち、犬たち』
(Des filles et des chiens de Sophie FIllières)
フランス/英語字幕/デジタル/1990年/6分/カラー
監督:ソフィー・フィリエール

『イエスと言って、ノーと言って』
(Dis moi oui, dis moi non de Noemie Lvovsky)
フランス/英語字幕/デジタル/1988年/17分/カラー
監督:ノエミ・ルヴォヴスキ
『東京の闇』
(Laissé inachevé à Tokyo d'Olivier Assayas)
フランス/英語字幕/デジタル/1982年/22分/モノクロ
監督:オリヴィエ・アサイヤス

『白い悪夢』
(Cauchemar blanc de Mathieu Kassovitz)
フランス/英語字幕/デジタル/1991年/9分/カラー
監督:マチュー・カソヴィッツ

『家事』(Ménage de Pierre Salvadori)
フランス/英語字幕/デジタル/1992年/12分/カラー
監督:ピエール・サルヴァドリ

『手紙』(la lettre de Michel Gondry)
フランス/英語字幕/デジタル/1998年/13分/カラー
監督:ミシェル・ゴンドリー
巨匠たちの短編集

『ロックの思い出に』
(A la mémoire du rock de François Reichenbach)
フランス/1963年/11分/モノクロ/デジタル/英語字幕
監督:フランソワ・レシャンバック

『男の子の名前はみんなパトリックっていうの』
(Tous les garçons s'appellent Patrick de Jean-Luc Godard)
フランス/1959年/21 分/モノクロ/デジタル/日本語字幕
監督:ジャン=リュック・ゴダール

『新学期』
(Rentrée des classes de Jacques Rozier)
フランス/1956年/24分//モノクロ/デジタル/英語字幕
監督:ジャック・ロジエ
『郵便配達の学校』
(L'École des facteur de Jacques Tati)
フランス/1946年/15分/モノクロ/デジタル/日本語字幕
監督:ジャック・タチ

『紹介またはシャルロットとステーキ』
(Présentation ou Charlotte et son steack d'Eric Rohmer)
フランス/1960年/12分/モノクロ/デジタル/英語字幕
監督:エリック・ロメール
ギィ・ジル 見出された映画作家
「ユスターシュやガレルとさほど遠くない、従兄弟のような存在でありながら、人目にあまり触れることなく映画を撮り続けていたギィ・ジル、彼の映画は忘却に抗う力を秘めていて、今回その最も美しい作品群を日本で初めて特集する。ギィ・ジルはその最期までヌーヴェルヴァーグの作家たちからもあまり愛されることなく、理解されることのない弟分のような存在であったが、監督としてデビューした初期の時代に『地上の輝き』(1969)や『反復された不在』(1972年)といった傑作を残している。『反復された不在』はジルの最も美しくも、最も悲しい作品であり、ジャンヌ・モローの声が作品全体に宿っている。つねに悲哀を帯び(母の死、惨憺たる恋愛体験、アルジェからパリへの亡命が痕跡を留めている)、自伝的要素の強い叙情性やロマンティスムへの陶酔を表現しているかのような特異な色使い、そして記憶への過度なる感受性で焼け焦げ、渦を巻くような運動に調和するかのような、非常に創意に富んだエクリチュールが編集によってなされているギィ・ジルの作品は、フランス映画の偉大な詩人たちについての正式なる歴史の中には、遺憾ながらも、まだ十分なる場所を見出してはいない。」ジュリアン・ジェステール

『海辺の恋』(L'Amour à la mer)
フランス/1963/73年/カラー&モノクロ/デジタル/フランス語/日本語字幕
出演:ジュヌヴィエーヴ・テニエ、ダニエル・ムスマン、ギィ・ジル、シモーヌ・パリ、ジャン=ピエール・レオ、ジャン=ゥロード・ブリアリ

ジュヌヴィエーヴは恋人である水兵のダニエルと海辺の街ドゥーヴィルで落ち合い、愛し合う。ヴァカンスが終わり、ダニエルはブレストの駐屯地に、ジュヌヴィエールはパリに戻り、手紙を綴り、再会することを待ち望みながら、それぞれの生活を送る。ダニエルと同様にアルジェリア戦争からフランスに戻ってきた水兵、ギィの感情がふたりのそれと混ざり合っていく。
『切られたパンに』(Au pan coupé)
フランス/1967年/71分/カラー&モノクロ/デジタル/フランス語/日本語字幕
出演:パトリック・ジュアネ、マーシャ・メリル、ベルナール・ヴェルレ

