OUTSIDE IN TOKYO
TALK SHOW



アルゼンチンはブエノスアイレスの州都ラプラタ市に実在する”クルチェット邸”(1955年完成)は、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエと並んで20世紀を代表する建築家と言われるル・コルビュジエがラテン・アメリカで唯一設計した個人住宅であるという。そんな貴重な芸術作品でもある”クルチェット邸”を舞台に撮り上げてしまった映画が、『ル・コルビュジエの家』である。
インダストリアル・デザイナーである主人公レオナルド(ラファエル・スプレゲルブルド)は、聡明な妻アナ、一人娘ロラと共に、ミッドセンチュリーモダンの芸術作品そのものの中で暮らす成功者だが、ある日を境に、その満たされた日常が綻びを見せ始める。ある朝、大きな打撃音で目を覚ましたレオナルドは、隣りの家に住む隣人ビクトル(ダニエル・アラオス)が、自分の家に面した壁に大きな穴を空け、”窓”を作ろうとしていることを知る。「太陽の光がちょっとほしいだけだ」とドスが効いた声で凄むビクトルにひるむレオナルド。その時からレオナルドの人生の歯車は狂い始め、平穏なはずの”家庭”内にも不穏な空気が漂い始める。味方だと思っていた”家族”とも信頼関係を築けていないことを思い知らせたレオナルドは、果たしてこの”隣人問題”を解決していくことができるのか?
NYのMOMAやパリのポンピドゥーセンターなどからも注目される若手映像作家コンビ、ガストン・ドゥプラットとマリアノ・コーンが監督、撮影を手掛けたブラック・コメディである本作の脚本家にして、首謀者でもあるアンドレス・ドゥプラットが急遽来日し、トークショーを行なった。ブラックユーモアに満ちた本作でその矛先を向けているのは、”中の上”の人々である”自分たち自身”であると語るアンドレス・ドゥプラットのトークショーの採録を掲載する。
(上原輝樹)

1. 隣人とのコミュニケーションが上手くいかない成功者、
 お互いに凄く近いのに遠い二つの世界を描きたいと思った

1  |  2  |  3  |  4



アンドレス・ドゥプラット(以降:AD):まずアイデアはどこから生まれたかっていうことなんですけれども、私の実際の生活の中で似たようなエピソードがあって、それによって自分は物語を作れるんじゃないかと思ったのです。要するに理解が不可能というか、理解をしたくない、とても近い人なのに理解が出来ないという、その二つの違う世界を描くことが出来るんじゃないかと思いました。この主人公は非常に成功したインダストリアル・デザイナーで、何カ国語も話せて社会的地位もあって皆から認められてるのですが、隣人とのコミュニケーションが上手くいかない。すぐそこにいる人なのに、同じ言語を話しているのに、その人と上手く意思の疎通が出来ない。お互いに凄く近いのに遠い二つの世界、お互いになかなか相手の事を認められない、そういう世界を描きたいと思いました。
Q:舞台となるのはル・コルビュジエが設計したクルチェット邸でラプラタにあります。その中は普段は何にもないんですけど、そこを舞台に映画を作られています。そのための許可を得るとか、特に問題はなかったのかのでしょうか?
AD:この映画の中で“家”はとても重要なファクターです。何故かというとル・コルビュジエが設計したというだけではなく、これはアメリカ大陸の中で唯一彼が設計した家だということです。その中で自分のエピソードを使ってドラマを描こうとした時にドラマツルギーとして、このル・コルビュジエが設計した家を舞台にすることで、よりドラマチックになっていくだろうと思いました。主人公のレオナルドと隣に住む男のビクトルという二人の主役がいるんですが、このコルビュジエ邸という家は三人目の主役になっていると思います。そして私は実際にあったエピソードから物語を書いたと言いましたけれど、自分の家はこんなに素晴らしい家ではないのでドラマもそんなになかったわけですが、もしこの家が舞台になるのであれば非常にドラマチックになるだろうということでここを選びました。そして建築として自由である、非常に透明性が高い建築なので、それもこのエピソードの中でドラマチックに展開出来る要素であると思いました。さらに、この家に住むレオナルドは成功したデザイナーなんですけれども、その家についてもそうなんですが、隣人のビクトルは全くその事を意に介していない、そんな事は関係ない、ただの変わった家だくらいにしか思っていない、そのおかしみ、その面白さを出せると思いました。そして何も問題がなかったのかという事に関しては、全く問題なく、とても簡単に借りる事が出来ました。というのも、今クルチェット邸という家は、クルチェット一族、元々残っている人達の物なんですけれども、彼らがラプラタにある建築学校に貸しているわけですね。その建築学校の役割の一つは、このクルチェット邸を広めるという事でした。プロモーションするっていう事ですね。というのもアルゼンチンの中でもこのクルチェット邸の事を知らない人はたくさんいるので、その人達に家の事を知ってもらうという目的で使うから、ここで映画撮影をしたいという申請をしましたら、二つ返事でOKでした。


『ル・コルビュジエの家』
原題:El hombre de al lado

9月15日(土)より、新宿K's Cinemaにて3週限定ロードショー!

監督・撮影:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
脚本:アンドレス・ドゥプラット
音楽:セルヒロ・パンガロ
出演:ラファエル・スプレゲルブルト、ダニエル・アラオス、ユージェニアス・アロンソ

2009年/アルゼンチン/103分/SRD/カラー
配給:Action Inc.

『ル・コルビュジエの家』
オフィシャルサイト
http://www.action-inc.co.jp/
corbusier/
1  |  2  |  3  |  4