第20回 カイエ・デュ・シネマ週間



現代映画と映画批評の最前線を疾走する『カイエ・デュ・シネマ週間』が、今年もアンスティチュ・フランセで開催される。第20回を迎える今回は、『湖の見知らぬ男』がカイエ・デュ・シネマ誌年間ベストテン第1位に選ばれるなど、批評家やジャン=リュック・ゴダールを初めとした多くの映画作家たちからも賞賛を浴びているアラン・ギロディをゲストに迎えて行われる特集上映とティーチイン、注目の若手作家アントナン・ペレジャトコの新作『ジャングルの掟』上映と批評家ジャン=フィリップ・テセを迎えて行われるシンポジウム、そしてこの20年間を振り返る特集上映に加えて、極めつけは、上映時間が12時間30分に及ぶジャック・リヴェット『アウト・ワン 我に触れるな』の記念碑的上映まで、映画史がリアルタイムで生起する、唯一無二のこの機会を是非、劇場で体験されたい。
(上原輝樹)
2017.3.30 update
2017年3月31日(金)~5月14日(日)
ゲスト:アラン・ギロディ(映画監督)、ジャン=フィリップ・テセ(「カイエ・デュ・シネマ」副編集長)、矢田部吉彦(東京国際映画祭プログラム・ディレクター)、大寺眞輔(映画批評、Indie Tokyo主宰)

会場:アンスティチュ・フランセ東京 エスパス・イマージュ
料金:一般1,200円、学生800円、会員500円
チケット販売時間:上映当日各回の1時間前から上映開始20分後まで。チケット販売時間内には、当日すべての回のチケットをご購入いただけます。
開場時間:各回20分前

※4月15日、16日の『アウト・ワン』に関しては以下の通り、チケット料金、販売時間、開場時間が通常と異なります。ご注意ください。
料金:4月15日、16日の通し券6,000円、一日券3,500円
チケット販売時間:両日とも10時30分~11時20分、13時~14時20分
開場時間:各回15分前

公式サイト:http://www.institutfrancais.jp/tokyo/events-manager/cinema1703310514/
上映スケジュール
3月31日(金)
12:50
ヒーローたちは不滅だ
(14分)
その時が来た
(83分)
15:30
朝までまっすぐに
(10分)
勇者に休息なし
(107分)

18:30
垂直のまま
(100分)
上映後:
トークショーあり
登壇者:アラン・ギロディ、ジャン=フィリップ・テセ、大寺眞輔




4月1日(土)
12:00
朝までまっすぐに
(10分)
キング・オブ・エスケープ
(93分)
14:50
貧者に注ぐ陽光
(55分)
動き出すかつての夢
(50分)
17:30
湖の見知らぬ男
(104分)
上映後:
アラン・ギロディによるティーチ・インあり
司会:矢田部吉彦





4月2日(日)
12:00
7月14日の娘
(88分)



14:30
すべてが許される
(105分)



17:20
ジャングルの掟
(99分)
上映後:
シンポジウム「『カイエ・デュシネマ』と批評の現在」あり
登壇者:ジャン=フィリップ・テセ、松井宏、坂本安美
4月7日(金)
16:30
ヒーローたちは不滅だ
(14分)
その時が来た
(83分)
19:00
貧者に注ぐ陽光
(55分)
動き出すかつての夢
(50分)
4月8日(土)
11:30
夢が作られる森
(146分)



14:50
クリーン
(110分)



17:30
ホーリー・モーターズ
(115分)








4月9日(日)
11:20
すべてが許される
(105分)



14:00
キングス&クイーン
(150分)


17:30
クリーン
(110分)









4月14日(金)
19:00
ホーリー・モーターズ
(115分)



4月15日(土)
11:30
アウト・ワン 我に触れるな
エピソード1:リリからトマへ

(90分)

14:00
アウト・ワン 我に触れるな
エピソード2:トマからフレデリックへ

(110分)
16:30
アウト・ワン 我に触れるな
エピソード3:フレデリックからサラへ

(108分)
19:00
アウト・ワン 我に触れるな
エピソード4:サラからコランへ

(106分)

