映画に(反)対して ギー・ドゥボール特集

ドゥボールが壁に書いた落書き「ne trqvavaillez jamais(決して働くな)」

ジャン=ポール・サルトルに学び、68年5月革命を予見した書物『スペクタクルの社会』を著した、フランスの映画作家・革命思想家ギー・ドゥボールの映画全6作品が日本で初めて特集上映される。スペクタクル(見せ物)的な社会に成り果てた消費社会の批判を基に、革新的な国際同盟(シチュアシオニスト・インターナショナル)を組織し、書物、映画、コラージュ作品、そして路上で思考を展開したドゥボールの思想は、21世紀という不透明な現代に生きる私たちにとって、ますます共感しやすいものになってきている。東京日仏学院と山形国際ドキュメンタリー映画祭が共催するこの特集上映では、レクチャーやシンポジウムも予定されている。せっかくのこの機会、「スペクタクルの社会」(ちくま学芸文庫)を読んでから臨みたいものだが、まずは、ドゥボールの映画だけでも見てみようという軽い気持ちで臨むのも良いかもしれない。
2009.10.6 update
Guy Debord ギー・ドゥボール
1931-94年。フランスの映画作家、革命思想家。52年に、最初の映画作品『サドのための絶叫』を発表。57年、シチュアシオニスト・インターナショナル(SI)を結成。67年に『スペクタクルの社会』を刊行し、68年「五月革命」の先駆者と目される。彼の活動は、映画制作、執筆にとどまらず、既存の広告、地図、小説、コミック雑誌の「転用」のみで成り立つ画文集など、境界を横断したさまざまな芸術表現に及ぶ。72年のSI解散後は、イタリア・スペインの革命運動と関わりつつ映画製作・著作活動を行うが、病を得て自殺。
山形国際ドキュメンタリー映画祭2009
2009年10月10日(土)・11日(日)・12日(月)
会場:山形市民会館 小ホール
お問い合わせ:
特定非営利活動法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局(山形事務局)(023-666-4480)e-mail: info@yidff.jp
東京事務局(03-5362-0672)e-mail: mail@tokyo.yidff.jp
入場条件、会場へのアクセスなどの詳細は以下のページをご覧ください。
http://www.yidff.jp

10月10日(土)
19:15
サドのための絶叫(1時間15分)
かなり短い時間単位内での何人かの人物の通過について(18分)
木下誠氏によるトークあり
10月11日(日)
19:00
分離の批判(19分)
スペクタクルの社会(1時間30分)
木下誠氏によるトークあり
10月12日(月・祝)
17:30
映画『スペクタクルの社会』に関してこれまでになされた毀誉褒貶相半ばする全評価に対する反駁(20分)
われわれは夜を彷徨い歩こう、そしてすべてが火で焼き尽くされんことを(1時間45分)
木下誠、ジャン=ピエール・レムによるトークあり
東京日仏学院エスパス・イマージュ
2009年10月17日(土)・10月18日(日)
開場:上映20分前
会員:1000円(『ギー・ドゥボール、その芸術とその時代』のみ、500円)
一般:1500円(『ギー・ドゥボール、その芸術とその時代』のみ、1000円)
お問い合わせ:東京日仏学院(03-5206-2500)
公式サイト:http://www.institut.jp

10月17日(土)
14:30
ギー・ドゥボール、その芸術とその時代(1時間)
16:00
サドのための絶叫(1時間15分)
<休憩>
かなり短い時間単位内での何人かの人物の通過について(18分)
分離の批判(19分)
上映後、木下誠氏によるレクチャーあり

10月18日(日)
13:30
スペクタクルの社会(1時間30分)
<休憩>
映画『スペクタクルの社会』に関してこれまでになされた毀誉褒貶相半ばする全評価に対する反駁(20分)
上映後、フィリップ・アズーリによりレクチャーあり
17:30
われわれは夜に彷徨い歩こう、そしてすべてが火で焼き尽くされんことを(1時間45分)
上映後、廣瀬純、藤原徹平、フィリップ・アズーリによるシンポジウムあり
※10月2日(金)より発売開始。当日は、初回の1時間前から、その日のすべての回のチケットを発売開始。(定員に及び次第締め切りとさせていただきます。)
※プログラムは都合により変更されることがありますのでご了承下さい。

上映作品
※詳細情報提供:東京日仏学院

Hurlements en faveur de Sade
(France / 1952 / 1h15min / Vidéo / N&B / VOSTJ)
『サドのための絶叫』
(フランス/1952年/75分/ビデオ(原版35mm)/モノクロ/日本語字幕付)
声:ジル・J・ヴォルマン、ギー・ドゥボール、セルジュ・ベルナ、バルバラ・ローゼンタール、イジドール・イズー

