ジャック・ドゥミ、映画の夢



ファッション&音楽好きで、ジャック・ドゥミという監督名はとにかく、『シェルブールの雨傘』(63)と『ロシュフォールの恋人たち』(66)における、ドヌーヴ、ドルレアック姉妹のカラフルなルックと多幸感溢れるミッシェル・ルグランの音楽を知らないものはいないだろう。60年代フランス映画の輝きを永遠にフィルムに焼き付けた、独創性溢れる名匠ジャック・ドゥミの、今まであまり上映される機会のなかった80年代の作品を含む6作品が、アンスティチュ・フランセ東京で一挙に上映される。東京国立美術館フィルム・センターで同時開催されている展覧会「ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑」のコミッショナー、映画評論家マチュー・オルレアン氏によるレクチャーも予定されている。まさに"映画の夢"そのものの魅惑を放つ60年代の傑作群、そして(個人的には)まだ見ぬ80年代の作品群、どちらもスクリーンで見て、目と心に焼き付けたい!という強い欲望をそそる特集上映の到来である。
(上原輝樹)
2014.9.12 update
9月13日(土)~9月26日(金)
会場:アンスティチュ・フランセ東京
料金:一般 1,200円/学生 800円/会員 500円

公式サイト:http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1409130926/

展覧会情報:「ジャック・ドゥミ 映画/音楽の魅惑」
会期:8月28日(木)~12月14日(日)
会場:東京国立近代美術館フィルムセンター 展示室
公式サイト:http://www.momat.go.jp/FC/demy/index.html
上映スケジュール
9月13日(土)
13:00
パーキング
(95分)

15:30
都会のひと部屋
(90分)




18:00
想い出のマルセイユ
(103分)
9月14日(日)
15:30
天使の入江
(82分)

18:00
パーキング
(95分)




9月19日(金)
19:00
都会のひと部屋
(90分)

9月20日(土)
13:00
ローラ
(85分)

15:30
モデル・ショップ
(92分)




18:00
天使の入江
(82分)

9月21日(日)
15:30
ローラ
(85分)

18:00
モデル・ショップ
(92分)
上映後:
マチュー・オルレアンによるレクチャーあり
9月26日(金)
19:00
想い出のマルセイユ
(103分)
作品ラインナップ

©cinetamaris
『パーキング』(Parking)
1985年/95分/デジタル・リマスター版/カラー/無字幕・作品解説配布予定
出演:フランシス・ユステール(オルフェ)、ケイコ・イトウ(ユリディス)、ジャン・マレー(アデス)、ローラン・マレ(カライス)、マリー=フランス・ピジエ(ペルセファーヌ)

ジャン・コクトー『オルフェ』を80年代に舞台にしたら?オルフェウスの神話を大胆に翻案したロック・ミュージカル。大人気のミュージシャン、オルフェはユリディスを愛し、ふたりは幸せな日々を過ごしていた。しかし、コンサートのリハーサル中、オルフェは事故で倒れてしまう。冥界の支配者アデスは、彼の死が誤りであることを認め、オルフェは地上に戻るが、今度は最愛のユリディスがドラッグで命を落としてしまい、オルフェは彼女を迎えに再び冥界へと赴くが...。製作面で困難に見舞われ、多くの技術スタッフも初めて組む者ばかりで、幸福なミュージカル作家ドゥミのイメージからは遠いものがあるかもしれないが、配役の多国籍性、混乱を極める筋書き、ドラッグ、フェミニズム、同性愛といった同時代的な主題など、その困惑そのものに時代の空気が痛々しいほどに刻印されている。
©cinetamaris
『都会のひと部屋』(Une chambre en ville)
1982年/90分/デジタル・リマスター版/カラー/日本語字幕付)
出演: ドミニク・サンダ(エディット・ルロワイエ)、リシャール・ベリ(フランソワ・ギルボー)、ダニエル・ダリュー(マルゴ・ラングロワ)、ミシェル・ピコリ(エドモン・ルロワイエ)、ジャン=フランソワ・ステヴナン(ダンビエル)、ファビアンヌ・ギヨン(ヴィオレット・ベルティエ)