4月16日(日)
11:30
アウト・ワン 我に触れるな
エピソード5:コランからポーリーヌへ

(89分)
14:00
アウト・ワン 我に触れるな
エピソード6:ポーリーヌからエミリーへ

(100分)
16:15
アウト・ワン 我に触れるな
エピソード7:エミリーからルーシーへ

(98分)
18:30
アウト・ワン 我に触れるな
エピソード8:ルーシーからマリーへ

(73分)
4月21日(金)
19:00
No Home Movie
(115分)



4月22日(土)
11:30
侵入者
(130分)




14:30
パリ18区、夜
(109分)




17:10
夢が作られる森
(146分)




4月23日(日)
12:00
ミシュカ
(116分)




14:50
No Home Movie
(115分)



17:30
ラバー
(85分)




5月6日(土)
12:00
ひめごと
(115分)

14:30
美しき仕事
(90分)
17:20
パリ18区、夜
(109分)

5月7日(日)
12:20
ヴァンサンには鱗がない
(78分)
14:30
ミシュカ
(116分)
17:20
ひめごと
(115分)

5月12日(金)
11:30
今は正しくあの時は間違い
(121分)
5月13日(土)
12:00
キングス&クイーン
(150分)
15:20
ラバー
(85分)
17:30
ヴァンサンには鱗がない
(78分)
5月14日(日)
11:30
今は正しくあの時は間違い
(121分)
14:20
侵入者
(130分)
17:20
美しき仕事
(90分)

 
*全席自由。整理番号順での入場とさせて頂きます。上映開始20分後の入場は、他のお客様へのご迷惑となりますので、固くお断りいたします。
上映プログラム

アラン・ギロディ特集

『ヒーローたちは不滅だ』(Les héros sont immortels)
フランス/1990年/14分/カラー/デジタル/無字幕・日本語同時通訳付
出演:アラン・ギロディ、ジャン=クロード・フニェ

夜、アヴェロンの村にある教会前で、ふたりの青年、バジルとイゴールは夜毎、彼を待っていた。彼とはしかし誰なのか?はたして三人目の登場人物は現れるのだろうか?アラン・ギロディの短編処女作で本人も俳優として出演している。
『朝までまっすぐに』(Tout droit jusqu'au matin)
フランス/1994年/10分/カラー/デジタル/無字幕・日本語同時通訳付
出演:ステファーヌ・ヴァルガリエ、ジャン=マリ・フェルテ、クリスティアン・デュカス

夜の街を放縦なペンキ塗りの行方を捜しながら、夜警の青年がモノローグしている。希望の持つ矛盾について探ったり、幸福とは、いい生活とは何か自問したり、新しい世代が同じ過ちを犯さないことを願う古い世代の逆説的な助言について語り続ける。
『貧者に注ぐ陽光』(Du soleil pour les gueux)
フランス/2001年/55分/カラー/35mm/英語字幕付
出演:イザベル・ジラルデ、アラン・ギロディ、ジャン=ポール・ジョルダ

ある夏の朝、失業中の美容師ナタリー・サンチェズは「ウナユの羊飼い」を探すために広大な高原にやって来る。ナタリーは「ウナユの羊飼い」ひとりジェマ・ガウダ・ロンに出会い、いなくなった羊を一緒に探しているうちに強盗のカロル・イズバとプル・オクサノザス・ダイに出会う。広大な自然の中、風変わりで魅力的な人物たちによってギリシャ神話と西部劇の間にあるような物語が展開する。
『動き出すかつての夢』(Ce vieux rêve qui bouge)
フランス/2001年/50分/カラー/デジタル/英語字幕付
出演:ピエール・ルイ=カリクト、ジャン=マリ・コンベル、ジャン・セガニ

フランス南西部の街アルビの外れにある工場はあと一週間で閉鎖されようとしていた。ほんの一握りの労働者たちが残り、週末が来るのを待ち望みながら、おしゃべりをしたり、ぶらぶら動き回ったりしている。技術者の若者が最後の機械の一台を解体しようとしている。打ち捨てられた場所、機械、人々の中で、ちょっとした調整、やり取りからなにかが動き出し、欲望、そして情熱が生まれる。ジャン・ヴィゴ賞受賞作品。
『勇者に休息なし』(Pas de repos pour les braves)
フランス=オーストリア/2003年/107分/カラー/35mm/日本語字幕付
出演:トマ・シュイール、トマ・ブランシャール、ローラン・ソフィアティ

