OUTSIDE IN TOKYO
SATOKO YOKOHAMA INTERVIEW
オリヴィエ・アサイヤス オン 夏時間の庭

『ウルトラミラクルラブストーリー』。そんな不思議なタイトルの映画を撮ったのは、これまた変わったタイトル『ジャーマン+雨』で長編デビューを飾っている横浜聡子。いま最も期待される俳優の松山ケンイチに、麻生久美子が共演という、製作の規模としては前作から大きな飛躍を遂げながら、出身地の青森を舞台に、同じ出身地の俳優を起用して実現させた恋の物語は、東京からやってきた幼稚園の先生に恋焦がれるあまり、農薬をかぶって、“ふつう”になるよう、自らの改造を試みる、一風変わった地元青年の陽人を中心に進む。おじいちゃんが遺したノートを頼りに野菜を育てようとしながら失敗し続ける陽人は、おばあちゃんの作った野菜をトラックで移動販売するのを手伝っている。部屋は散らかり放題、その日の予定をホワイトボードに書き込まないと忘れてしまう彼の人生は、自分を裏切りながら事故で首を失って死んだカレシのことを青森の占い師に聞くためにやってきて幼稚園で働く町子先生に恋した瞬間から変わった。あの手この手で町子先生に好かれようとするあまり、彼がとったとんでもない行動とは?あまり多くは語らない方が映画を楽しめるはずなので、これ以上は明かさないでおくが、独自の論理で進む奇想天外な物語を映画化した横浜聡子がただものではないことは明らかだ。一見、感覚的で天然な物語と、ぶっきらぼうな話し方の裏に、確固たる拘りと論理が見え隠れする、そんな横浜監督の周辺がどんどんおもしろくなっていくに違いない。

1. 青森で映画を撮りたいというところからシナリオを書き進めた

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最初に映画のアイデアを思いついたのは?
まず青森の映画を撮りたいと思ったのが最初です。今もおばあちゃんの家があって、誰も住んでいない空き家なんですけど、そこへ散歩に行ってぷらぷらしている時に、自分で携帯ムービーのようなものを撮って友だちに送ったんです。それを友だちがおもしろがってくれて。基本は景色だけで、人がたまに入ってる程度なんですけど、改めて見たら、この風景を映画にしたらすごくおもしろそうだなと思ったんです。家の形ひとつとっても、屋根の形がすごく変わってたりして。ただの住宅街でも、東京とか他の街とも違うし、海がどす黒いし、ぜんぜんきれいじゃなくて。演歌に出てきそうな海みたいに。そういう風景を映画にしたらおもしろそうという予感が始まりでした。それでとにかく、青森で映画を撮りたいというところからシナリオを書き進めた感じですね。

そこから登場人物にはどう辿り着いたのでしょう?
今まで恋の話をやったことがなかったので、男女の恋物語と脳みその話をやりたいと思ったんです。それとクスリの話がちょっと思い浮かんでいて。人がほとんどいないような青森のド田舎で、ひとりでクスリをやっているバカみたいな男のイメージが湧いたんです。でもクスリだと自分の脳の中が変わるだけで、周りは何も変化しないんだな、それじゃ、“つまんねーな”と思って(笑)。それでひとりの人間が別の生物になっちゃうような話を作れないかなって。それが段々と進化して、いつの間にかこういう形になっていたんです。

最初から主人公は男性だったんですか?
そうですね。今まで女性の話しかやったことがなかったので。なんだか自分を投影してしまうところがあって、逆に客観的に見られるように、自分と違う性別にしたんです。

最初からこれくらいの規模で撮りたいと思っていたのですか?
いや、ぜんぜん(笑)。こんなに大きくなるとは思ってもみなかったです。

前作くらいの規模ですか?
いや、前のよりもう少し(笑)。せめてスタッフにギャラを払えるくらい。(プロデューサーの)リトルモアの孫さんからお話をいただいていて、だいたいこれくらいの予算で、みたいな話はあったんですけど、最終的にもっと大きくなっていました。

アイデアが生まれた時は既に企画として進行することは決まっていたのですか?
シナリオを書けとずっと言われていて、早く書かなきゃとは思いながら、ちょうど2年前に書き始めて、こういうのを撮りたいって見せたんです。

(前作)『ジャーマン+雨』 が終わってどのくらいですか?
『ジャーマン+雨』が公開される前からちょっと考えてはいたんですけど、なかなか形にならなくて、公開が終わってそろそろ固めなければというところで初めてシナリオの形にしたんだと思います。

全体像は書き始めの頃から変わらなかったんですか?
基本的な大枠は、その時とだいたい変わってないんですけど、最初のシナリオは3時間くらいの尺があって。今より全然長くて、いろんな無駄なことも、登場人物もちょっと違ったりして、かなり変わりましたけど、基本的な話の流れは同じです。

主人公が「クスリをやってるだけじゃ、つまんねーな」というところから、(その対象が)農薬に変わったのは?
ファンタジーの要素というか、農薬なんてあり得ないことですけど、そういうものをどんどん取り込んでいったんです。クスリをやってるだけじゃふつうにあるかもしれないし(笑)。

リアルすぎるということ?
うーん、人がまったく想像しないようなものを取り入れて、その人が想像しないことの連続で映画が広がっていかないかなと思って。農業をやっていることはなんとなく頭にあったので、だったら農薬=ドラッグじゃないですけど、それを通して違う身体になる感じにしたらどうなるかと思って、書きながら進めていったんです。

書きながら、自分でちょっと笑いながら?
(笑)まあ、そうですね。でも書いている時は、いつも本当におもしろいのかどうかという自信はないので。まず自分が楽しい、自分にとって楽しいと思えることでも、人はどう思うんだろうというのも気になりますね。最初に自分が楽しいと思うことだけを書いてる気はします。

『ウルトラミラクルラブストーリー』

5月30日(土)より青森県内先行ロードショー
6月6日(土)よりユーロスペース、シネカノン有楽町2丁目、シネマート新宿ほかにて全国順次ロードショー

監督・脚本:横浜聡子
原作:横浜聡子「ウルトラミラクルラブストーリー」角川書店刊
プロデューサー:中野朝子、土井智生
撮影:近藤龍人
照明:藤井勇
録音:加藤大和
美術:杉本亮
装飾:酒井拓磨
編集:普嶋信一
衣裳:伊賀大介、荒木里江
ヘアメイク:清水ちえこ
音楽:大友良英
記録:奥定正掌
助監督:野尻克己
製作担当:福井一夫
エンディングテーマ:100s「そりゃそうだ」(FIVE D plus/avex entertainment Inc.)
出演:松山ケンイチ、麻生久美子、ノゾエ征爾、ARATA、藤田弓子、原田芳雄、渡辺美佐子

製作:「ウルトラミラクルラブストーリー」製作委員会
製作プロダクション:リトルモア、フィルムメイカーズ
協力:青森フィルムコミッション、青森市
支援:文化庁
配給・宣伝:リトルモア
配給協力:日活
宣伝協力:Lem
2009/日本/35mm/120分/アメリカンヴィスタ/カラー/DTSステレオ
© 2009『ウルトラミラクルラブストーリー』製作委員会

『ウルトラミラクルラブストーリー』
オフィシャルサイト
http://www.umls.jp/

『ウルトラミラクルラブストーリー』レビュー



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