舞台は港町ナント。スト中の労働者たちが機動隊と相対している。労働者の中には、冶金工フランソワ・ギルボーの姿もある。彼は息子を失ったラングロワ男爵夫人のもとに間借りしていて、ヴィオレットという恋人がいる。男爵夫人の娘エディットはテレビ販売店を経営するエドモンのもとに嫁いでいる。嫉妬深い夫に嫌気をさしたエディットは、ある晩、裸体に毛皮のコート1枚という姿で家を飛び出し、フランソワに会いに行く。愛を誓い合うふたりだったが、ふたりの身の上に次々と悲惨な事件が起こる...。

「生きてゆくため、つましい給料を手にするため、そして愛を貫き、満たされるためには、人は嫌でも闘わなくてはなりません。愛や思想のために命を捧げる人だっています。情熱的な人たちです。私は、この映画で、不条理なまでに激しい情熱を描きたかったのです。」(ジャック・ドゥミ)
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『想い出のマルセイユ』(Trois places pour le 26)
1988年/103分/35ミリ/カラー/日本語字幕付
出演:イヴ・モンタン(本人)、マチルダ・メイ(マリオン)、フランソワーズ・ファビアン(ミレーヌ)、マチュー・ドゥミ(テルドリアン)

故郷マルセイユにミュージカル公演のために帰るイヴ・モンタン。彼はその公演の中で、自身の人生を歌と踊りで振り返ってゆく。かつての恋人と再会し、モンタンは自分に娘がいたことを知る。遺作となるこの作品には、ドゥミ映画になくてはならないセーラー服の水兵、未婚の母、驚くばかりの原色の世界が繰り広げられている。ドゥミとモンタンが映画を作るという企画を初めて話し合ったのは、68年、ハリウッドにおいてだった。夕暮れ時にドライヴをしながら、ドゥミとヴァルダ夫妻、モンタンとシモーヌ・シニョレ夫妻は、将来、一緒にミュージカル映画を作る夢を語り合い、それから20年後の本作でようやく彼らの夢が実現する。
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『天使の入江』(La Baie des Anges)
1963年/82分/35mm/モノクロ/日本語字幕付
出演:ジャンヌ・モロー(ジャッキー・ドメストル)、クロード・マン(ジャン・フルニエ)、ポール・ゲール(キャロン)

銀行員のジャックは、同僚キャロンの悪影響を受け、ギャンブルに染まってゆく。それを知った厳格な父から勘当を喰らった彼はパリを離れてニースの安ホテルに居を構え、「天使の入江」のカジノ通いを始める。ある日カジノで出会ったブロンドの女性ジャッキーに惹かれるジャックは、彼女とパートナーになって勝ち続けてゆく。ある夜ふたりは大負けし、一文無しのジャッキーは人生をやり直す結城を与えてくれるように彼に懇願する。果たしてふたりを繋ぐのはギャンブルの偶然だけなのか、それとも愛なのか?ドゥミの作品に共通するオープニングの秀逸さにおいても本作のそれは格別と言える。南仏のひとけのない海岸、アイリスから広がるジャンヌ・モローの姿、それはミシェル・ルグランのテーマ曲を従えながら、永遠に続くキャメラの後退運動によってやがて路上のうちに消え去る。

「この映画で最も描きたかったのは情熱のメカニズムだ」(ジャック・ドゥミ)
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『ローラ』(Lola)
1961年/85分/デジタル・リマスター版/モノクロ/日本語字幕付
出演: アヌーク・エーメ(ローラ/セシル)、マルク・ミシェル(ロラン・カサール)、ジャック・アルダン(ミシェル)、コリンヌ・マルシャン(デイジー)、エリナ・ラブールデット(デノワイエ夫人)

舞台は、ドゥミの生まれ故郷でもある港町ナント。キャバレーの踊り子ローラは、幼い息子を抱え、忽然と7年前に姿を消した恋人ミシェルの帰りを待っている。幼なじみのロランは思い続けていたセシル(ローラ)に10年ぶりに再会し、彼女にプロポーズするが断られ、失意の中、アフリカへ旅立つことを決意する。そんな時、キャデラックに乗った一人の男が現れる...。眩いほどに美しいドゥミの長編処女作。