イジドール・イズーらのレトリスムの実験性に衝撃を受けたドゥボールが、そのアヴァンギャルド的な姿勢を明確に打ち出した最初の映画作品。「映像」を完全に欠き、白と黒の画面と、5名の男女によるナレーションのみで構成されていて、ラストの24分間は、サウンド・トラックもいっさい聞こえない完全に真っ黒なスクリーンへと至る。
「1952年、『サドのための絶叫』が撮られた年は、彼の詩、政治的展望、そしてその人生が完全に調和している時期だ。すべてがその実存のあるひとつの瞬間に混ざり合い、ドゥボールは絶えずこの時期を参照することになる」。(オリヴィエ・アサイヤス)
Sur le passage de quelques personnes à travers une assez courte unité de temps
(France / 1959 / 18min / 35mm / N&B / VOSTJ)
『かなり短い時間単位内での何人かの人物の通過について』
(フランス/1959年/18分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付)
声:ジャン・アルノワ、ギー・ドゥボール、クロード・ブラバン

レトリスト・インターナショナル(LI)からSIへ活動の拠点が移行していったドゥボールが、SIの運動の起源を示した作品。「漂流」や「逸脱」などの表現方法の創造、「状況」の構築の実践、都市計画についての考察、日常生活の完全なる解放、LI の機関誌「ポトラッチ」の発行など相次ぐ体験などで記憶され、幕を閉じた時代を総括するエッセイ。デンマーク人の画家でドゥボールの親しい友人だったアスガー・ヨルンが製作に参加している本作は、過ぎ去る時間の不可逆性や、映画によってあらゆる体験を伝えることは不可能だという確信と結び付いた深いメランコリーでおおわれている。
Critique de la séparation
(France / 1961 / 19min / 35mm / N&B / VOSTJ)
『分離の批判』
(フランス/1961年/19分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付)
声:カトリーヌ・リトゥネール、ギー・ドゥボール
出演:カトリーヌ・リトゥネール

漫画、新聞、雑誌、身分証明写真、ニュース映画などの引用と、ドゥボール自身のナレーションで大半が構成されている。「映像とコメントと字幕との関係は、補完的でも、無関係でもない。この関係そのものが批判的であることをねらっている」。「映画の機能は、劇作品であれドキュメンタリーであれ、孤立した偽の一貫性を、そこに存在しないコミュニケーションや活動に代わるものとして差し出すことである」(ドゥボール)。
La Société du spectacle
(France / 1973 / 1h30min./ 35mm / N&B / VOSTJ)
『スペクタクルの社会』
(フランス/1973年/90分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付)
声:ギー・ドゥボール

既存映画の転用において使用された作品:『リオ・グランデの砦』(ジョン・フォード)、『大砂塵』(ニコラス・レイ)、『上海ジェスチャー』(ジョセフ・フォン・スタンバーグ)、『壮烈第七騎兵隊』(ラオール・ウォルシュ)、『アーカディン/秘められた過去』(オーソン・ウェルズ)、『誰が為に鐘は鳴る』(サム・ウッド)、そのほか、「社会主義と称される国々の、幾人かの官僚的な映画作家による作品」。
「『スペクタクルの社会』は、1973年に上映されたが、その6 年前に書かれた同名の著作の中で展開されたテーマを映像で描きなおして見せたものではない。ドゥボールにとっては、彼が自身の規律として強制するために作品内に用いているスペクタクルと表現技術に対する戦いに再び挑み、それをよりラディカルにするものだった。(...)ドゥボールは、濫用という反美学主義(アンチ・エステティック)に忠実で、自分の目的を直接画像で示すことなく、ニュースや映画の抜粋や、政治家やカヴァーガール、海岸での休暇を楽しむ人々や、広告のイメージやその他のイメージを用いて表現する」。
ヴァンサン・カウフマン,「ギー・ドゥボール、ポエジーの使用法における革命」
Réfutation de tous les jugements, tant élogieux qu'hostiles, qui ont été jusqu'ici portés sur le film < La Société du spectacle >
(France / 1975 / 20min / 35mm / N&B / VOSTJ)
映画『スペクタクルの社会』関してこれまでになされた毀誉褒貶相半ばする全評価に対する反駁
(フランス/1975年/22分/35ミリ/日本語字幕付)
声:ギー・ドゥボール