東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

青年バジルは夢で「ファフタオ・ラポ」を見たことを語る。それは最後から二番目の眠りでその後に死が訪れる徴だという。お金がなく退屈している学生イゴール、ジャーナリストで探偵で(?)、かなりのごろつきジョニー。それぞれ境遇は違いながらも、ふたりはバジルの打ち明け話に強く惹きつけられ、姿を消してしまったバジルの行方を追うことに...。

「白昼夢のような映画を創り出すギロディは、故郷のフランス南西部の土地を、遊び心をもって映画的な場所へと変化させていく類まれな才能を持っている。」(ジャン=ミシェル・フロドン)
『その時が来た』(Voici venu le temps)
フランス/2005年/83分/カラー/デジタル/英語字幕付
出演:エリック・ブルニョン、ギヨーム・ヴィリ、ピエール・ルイ=カリクテ

その時が来た。オビタニの戦士たちは、我が物顔でプルプル山の羊飼いたちを支配する領主リクソ・ロマディ・ブロンの娘を誘拐した強盗マンジャス=ケビールを追跡すべく、再び警戒態勢に入る。しかし彼らは救出して報酬を得るか、虐げられている人々を開放するために戦うべきかで苦悩する......。

「夜の美しい待ち伏せシーンや祭のシーンがあるにしても、本作ではまずアクションよりも発せられる言葉たちが振動している。」(エマニュエル・ビュルドー)
『キング・オブ・エスケープ』(Le Roi de l'évasion)
フランス/2009年/93分/カラー/35ミリ/日本語字幕付
出演:リュドヴィック・ベルティヨ、アフシア・エルジ、ピエール・ロール

東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

43歳の農機具セールスマンアルマンは独身のゲイで、人生にうんざりしている。そんなある日、勇敢なる10代の少女カルリに出会う。ふたりはさまざまな人に追われ、あらゆる危険に抗いながらも、許されぬ愛を貫こうとする。しかし、これは本当にアルマンが夢見たことなのだろうか?カンヌ国際映画祭監督週間部門出品作品。

「『キング・オブ・エスケープ』を見終わった私たちは、あらゆる身体に欲望を感じるようになった不思議な気持ちで劇場を後にするだろう。」(ユジェニオ・レンジ)
『湖の見知らぬ男』(L'Inconnu du lac)
フランス/2013年/97分/カラー/デジタル/日本語字幕付
出演:ピエール・ドィラドンシャン、クリストフ・パウ、パトリック・ダスマサオ、ジェローム・シャパット、マチュー・ヴェルヴィッシュ

ある夏、湖の畔で、フランクはミシェルに恋をする。美しく、力強く、危険なミシェルに。ある殺人現場を目撃してしまったフランクは、ミシェルがこの事件に関わっているのでは?と疑問を抱きつつも、彼への情熱を生きようとするが...。2013年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門にて監督賞受賞。

「編集を抽象化し、視線や場所、距離の戯れを見せるその方法によって、ギロディはこれまでにない見事なデクパージュの技法に到達している。」(ジャン=セバスチャン・ショーヴァン)
最新作『垂直のまま』(Rester vertical)
フランス/2016年/100分/カラー/デジタル/日本語字幕付
出演:ダミアン・ボナール、インディア・エール、クリスティアン・ブイエット

脚本家のレオはフランス南西部ロゼールへの移動中、不思議な魅力を持つ青年ヨアンに出会う。彼はマルセルという老人と暮らしている。またレオは広大な高原で狼を探しているとき、羊飼いのマリーに出会う。二人の間に子供が生まれるが、マリーは自由奔放なレオを置いて家を出て行く。赤ん坊とふたりの暮らしを好みながらも、脚本は書けず、生活は貧窮する。レオはふたたび狼たちのいる高原に立っていた。

「『垂直のまま』の企てとは、人間の不可思議な関係性についての感触を拡散してみせることではないだろうか。『そう、愛は創り直されるべきなのだ』(ランボー)。しかしさらに先へ行くべきだ。もっと大きな何かを新たに生み出すべきなのだ、ギロディはそう言っている。男同士、男と女、人間と子供、人間と動物、そしてもっと広く、人間とプリミティヴなものとの間で。」(ジョアキム・ルパスティエ)

