OUTSIDE IN TOKYO
Yang Yonghi Interview

ヤン・ヨンヒ『かぞくのくに』インタヴュー

3. ずっと昔から、自分の家族が重荷だった。今は、負の遺産をネタにする感じ

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OIT:それは自分が見ていた記憶とも繋がっているのでしょうか。自分の記憶にある画と。
YY:いえ、スーツケースの部分は記憶でなく、こういう風に終わりたいという感じでしたね。どの街を歩いているか分からないけど、お兄ちゃんが行ってしまった後、家で泣いているシーンで終わりたくないというのはありました。どこか引きずっているけど、昨日までの彼女と違う、みたいな。それに日常から始まるシーンにしたいというのもあって。最近、外を歩いている人をふつうに見ていると、みんなリュックを背負ったり、スーツケースみたいなのを引きずって歩いているように見えるんです。つまり、みんな何かを背負って生きているじゃないですか。それで、この人はどんなことを背負ってるのかなと想像しながらスタバに座ってたりして(笑)。DVにあったことはないのか、親はどんな人だったんだろう、今どんな悩みを抱えているんだろうとか、色々と想像しながら見ているんです。そしてスーツケースがまさにそんな感じです。この一週間がなかったとしても、リエ(安藤サクラ)はもう何かを背負っているんだけど、このことがあった後は(なおさら)お兄ちゃんへの思いで包み込むというか。この後、二度と兄に会えなくなっても、死ぬまで兄は消えない訳だし、いくら父に反発しても家族(との縁)は切れない訳だし。家族がしんどいのはそこですよね。離婚は、離婚しちゃえばもう会わなくて済みますね。結局、血の繋がりというか、子供はそうはいかない。子供がいるとなかなか親同士も(縁が)切れないし、恋人同士なら別れてしまえば他人になれるけど、家族は離れても消えない。いや、相手が死んでも消えないんですよ。超面倒臭いというか、ウザいくらいつきまとってくるわけです。みんなそうなんですよ。家族って何だろうって。(私の場合)ずっと昔から、自分の家族が重荷だったので。なんでこんな家に生まれたんだろう、なんでうちの父ちゃんは焼肉屋にならなかったんだろう、同じ在日ならパチンコ屋くらいでよかったのに、とか(笑)。

OIT:それでもなお切れない…。
YY:そう。ましてや、お兄ちゃんが北(朝鮮)、平壌にいることがいつも面倒臭いと思っていたんです。こうやって今は入国禁止になってますが、兄貴は兄貴ですからね。今度いつ会えるか分かりませんが。さっぱり分かりませんけど。でも来月にも体制が変わるかもしれないし、私が生きているうちに何も起きないかもしれない。昔から、(私が)小学校の時から、3年後、5年後、10年後は統一するとか、韓国と行ったり来たりできるようになるとか、ずっと言われてきましたが、やっぱりあまり変わらないですよね。それこそ金日成が死んだ時は本当に変わると言われたけど(実際には)何も変わらなかった。何が起きても、何も起こらなくても、驚かないぐらいになってしまっている。でもどんな状況であれ、誰の前であれ、自分の発言は一貫したいので。今の時点でのうちの家族、うちの家族の特殊性とどこにでもいる親子関係。頑固な父がいて、その父に従って生きる子供、反発して生きる子供、反面教師として親を見る子供、反発を感じながら従う子もいる。そしてお母さんが子供と父親のブリッジとなって包み込んでいる。それがよくある家族の形だと思うんです。

OIT:そこまで面倒に思いながら、このテーマでずっと撮り続けているのはなぜでしょうね?
YY:今はうちの家族がおもしろいと思っています。もうね、負の遺産をネタにする感じです(笑)。自分が重荷だと思ってきたものを。そのまま向かってばかりいても疲れるからネタにしちゃえ、みたいなことかもしれないです。

OIT:でも、そろそろ違う題材でやりたいとは思いませんか?
YY:ええ、書きたい話はあります。でもやはり自分が一番詳しいテーマ、人たちというか、まあ、ディテールで描かないと書けないわけですからね。違うことをやりたいとか、同じことをやっているように見られたくないとかはないです。たとえば、戦場に行って、地球の裏側まで行ってネタを探すとか、そういうのはないです。今回は北から来て、また(北へ)帰る人の話ですが、たとえば、北から来て帰らない人の話もあるかもしれない。まあ脱北者の話は最近多いですけどね。舞台は東京でもソウルでもニューヨークでもいいと思うし、考えていることは2、3個あるんですけど、チャンスがあるかどうかは。この映画がちょっとはうまく行けばいいんですけどね。

OIT:今回フィクションで撮ってみて、手法的にはどちらが自分に合っていると思いますか?
YY:今、考えているのはフィクションですね。ドキュメンタリーはもう肩が凝ってダメだなー、自分でカメラもう持てないなーと思ったりして(笑)。

OIT:今回のヤン・イクチュンのキャラクターは、実際に彼のような人がいたわけじゃなく、創造というか、クリエーションですよね?
YY:(兄に)着いてくる、引率の担当者みたいな人はいたんですけどね。でもそこまでべったりの監視ではないです。日本の公安の方がどちらかと言うと(べったりです)。あんな(風に)、家の前に(車を)停めないですよ。あれは変です、確かに(笑)。

OIT:コーヒーを飲むシーンもフィクションということですよね?
YY:はい、あれはとても細かくイクチュンに注文しました。ああいう風に飲んでほしいと。

OIT:そうですよね。そういうところに、監督の北朝鮮に対する複雑な思いというか、なんかちょっと言ってやりたいというところが伝わってきました。あのコーヒーの飲み方とかから。
YY:監視人のヤンという人の設定ですよね。(彼が)どういう人か。

OIT:そういうカルチャーがあまりないというのをあそこで皮肉るというか。
YY:そうですね。皮肉でもあるし、ふつうにコーヒーをブラックで飲むってコーヒー豆が美味しいからですから、先進国の話ですよね。ましてや北朝鮮は最貧国だから。世界的にもブラックで飲む人はとても少ないし、いい豆を飲んでる人なんてほとんどいないので。一番いいホテルでさえ、出してる豆がマクドナルドの、今のマクドナルドのコーヒーぐらいだと思うんですけど。マクドナルドは、やっとコーヒーになりましたね。昔はブラックウォーターって呼んでたんですけど(笑)。


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