ジャンヌはかつての恋人ジャンを思い出し、今も彼との恋を生きている。ジャンは15歳で少年院に入り、既成秩序に反抗し、ブルジョワ的な世界もビート族たちの世界も拒否して死んでいった。彼の死を知らないジャンヌには、つねにジャンが亡霊のように寄り添っている。
「この作品での愛は顔によって想起させられ――何度も繰り返し見せられる女性の顔、視線、――それにはただただ感嘆させられる。そう、こうした試みはこれまで一度も映画でなされたことがなかっただろう。」マルグリット・デュラス
『地上の輝き』(Le Clair de terre)
フランス/1969年/102分/カラー&モノクロ/デジタル/フランス語/日本語字幕
出演:パトリック・ジョアネ、エドウィジュ・フィエール、アニー・ジラルド、ミシェリーヌ・プレール

チュニジア生まれで、母の死まで幼年期をその地で過ごしたピエールは現在、パリのマレ地区、ロジエール通りに父親と住んでいる。突如、パリを離れる必要を感じたピエールは再びチュニジアの首都チュニスに向かう。そこでかつての教師に導かれ、自分の過去の形跡を辿っていくことになる。
『反復された不在』(Absences répétées)
フランス/1972年/79分/カラー&モノクロ/DVD/フランス語/日本語同時通訳付
出演:パトリック・ペン、ダニエル・ドゥローム、イヴ・ロベール、ナタリー・ドロン、パトリック・ジョアネ

29歳のフランソワは銀行で働いている。この世の何も彼の関心を引かないようだ。銀行の店長に呼ばれ、欠勤が重なり過ぎているので解雇を通達される。職業的立場を失ったことでフランソワは社会的疎外へと不可逆的に向かっていく。
「ジルの最も美しくも、最も悲しい作品であり、ジャンヌ・モローの声が作品全体に宿っている。」ジュリアン・ジェステール

ギィ・ジル(1938-1996)
1938 年、アルジェリアの首都アルジェ生まれ。子供の頃より映画ファンで、20歳で13分の美しい処女短編作品『消された太陽』を監督。すでに本作にその後の作品で繰り返し描かれることになるテーマ、亡命、メランコリー、記憶の重さと現在の官能性、また、不確かな未来や若者が率直に表明する感情などを見ることができる。アルジェリア戦争下の1960年、ギィ・ジルはパリへと移住。ピエール・ブロンベルジェの援助により、何本か短編を監督し、その中の『Au biseau des baisers』を非常に気に入ったジャン=ピエール・メルヴィルから援助を受け、初長編である自伝的作品『海辺の恋』を3年がかりで製作。撮影中、ジルの作品、そして彼の人生において大変重要な存在となるパトリック・ジョアネと出会う。作品のほとんどを自主制作し、あまりにも商業ベースから離れていたため、劇場公開されることがなかったが、それでも各地の映画祭で紹介され、1964年ロカルノ映画祭で批評家賞を受賞。長編二作目『切られたパンに』(67)は主演の女優マーシャ・メリルが本作のために自ら製作会社を設立し、完成にこぎつけ、マルグリット・デュラスらから賛辞の言葉が寄せられた。三作目『地上の輝き』(69)はイエール映画祭グランプリ受賞。四作目の『反復される不在』(72)はその年最も優れた作品に与えられるジャン・ヴィゴ賞を受賞。これら初期4作品にはすでにギィ・ジル映画の最良の部分が詰め込まれており、一部の批評家から評価されるも、興行的にはまったくあたらず、ますます困難な製作状況へと追いやられる。何本もの企画が流れたのちにようやく発表したデルフィーヌ・セイリング、サミー・フレイ、ジャンヌ・モローら出演のフィルム・ノワール的作品『Le Jardin qui bascule』(74)は、時代におもねっているとされるふしもあるが、ジルにとって特別な存在であった女優モローが歌うシーンなど、魅力溢れる作品となっている。1987年一人の男が夜の街を徘徊する『夜のアトリエ』は、かけがえのない存在だったパトリック・ジョアネとの物語に終止符を打つ感動的一作。注文されたテレビ作品やドキュメンタリーも多く手がけ、その中にはジルにとって重要な二人の作家、マルセル・プルーストとジャン・ジュネについての2本の美しいドキュメンタリー『プルースト、芸術と苦悩』(71)と『聖人、殉教者、詩人』(75)がある。壊されて行く街の小さな映画館にオマージュを捧げた『シネ・ビジュ(映画=宝石)』 (65)も貴重なドキュメンタリーである。生前にはほとんど知られることがなく、ひっそりと映画を作り続けてきた作家ギィ・ジルの作品は、2003年のラ・ロシェル映画祭、2004年と2005年にルサス映画祭、2005年にパンタン短編映画祭で特集を組まれるようになり、シネマテーク・フランセーズでようやく2014年に全作で回顧上映特集が開催され、一気にパリの映画ファンたちに発見され、フランスを始め、世界各地で徐々に発見され、評価が高まっている。




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