アラン・ギロディ Alain Guiraudie
1964年フランス中南部、ミディ・ピレネ地方に位置する大自然に囲まれたアヴェロン県のコミューン、ヴィルフランシュ=ド=ルエルグで生まれる。自らの生まれ故郷を舞台に、現代の西部劇、あるいは哲学的寓話とも言えるジャンルの間で、官能的で独創的な作品を発表し続けている。1990年代から短編映画を撮り始め、2001年には2本の中篇『貧者に注ぐ陽光』と『動き出すかつての夢』を発表、後者でジャン・ヴィゴ賞を受賞し、ジャン=リュック・ゴダールからも賛美の言葉を得る。2003年に初の長編『勇者に休息なし』で現実と夢が混在する幻想的な世界での冒険活劇を描き、カンヌ国際映画祭監督週間で上映され、これまでとは異なる作風の新しい世代の監督の誕生と話題になる。政治的ユートピア『その時が来た』(2005年)、中年のゲイと少女のロードムービ『キング・オブ・エスケープ』(2009年)と作品ごとにあらたなジャンル、ストーリーに挑んでいみ、後者は東京国際映画祭で上映される。2013年、カンヌ国際映画祭ある視点部門にて上映されたサスペンス的な要素もある『湖の見知らぬ男』が世界中で傑作と評され、セザール賞でも作品賞、監督賞を含む8部門でノミネート、『カイエ・デュ・シネマ』誌の年間ベストテンでも第1位に選ばれた。2016年、最新作の『垂直のまま』がカンヌ国際映画祭コンペ部門に出品される。前作の成功に甘んじることなく、あらゆるタブーから自由に解き放たれ、危険をおかしながらもゼロから自分の道を探す主人公が映画監督としてのギロディのあらたなる挑戦にもみえ、感動的だ。
20年間をふりかえって

『パリ18区、夜』(J'ai pas sommeil)
フランス/1994年/109分/カラー/35mm/日本語字幕付
監督:クレール・ドゥニ
出演:カテリーナ・ゴルベワ、ベアトリス・ダル、アレックス・デスカス

女優をめざしリトアニアからパリにやってきた若い娘ダイガは18区の安ホテルで清掃をしながら下宿することに。そのホテルにはカミーユというゲイの青年が愛人ラファエルと一緒に暮らしている。アフリカ系移民のカミーユは精悍な肉体を売り物にゲイ・クラブでダンサーをしている。やがて老女を狙った連続殺人事件の犠牲者が出る。昼も夜も休まずに人々が蠢いているパリ18区で様々な人生が交差する。
『美しき仕事』(Beau travail)
フランス/1999年/90分/カラー/35mm/英語字幕付
監督:クレール・ドゥニ
出演:ドゥニ・ラヴァン、ミシェル・スボール、グレゴワール・コラン

ジブチの湾岸では、外人部隊の小隊が道を補修し、訓練を重ねている。マルセイユでは、元准尉のガルーが彼の仲間たちと過ごした時間を回想していた。また、ガルーは若い兵士と共有することを耐えられなかった指揮官のことを思い返していた。無機質なアフリカの海岸の風景、目を眩ませるような光、灼熱の暑さの中で、有機物と無機物、抽象と具象が溶け合う。

「戦争についての映画を撮ろうとしたとき、それを戦闘的動きの緩慢なる変化としてのダンスを通して表現したいと思った。」クレール・ドゥニ
『ミシュカ』(Mischka)
フランス/2002年/116分/カラー/35mm/日本語字幕付
監督:ジャン=フランソワ・ステヴナン
出演:ジャン=ポール・ルシヨン、ジャン=フランソワ・ステヴナン、サロメ・ステヴナン、ジョニー・アリディ

東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品

夏のヴァカンス時期、サービスエリアでバスローブにスリッパの老人が置き去りにされていた。ホスピスで老人を迎えた看護人のジェジェーヌは彼を"ミシュカ"(クマちゃん)と呼び、5年間、音信不通の娘を遺書に訪ねる旅に連れ出す。そこに、幼い弟や家出娘、ミュージシャンが加わり、5人は海に向かって旅を続ける。トリュフォーやゴダール、リヴェットの助監督、そして俳優としても有名なステヴナンの3本目の監督作品。
『ひめごと』(Choses secrètes)
フランス/2002年/115分/カラー/35mm/日本語字幕付
監督:ジャン=クロード・ブリソー
出演:コラリー・ルヴェル、サブリナ・セヴク、ロジェ・ミルモン