冒頭、ドゥミが敬愛していたマックス・オフュルスの『快楽』のテーマが流れる。そして、デノワイエ夫人がかつて踊り子だったことを示す写真は、婦人を演じるエリナ・ラブールデットが出演した『ブローニュの森の貴婦人たち』スチル写真である。また、ローラのその後の人生は『モデル・ショップ』で描かれ、ロランは『シェルブールの雨傘』に再登場する。ドゥミの人物たちの人生は、こうして一本の作品を超えて、彼の他の作品、他の映画作家の作品へと流れ出してゆく。
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『モデル・ショップ』(Model Shop)
1969年/92分/デジタル・リマスター版/カラー/日本語字幕付
出演:アヌーク・エーメ(ローラ/セシル)、ゲーリー・ロックウッド(ジョージ・マシュー)、アレクサンドラ・ヘイ(グロリア)

若い女優グロリアと暮らしているジョージは、兵役に出発する前日、手形の支払いが滞っている車のために100ドルを友達に借りに行き、そこで白い服を着た美しい女性を見かける。衝動的にその女の後をついて行くと、彼女は素人の写真家たちにモデルを貸し出すスタジオ<モデル・ショップ>の中に姿を消す。ジョージはその中に入り、その女性ローラと再会し、彼女を撮影する。ローラはアメリカで夫に見捨てられ、息子のいるフランスへの切符のためにそこでお金を稼いでいた。ふたりは一夜をともに過ごし、ジョージは車の手形のためのお金を彼女に渡す。アヌーク・エーメ演じるローラが再び登場する『ローラ』の続編である本作は、68年当時のロサンジェルスについての「詩的なポートレート」でもある。

ジャック・ドゥミ Jacques Demy
1931年6月5日、フランスのロワール・アトランティック県ポン・シャトー生まれ。子供の頃から人形劇を自作自演してみたり、幻燈を作ったりしながら、ごく自然に映画の世界へと導かれてゆく。49年にパリに出て、写真映画学校に通った後、フランス・アニメーションの父、ポール・グリモーらの助監督をつとめる。56年に短編処女作「ロワール渓谷の木靴職人」を撮り、以後59年までに5本の短編作品を手掛ける。60年に待望の長編処女作『ローラ』を発表。低予算ながら、後のドゥミ映画の要素を凝縮した作品で、「ヌーヴェルヴァーグの真珠」と称えられる。62年1月9日に女流監督アニエス・ヴァルダと結婚。63年に忘れがたい名作『シェルブールの雨傘』を発表。64年カンヌ映画祭グランプリを受賞し、世界的に大ヒットし、主演のカトリーヌ・ドヌーヴもこの作品によって、一躍その美しさ、才能が知られるようになる。ついでドヌーヴとフランソワーズ・ドルレアックの姉妹主演の『ロシュフォールの恋人たち』(66)を監督。69年には初のアメリカでの作品『モデル・ショップ』を撮る。79年には池田理代子原作のコミック『ベルサイユのばら』を撮るが、フランスではいまだに未公開であり、幻の作品となっている。『都会のひと部屋』(82)ではあらたにドミニク・サンダをヒロインに迎え、故郷ナントを舞台にしたミュージカルを撮る。遺作となった『想い出のマルセイユ』では、長年ドゥミと仕事をしたいと切望していたイヴ・モンタンを主演に迎える。1990年10月27日、映画に包まれたその生涯を閉じる。享年59歳。

マチュー・オルレアン Matthieu Orléan
シネマテーク・フランセーズの企画協力者であり、これまでに2013年に大成功を収めたジャック・ドゥミ展のコミッショナーを務めたほか、「アルモドバル展」「デニス・ホッパーとアメリカン・ニューシネマ」展なども担当している。映画評論家として「ポール・ヴェキアリ、映画の家」(ロィユ社、2011年)を発表。


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