OUTSIDE IN TOKYO
TARO OKAMOTO INTERVIEW

イタリア映画祭の10年を振り返って
〜作品選定委員岡本太郎さんの21世紀ゼロ年代的イタリア映画ガイド〜

6. ゼロ年代のイタリア映画(暫定)ベスト5

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OUTSIDE IN TOKYO:2000年の10年をゼロ世代と言っていますが、ベスト10とかってどうでしょう?ちょっといきなりベスト10は無茶振りだと思いますので、まあ、何本かあげるとすると。
岡本太郎:去年だと、僕は『ソネタウラ〜』がものすごく好きだったんですけど、それからマッツァクラーティの『まなざしの長さをはかって』とエマヌエーレ・クリアレーゼ監督の『新世界』っていうのがありますね。
それから、『イル・ディーヴォ』はすごいけど『イル・ディーヴォ』より前の最初の『愛の果てへの旅』はやっぱりすごくいい映画だと思います。好きな映画ですね。それからソルディーニの『日々と雲行き』もいい映画だと思う。それからアンジェリーニの最初の作品ですね、『潮風に吹かれて』はぼろぼろ泣きましたね。

カルロ・マッツァクラーティ『まなざしの長さをはかって』(07)
エマヌエーレ・クリアレーゼ『新世界』(06)
パオロ・ソレンティーノ『愛の果てへの旅』(04)
アレッサンドロ・アンジェリーニ『潮風に吹かれて』(06)
シルヴィオ・ソルディーニ『日々と雲行き』(07)
 
OUTSIDE IN TOKYO:今、5本出ました。このセレクションでベストセレクションDVDとか。
岡本太郎:やりたいですけど、それやったら売れないです。
OUTSIDE IN TOKYO:相変わらずイタリアのイメージって、ちょっと極端かもしれないですけど、ベルルスコーニさんみたいな80年代的マッチョな人達が未だに結構多いのでしょうか?
岡本太郎:イタリアって結局、ファシズムがあってレジスタンスがあるわけですよね、だから両方あるんですよね、そこがおもしろいとこですよね、一つの国の中で。
ベルルスコーニみたいなどうしようもないのがいて、全然そうじゃない人間がいっぱいいますから。特に映画の関係者はもうみんな左なので。プーピ・アヴァーティとかゼフィレッリとかを別にすれば。だからまともな人間が多いですけどね。イタリアには、昔から社会派ってありますからね、意識が高いっていうか、すごく人間的な感じがしますよね。ロッセリーニもそうだったし。
OUTSIDE IN TOKYO:そうですね、ネオリアリズモも人間性とその土地の地域性だったり。
岡本太郎:だからその左翼っていっても政治的な部分よりも仲間意識、それも日本的につるむっていうんじゃなくて、友達同士の人間関係っていうのがすごく密ですよね。須賀さん(※)なんかがやっぱりイタリアに惹かれたのもそういう部分だと思うんですけど。聖フランチェスコの話とか、あれはほんとにコミュニティの話ですし。そういう感覚はすごくありますねイタリアは。フランチェスコはカトリックなわけですし、そこに繋がってるから不思議なわけですよね。左翼とキリスト教って相容れないように見えますけど、根っこの方では原始共産主義じゃないですけど、感覚的にはすごく近いものがあって、割と映画人ってそういう人が多いので、すごく仲間とか友達とか大事にする。
OUTSIDE IN TOKYO:最近の作品であからさまに宗教的なテーマの作品はありますか?アメリカ映画ですと、最近クリスチャニティがテーマ的に入ってる作品が結構多いなって感じてるんですけど、そういう感じじゃないんですね?
岡本太郎:うん、ないでしょうね。本だと一時期売れたスザンナ・タマーロの「心のおもむくままに」とか、カトリックって感じあるみたいですけど、僕があれ読んでもそういう風には思えないんですけど。
OUTSIDE IN TOKYO:やっぱり世代が若くなって、ことさら信仰的なことがテーマになるっていう映画はあまりないと。
岡本太郎:テーマにならないでしょ、やっぱりねぇ。なんか観たような気もしますけど。政治ものに関しても、今年のセレクションは政治の映画ってないですね。
OUTSIDE IN TOKYO:ベロッキオの『勝利を』は?
岡本太郎:ムッソリーニじゃなくて、ムッソリーニの愛人の話なので。ベロッキオは例えば『夜よ、こんにちは』にしても政治の話じゃないんですよね。政治そのものを映画で語るっていうのは、例えばナンニ・モレッティが『カイマーノ』を撮った時も、あれも政治の映画じゃないですから。人間の在り方とかそういう部分が主題。『勝利を』もムッソリーニがものすごく滑稽に見える。まあ風刺って言えなくもないんだけど。でも、『もうひとつの世界』はカトリックの話です。これは修道女の話だし。だけどそのキリスト教についての話じゃない。一つの生き方としてそういう道を選んだっていうことで。キリスト教がなんであるかとか、その道はどういうものなのかってっていうことを描いてるわけじゃない。職業の一つとしてって言うとちょっとあれですけど、そういう人間の在り方としてそういう道を選んだっていうだけなんです。

ナンニ・モレッティ『カイマーノ』(06)
エルマンノ・オルミ『ポー川のひかり』(06)
OUTSIDE IN TOKYO:じゃ、オルミの『ポー川のひかり』(※)なんかは珍しい。
岡本:あ、あれは明らかにカトリックですよね。珍しいですね。うん、そうかそれがあった。なんかあったなと思って。
OUTSIDE IN TOKYO:長時間になりましたが、ありがとうございました。

イタリア映画祭2010


■イタリア映画祭で上映された注目監督の作品

エマヌエーレ・クリアレーゼ監督
『グラツィアの島』(02)
『新世界』(06)

ナンニ・モレッティ監督
『カイマーノ』(06)

(※)須賀敦子
『ユスナールの靴』『ミラノ 霧の風景』『須賀敦子全集』など著書、翻訳書多数。イタリア文学者・翻訳者・随筆家として人気を博す。岡本太郎氏の恩師でもある。

エルマンノ・オルミ
 『ポー川のひかり』インタヴュー


『ポー川のひかり』レビュー
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