美しいからだを持つが、世界の底辺に留まっていたふたりの若い女性サンドリーヌとナタリーはそのからだで世の中をひざまずかせようと決意する。そのために彼女たちはありとあらゆることをする。ただひとつ恋に落ちることを禁じて。しかし、ある男に近づいた時、ふたりのシナリオは破滅へと向かい始める......。

「私は、ヒッチコックと同様に、互いに矛盾する複数の要素が混在する中で観客の視線を導くようにしています。」(ジャン=クロード・ブリソー)
『侵入者』(L'Intrus)
2004年/フランス/130分/カラー/35mm/英語字幕
監督:クレール・ドゥニ
出演:ミシェル・シュボール、ベアトリス・ダル、グレゴワール・コラン、カテリーナ・ゴルベワ

ルイ・レボールはジュラ山脈に2匹の犬と暮らしている。看護婦の女性と関係を持ち、実の息子とは距離を取っている。心臓病を患っているルイは、スイスのジュネーヴで心臓移植の手術を受けた後、ある過去、そして失楽園を求めて韓国、オセアニアの島々へと旅立つ。哲学者ジャン=リュック・ナンシーの著作『侵入者――いま<生命>はどこに?』から着想を得ている。

「外国人、よそ者として生きること、そうしたストレンジネスが私の領域だとよく言われます。しかしナンシーの本に導かれて、さらに境界線を越えて、先に進み、航海に出ることができました。」(クレール・ドゥニ)
『クリーン』(Clean)
2004年/110分/35ミリ/カラー/35mm/日本語字幕付
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:マギー・チャン、ベアトリス・ダル、ジャンヌ・バリバール、ニック・ノルティー、トリッキー

ロック歌手の夫リーと各地を巡業するエミリー。ふたりにはジェイという幼い息子がいて、リーの両親に預けられている。ある日、リーがドラッグの過剰摂取で命を落とし、エミリーは刑務所に数ヶ月服役することに。息子を取り戻すため、エミリーは生活を立て直そうと決意する。マギー・チャンは本作でカンヌ映画祭最優秀女優受賞。

「映画はアイデンティティの探求のためのメディウムだ。私にとっての「物語」は、まさにそのことだけを語っている。この世界で、この人生で、そして様々な状況で、自己へと至る道をどのように作り出すか。」(オリヴィエ・アサイヤス)
『キングス&クイーン』(Rois et reines)
フランス/2004年/150分/カラー/35mm/日本語字幕付
監督:アルノー・デプレシャン
出演:マチュー・アマルリック、エマニュエル・ドゥヴォス、カトリーヌ・ドヌーヴ、モーリス・ガレル

光り輝く「クイーン」のようなノラは新しい結婚を前に幸福に包まれていたが、癌を宣告され、臨終を迎えようとする父の傍らで、過去の記憶や、亡霊たちに取り囲まれる。ノラの元夫、落ちぶれた「キング」でチェロ奏者のイズマエルは、精神病院に強制収容されてしまうが、そこで様々な人たちと出会い、その「休暇」を楽しく過ごす。別々に展開していたこのふたりのストーリーはやがて映画の中盤で交錯する。

「ノラの孤独をサスペンスに変えなければならない。」(アルノー・でデプレシャン、シナリオ執筆時の覚書より)
『すべてが許される』(Tout est pardonné)
フランス=オーストリア/2006年/105分/カラー/デジタル/英語字幕付
監督:ミア・ハンセン=ラヴ
出演:ポール・ブラン、コンスタンス・ルソー、マリークリスティーヌ・フリードリッヒ

17歳になったパメラは、パリで母と暮らしている。ある日、同じ街に幼い頃に別れた父が暮らしていることを知り、会いに行くことを決意する...。ミア・ハンセン=ラヴが、自伝的要素をもとに25歳の若さで撮った長編処女作。『女っ気なし』や『ダゲレオタイプの女』のコンスタンス・ルソーが映画初出演でフレッシュな魅力を放っている。

「歩き、話し、語り合い、囁き、ジグザグと歩くその方法において、本作はベルイマンやガレルといった巨匠たちに、気取ることないオマージュを捧げている。」(フィリップ・アズーリ「リベラシオン」)
『ラバー』(Rubber)
フランス/2010年/85分/デジタル/カラー/オリジナル英語版・日本語字幕
監督:カンタン・ドゥピュー
出演:ロクサーヌ・メスキダ、トーマス・F・デュフィ、ウィングス・ハウザー

