OUTSIDE IN TOKYO
YOSHIGAI NAO INTERVIEW

2019年のカンヌ国際映画祭監督週間短編部門に正式招待された作品『Grand Bouquet』(2019)は、言葉の代わりに花を吐く女を通じて人間と自然が螺旋構造的に循環する、壮大な生命のサイクルを描いたSFアート・フィルムとでも呼びたくなるハイ・ブロウな作品だが、同年に制作された『Wheel Music』(2019)は、吉開菜央が自ら自転車に乗って、北千住の街を走り回る中で目についた日常の小さな喜劇や摩訶不思議な事態をさり気なく捉えた、親しみ易い日記映画であり、その一つ前の作品『梨君たまこと牙のゆくえ』(2018)は、ガールミーツガールの活劇である。その他、今回の特集上映で上映される3作品は、“呼吸する”家と少女たちの生命の交感を描くフェティッシュなファンタジー(『ほったまるびより』(2015))であったり、廃墟と化していく”家”のドキュメント(『静坐社』(2017))であったり、北海道の湖でダンサーの凛とした踊りと“水”の波動を捉えたMV的作品(『みずのきれいな湖に』(2017))であったり、それぞれの作品によって、そのスタイルは大きく異なる。

だからといって作家性や統一感がないということではなく、どの作品にも吉開菜央の呼吸が濃密に息づいている。自ら出演している作品に関しては言うまでもないが、そうではない作品の場合でも彼女の息吹がスクリーンに漂っているのである。『ほったまるびより』ならば、それは文字通り、彼女の呼吸音であったり、『静坐社』の場合は、『ほったまるびより』でも明らかだった”家”に対するフェティッシュな愛着であったり、『Grand Bouquet』なら、”言葉”ではなく”花”を吐くという主人公女性の人物設定そのものが既に吉開菜央自身を投影したものであったりするだろう。本インタヴューでも彼女自身が明かしている通り、吉開菜央が映画で表現しようとしているのは、言葉以前の、まだ名前がつけられていない感情なのだという。そうした曰く名状し難い”感情”が、多種多様の<ダンス>を通じて、 見る者の官能に直接的に訴えかけてくるのが、吉開作品の特徴であるとひとまずは言うことが出来るかもしれない。

今年の恵比寿映像祭で見た、ブラジルの映画作家アナ・バスは、カメラをぐるぐる回したり、逆さまにすることで、カメラを自分の身体の一部として扱う。アナ・バスは、私にとってカメラとはアニミズム的な存在であり、自分のカメラを通して見たものには命が吹き込まれる、つまり、ある物質を撮ればそれがアニメートする、生き物化する、と語ったのだが、吉開菜央の<映画>との距離感の”近さ”、というよりは<映画>との”一体感”とも言うべき距離感の無さにはアナ・バスと同種の新しさを感じる。吉開菜央の全6作品が上映される「吉開菜央特集:Dancing Films」は、当初4月に上映される予定だったが、コロナ禍の上映延期を受け、12月12日から25日まで渋谷ユーロスペースで連日上映されることになった。是非、この機会に映画のフロンティアを<ダンス>によって変容せしめる吉開菜央の作品群に触れて、<言葉>以前の名状し難い感情の現れを体感してほしい。

1. 『ほったまるびより』の音楽を作った柴田聡子さんは
  大学院の同期

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):今回、6作品拝見させていただいて、とても面白かったです。まず、『ほったまるびより』(2015)はどういう経緯で作られたのか、簡単に教えていただけますか?
吉開菜央:<ミュージック・ラボ>っていう映画監督と音楽家さんを掛け合わせて音楽映画を作ってコンペティションを開くという企画があって、当時のプロデューサー、鈴木徳至君にそれに出してみないかっていわれたことから始まりました。音楽は柴田聡子さん、私、大学院が同期だったんですけど、と組んでやってみたらいいんじゃないって。
OIT:それが映画作品としては一作目ですか?
吉開菜央:そうですね、劇場で公開されたのはこれが初めてです。
OIT:凄く独特な世界観というか、この日本家屋と、最初呼吸の音があったから、大林監督の『ハウス』(1977)みたいな映画なのかなと思って見始めましたが。
吉開菜央:あー、そんなんでしたっけ、大林さんの『ハウス』って観てるけど、そんなシーンあったかな。
OIT:家に襲われちゃうんですよね、女性達が。
吉開菜央:そうですね、完全に家が生きてましたね。
OIT:なのかなと思ったらそういう映画ではなく。”呼吸”は、その後の作品の中でも重要なモチーフとして結構出てきますが、吉開さん的に何かあるのでしょうか?
吉開菜央:映画に入れている呼吸の音、実は全部私の呼吸の音なんです。『ほったまるびより』の時は、本当に家も生きているっていう風に見せたかったので、最初に入れたんです。でも、見ている人たちに生きている感じが伝わったのかは、私自身半信半疑でした。でも『静坐社』(2017)であのお家に行って、いろいろ撮った後、編集している時に、凄くその感覚を出せる作品になるなって思って、呼吸音とか心臓の音とかを作ったりしていく内に、私はあんまり台詞を使って物語を展開させていかないので、”呼吸”っていうのは台詞の代わりのように、ひとつのフックになるなって思ったんです。
OIT:言語というか。
吉開菜央:そうです。いつも観る映画とは違い過ぎて、何も引っ掛かりがない人達にとって”呼吸”の音がすると、ふっと映画に入れるような気がして、そういう意味でも使ったりしてるのかなと思いますね。

『吉開菜央特集:Dancing Films』

12月12日(土)〜25日(金)、渋谷ユーロスペースにて連日上映!

監督:吉開菜央

『Grand Bouquet』
2019年/15分/2019年カンヌ国際映画祭 監督週間短編部門正式招待

『ほったまるびより』
2015年/37分/第19回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門新人賞

『静坐社』
2017年/12分

『梨君たまこと牙のゆくえ』
2018年/30分

『みずのきれいな湖に』
2017年/9分

『Wheel Music』
2019年/14分

『吉開菜央特集:Dancing Films』
オフィシャルサイト
https://naoyoshigai.com/dancing-films
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