OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW

メルヴィル・プポー トークショー

3. 役者の演技に心理という側面はないんです

1  |  2  |  3  |  4



SA:その作品 (『The Lines of Wellington』)はもう既に日本配給が決まっていて、来年あたりに公開になると聞いています。確かにこのカトリーヌ・ドヌーヴ、常に素晴らしいんですけれども、(『犯罪の系譜』には)ある意味カトリーヌ・ドヌーヴさんの持ってる全ての演技のレベルがあるというか、彼女の演じてきたあらゆる女性像がここに集結しているような感じで、母の役、あるいは恋をする女性、あるいは恐ろしい女性、残酷な女性であり殺人者であり、あるいはその犯罪を操作する警察官、弁護士、その全てのレベルを含んだような、多分、彼女にとっては演じていて本当に幸福だった役じゃないかなという風に思いました。
MP:その通りですね。ラウル・ルイス監督の中にあるルイス・ブニュエル性というのをドヌーヴは感じてたんじゃないでしょうかね。ちょっとシュールレアリスティックなところとか。カトリーヌ・ドヌーヴっていう人は本当に女優として色んなタイプの監督と一緒に仕事をしてこられた方ですから、そういう風な巨匠の監督達と一緒に仕事をする時は、彼女はその監督のスタイルに身を任せる女優さんですよね。だからルイス監督が何を頼んでも、どういうことをしてくれと言っても、いつでもいいわよっていう、スタンバイ状態の女優さんでしたね。
SA:ありがとうございます。どうでしょう、観客の方からのご質問とか?せっかくの機会なのでご質問のある方いらっしゃいましたら。
観客A:今日、煙に巻かれながら拝見させて頂いて、最後、凄く面白かったなと思って拝見させて頂いたんですけれども、役柄に入るのが難しかったんじゃないかと思うんですが、結末を知っていてこの役柄っていう感じで変えられたのか、そのシーンごとに演出されて役柄に入ったのかなっていうのと、逆に役から抜ける時はすぐに抜けることが出来たのかな?って思ったんですが。
MP:(結末について)それは知らなかったですね、全く知らなかったです。本当に撮影している時は全然訳が分からなかったです。小さい時からラウル・ルイス監督とやってますから、それはもう日常茶飯事です。監督は人と遊ぶのが好きなんですよ、でもそれは倒錯的に人を陥れようとかそういうことじゃないんですよ。ですから俳優さんにしても観客にしても、そういう先入観なく、子供に戻りなさいよって、そういう風な想いっていうのがラウル・ルイス監督の中にあるんですね。子供の時っていうのは大人のやってることはよく分からないですよね、ですからただ目を丸くして聞いている、そういう無心の状態ってありますよね、そういうものにラウル・ルイス監督は皆さんを誘いたかったんじゃないかなと思いますね。科学にしても文学にしても凄く造詣の深い人でしたから、それぐらい教養の深い人ですから、それを彼は映画の中に散りばめるわけですよね、ですから俳優にしても観客にしても、それを全て理解するっていうのは到底不可能なことです。秘密の隠された記号みたいな ものも映画の中にいつも入っているんですね、冗談もあります。その冗談が誰に向けて冗談が込められているかというと、ある国の特定の人々にその冗談が仕向けられている、そういう風な隠された記号もあるんですよ。ドイツの映画館だったら、あるいは中国の映画館だったら、一人だけひょっとしたら笑うかもしれ ません、そのシーンで。その国のその人に向けて冗談が仕掛けられているわけですからね。それはある意味ラウル・ルイス監督が、凄く分かりやすいシナリオとか分かりやすい話だったら、皆さんをちょっと馬鹿にしてるようなことになりますけど、その逆なんですね、謎というものを埋め込んでるわけです。
SA:もう一つの質問は役から出る時に苦労なさらないかというものでした。
MP:いやいや、役者の演技に心理という側面はないんです、ラウル・ルイス監督の場合は。遊びとかいつも機嫌のいい感じで進められてますし、スタッフの人達はみんな監督が大好きですし、フランスの監督ではみんな心理的ドラマっていうと、ちょっと啀み合ったりとかでそういうものでテンション作るの好きですけど、彼は全然そんなことなくて、みんなから愛された現場でしたね。だからラウル・ルイス監督と一緒に仕事をする人達はみんな分っていたでしょう、少しラウル・ル イス監督と回転木馬にでも乗ろうかっていう、そういう風な軽い遊び心に溢れた現場でしたね。10歳の時、確かに人殺しの役を演じて、その後はですね、一人で自分で自作自演でビデオカメラで映画を作ったんですけど、10歳ちょっとぐらいの時に、その時は自分でナイフを持って自分を殺す、自殺するような、腹切りみたいなそういう風なビデオでした。やっぱり10歳で人殺しを演じたわけで、少し混乱してたのかもしれませんね。


1  |  2  |  3  |  4