1973年10月に完成した長編映画『スペクタクルの社会』は、翌年の5月に公開され、激しい反響を巻き起こす。自身の映画に関する批評に対して反論を行うため、ドゥボールはこの短編作品を製作する。「映画の専門家たちはそこには悪しき革命政治があると言い、人を欺くあらゆる左翼の政治家たちはこれを悪しき映画だと言った。しかし、革命的であると同時に映画作家であるとき、人は次のことを容易く証明することができる。彼らすべての辛辣さは、問題とする映画が彼らには打倒できない社会の正確な批判であり、彼らには作ることのできない最初の映画であるという明白な事実に由来しているのである」(ドゥボール)。
In girum imus nocte et consuminur igni
(France / 1978 / 1h45min / 35mm / N&B / VO)
『われわれは夜に彷徨い歩こう、そしてすべてが火で焼き尽くされんことを』
(フランス/1978年/105分/35ミリ/モノクロ/日本語字幕付)
声:ギー・ドゥボール

既存映画の転用において使用された作品:『赤い砂漠』(ミケランジェロ・アントニオーニ)、『悪魔が夜来る』(マルセル・カルネ)、『天井桟敷の人々』(マルセル・カルネ)、『オルフェ』(ジャン・コクトー)、『進め竜騎兵』(マイケル・カーティス)、『第三の男』(キャロル・リード)、『壮烈第七騎兵隊』(ラオール・ウォルシュ)ほか
「ギー・ドゥボールのすべての映画作品の中で、この作品が間違いなく、もっとも美しく、もっとも完成された作品であるといえるだろう。様々なフィクション映画の抜粋やニュースの断片、あらゆるところから集められたえ映像資料がぎっしりと織り成されている網目を通して、本作は、芸術性と政治性が分かちがたく結び付いているドゥボールにおいて、まさに遺言と言える作品であるだろう」(ティエリー・ジュス)。
Guy Debord, son art et son temps
(France / 1994 / 60min / DVD / N&B / VO)
『ギー・ドゥボール、その芸術とその時代』
(フランス/1994年/60分/DVD/モノクロ/無字幕)*上映前に作品解説配布
原案:ギー・ドゥボール
監督:ブリジット・コルナン

1994 年、「ギー・ドゥボール特別番組」を放映する機会に、フランスのテレビ局カナル・プリュスは、ブリジット・コルナンにギー・ドゥボールについてのドキュメンタリーを依頼する。コルナンはドゥボール自身が、すべての素材を提供するという条件で引き受ける。しかしアルコール性神経炎に苦しみ、あらゆる治療を拒否したドゥボールは、このドキュメンタリーが放映される前に、自ら命を絶ってしまう。

※本文中で使用したドゥボールの引用に関しては、木下誠氏の邦訳を随時参照し訳文を適宜変更させていただきました。

講演会・シンポジウム 出演者 プロフィール

Makoto Kinoshita
木下 誠


1956年生まれ。兵庫県立大学教授。翻訳:ドゥボール『スペクタクルの社会』(ちくま学芸文庫)、『映画に反対して』(現代思潮新社)など。
Jean-Pierre REHM
ジャン=ピエール・レム


1961年生まれ。マルセイユ国際ドキュメンタリー映画祭ディレクター。フランス文化省の映画教育プログラムに携わるほか、リヨン国立美術学校で教鞭を執る。『カイエ・デュ・シネマ』編集顧問を務め、映画・美術に関する精力的かつ広範な批評活動をも展開している。
Jun Hirose Fujita
廣瀬 純


1971年東京生まれ。龍谷大学経営学部フランス語専任講師。仏・映画研究誌「VERTIGO」編集委員。主な著書:『闘争の最小回路』(人文書院)、『シネキャピタル』(洛北出版)など。
Teppei Fujiwara
藤原 徹平


1975年横浜生まれ。建築家。隈研吾建築都市設計事務所設計室長、フジワラテッペイアーキテクツラボ代表。国境や文化圏、ジャンルを軽やかに横断しながら、生活の場を構築していくことをテーマにしている。
Philippe Azoury
フィリップ・アズーリ


1971年生まれ。フランス日刊紙「リベラシオン」で映画批評を寄稿。またカルチャー週刊誌「レ・ザンロキュプティーブル」にも定期的に寄稿。ジャン=マルク・ラランヌとの共著『ファントマ、近代的スタイル』(イエロー・ナウ社、2002年)、『ジャン・コクトー、無秩序』(カイエ・デュ・シネマ社、2003年)がある。
Masanori Oda
小田 マサノリ


1966年生まれ。元・現代美術家、アクティヴィスト、東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所特任研究員。中央大学文学部兼任講師。「鮮麗なる阿富汗」 (08年 AA研) 「好奇字展」「イルコモンズの回顧と展望(仮称)」展 (08年 大阪市立近代美術館) 「SIGNS OF CHANGE」(08年 EXIT ART)ほか。




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