カリフォルニアの砂漠の中、人々は、美しい娘に心惹かれるテレパシー能力を持った殺人タイヤの冒険という信じがたい状況を目にする。カンヌ国際映画祭批評家週間で上映され、アメリカ映画のB級映画的な面白さを持つフランス映画と大反響を生んだ作品。監督は、ミスターオワゾーというアーティスト・ネームで、フレンチ・エレクトロ・シーンを代表するクリエイターのカンタン・ドゥピュー。第27回東京国際映画祭にて「リアリティ」が上映され、映画監督としても着々とキャリアを築いている。
『ホーリー・モーターズ』(Holy Motors)
フランス/2012年/115分/カラー/デジタル/日本語字幕付
監督:レオス・カラックス
出演:ドゥニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、ミシェル・ピコリ、レオス・カラックス

夜明けから夜までの一日、オスカー氏は、ひとつの人生からもうひとつ人生へと旅を続ける。ある時は大企業の社長、またある時は殺人者、物乞い、怪物、そして父親へと...。仕草の美しさ、アクションの原動力、そして彼の人生に登場した女性や亡霊たちを求めて。

「ある種のSF映画を想像して作りました。そこでは人間、獣、機械がヴァーチャルなもの、つまり不可視なものが退廃した形態としてのヴァーチャルなものに支配された世界で連帯しています。」(レオス・カラックス)
『7月14日の娘』(La Fille du 14 juillet)
フランス/2013年/88分/カラー/デジタル/日本語字幕付
監督:アントナン・ペレジャトコ
出演:ヴィマラ・ポンス、ヴァンサン・マケーニュ

7月14日、 勤務先のルーブル美術館でトリュケットという娘に出会ってからというもの、エクトルの頭には彼女のことしかない。彼女を誘い、仲間たちといざ出発!海をめざしてフランスの田舎道を進むが、ほかに車はない...。というのも、世の中は経済危機のただ中だった!2013年カンヌ映画祭監督週間出品作品。

「本作は最近のフランス映画では放棄されていた領域に果敢に踏み込んでいる。それは非自然主義的コメディという領域である。」(シリル・ベガン)
新作セレクション

『ヴァンサンには鱗がない』(Vincent n'a pas d'écailles)
フランス/2014年/78分/デジタル/英語字幕
監督:トマ・サルヴァドール
出演:トマ・サルヴァドール、ヴィマラ・ポンス、ユセフ・ハジディ

ヴァンサンはスーパーパワーの持ち主だ。その能力とは彼が水に触れると肉体の力と思考力が超人的に増大するものだった。この自分の能力を存分に発揮するため、また喧騒を離れて穏やかに暮らすため、湖と川が豊かで静かな土地へと住み着いたヴァンサン。その地で偶然出会ったリュシーと恋に落ちるのだが...。

「トマ・サルヴァドールが撮ってきた短編作品は長い間、フランス映画の最も輝かしい希望のひとつだった。純粋な演出プランが素晴らしいこの初長編で、この希望の星はますます輝きを増している。」(フロランス・マイヤール)
『No Home Movie』
フランス、ベルギー/2015年/115分/デジタル/日本語字幕
監督:シャンタル・アケルマン

ポーランド系ユダヤ人である母ナタリーの日常が映しだされ、アウシュヴィッツの生活者であった母の記憶が語られていくアケルマンの遺作。さまざまなアプローチで女性を映しだしてきたアケルマンの原点となる母のポートレートであると同時に、自身の映画史の出発点を探るドキュメンタリー。

「この映画はまずなにより、私の母について、もうこの世にいない母についての映画です。1938年にポーランドから、つまりユダヤ人虐殺から逃れ、ベルギーにやって来たあの女性についての作品です。私たちがその女性を目にするのは彼女自身のアパルトマンの中だけです。ブリュッセルのアパルトマンです。そしてこの映画は変化する世界と、それを見ることがない私の母についての映画でもあります。」(シャンタル・アケルマン)
『夢が作られる森』(Le Bois dont les rêves sont faits)
フランス/2016年/146分/カラー/デジタル/英語字幕
監督:クレール・シモン

建物を見たりエンジン音を聞いたりすることに耐えられない...そんな都会にうんざりするような日がある。そういう時、人々は自然を思い出し、森に思いを馳せるものだ。歩道から小道を抜けて、さあ、到着!都会の喧騒から遠く離れた草原。よみがえってくるのは田舎、森、そして子ども時代。信じ、理解する。それは本物の幻想であり、手の届く範囲にある野生の世界。貧富や年齢、国籍、同性愛者か異性愛者か、流行りすたりも関係ない、全てに開かれた場所。再び発見されたパラダイス。不可能な事だと誰が言えるだろうか?
2016年のフランスのドキュメンタリー作品の中でも大変高い評価を得たクレール・シモンの7本目の長編作品。

「映画によって、また映画作家の明らかな寛大さによって引き起こされる深い感情を超えたところで、森の中の数々の出会いの可能性、富める者、貧しき者、白人、アラブ人、ヘテロセクシュアル、ホモセクシュアルなどの現実の中の強固な分断を乗り越えた本物の多様性を記憶に留めなければならない。」(ニコラ・エリオット)
『今は正しくあの時は間違い』(Un jour avec, un jour sans)
韓国/2015年/121分/カラー/デジタル/日本語字幕
監督:ホン・サンス
出演:チョン・ジェヨン、キム・ミニ

自作の上映会で講演するために水原(スウォン)に招かれた映画監督のハン・チュンス。一日早く現地に入ってしまった彼は王宮を観光しているときに、美術家のユン・ヒジョンと出会う。喫茶店で話が弾んだふたりは夕食をともにし、ほろ酔いのままヒジョンの仲間の溜まり場まで足を伸ばし、さらに親密になっていくが、彼はヒジョンに、全てを打ち明けていたわけではなかった...。ロカルノ国際映画祭2015で最高賞(金豹賞)と主演男優賞(チョン・ジェヨン)をダブル受賞。

「あらわになった日常にあるものの美しさと最も上品な意味でのアマチュアリズムの歓喜がある。」(ギャスパー・ネクトー)
『ジャングルの掟』(La Loi de la jungle)
フランス/2016年/99分/デジタル/日本語字幕
監督:アントナン・ペレジャトコ
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ヴィマラ・ポンス、パスカル・レジティミュス、マチュー・アマルリック

仏領ギニアの観光再開発のためアマゾン初のインドア・スキー場"ギュイアネージュ"が建設される。その現場にヨーロッパの基準を持ち込むべく、規範省のインターン、マルク・シャテーヌが派遣されてきた。災難に次ぐ災難。あてがわれた相棒はあいにくのセクシー美女。それよりもっとひどいのは、彼女がとんでもない頑固者なこと!

「ヴィマラ・ポンスとヴァンサン・マケーニュのカップルは、ペレジャトコがフランス映画の若手監督としてどれだけ重要であるかを明らかにしているだけでない。つまり、このカップルは、今日ではギロディと少数の監督のみが妬ましく感じるであろう、絶対自由主義的エロティシズム、と政治的ともいえる官能性の力を欲しいままに解放しているからだ。」(ヴァンサン・マロウサ)
特別上映

『アウト・ワン 我に触れるな』(Out 1:Noli me tangere)
フランス/1971年/8エピソード(12時間30分)/モノクロ、カラー/デジタル/日本語字幕付
監督:ジャック・リヴェット、スザンヌ・シフマン
出演:ジャン=ピエール・レオ、ジュリエット・ベルト、マイケル・ロンズデール、ベルナデット・ラフォン、ビュル・オジエ
原作:オノレ・ド・バルザック「十三人組物語」

1970年4月、パリ。4つの物語が交差する。2つのライバル劇団が、ギリシャの悲劇詩人アイスキュロスのテキストをどうにかこうにかアヴァンギャルドな方法で稽古している。一文無しの若い娘は金を巻き上げるため男たちの気を引こうとするが、状況は彼女の手に負えなくなる。また、耳が聞こえずしゃべる事もできない男は気がかりな匿名の手紙を受け取る...。そしてこの小さな世界の上を謎の秘密結社"十三人組"による脅威が漂っていた。誰が組織のメンバーで、誰が誰を操っているのだろうか?

「現代映画の歴史における重要な記念碑的作品である。」(エリック・ロメール)




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