OUTSIDE IN TOKYO
Yang Yonghi Interview

ヤン・ヨンヒ『かぞくのくに』インタヴュー

2. 徹底的に一家族に集中して描いた方が普遍的な作品になるだろう

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OIT:それでもとても抑えた感じに見えましたが。
YY:言いたいことを遠慮することはなかったのですが、映画の色というか、タイプというか、表現方法としてはそうかもしれません。たとえば、大声で叫んだから大きく伝わるというものでもないと思うので、すごく音楽で盛り上げてがーっとくる映画ってなんだか引いてしまう(笑)。どちらかと言うと、お客さんがスクリーンに持っていかれるというより、お客さんが自分で想像力を働かせたり、気持ちが前のめりになるぐらいのものにしたい、というところがあって、それで説明はあまりしていないのはありますね。説明が多くて、「わかったわかった」という感じになるのもいやで。教育番組でもないし、何らかの問題を訴えるための作品でもないので。

OIT:感覚的には自分のパーソナルな物語がそのまま反映されているということですね。
YY:そうですね。

OIT:距離感を敢えて作ろうとか、そういうバランスの取り方は何か意図的に行われたことはありますか?
YY:なんか、距離感って意図的にできないものだと思うんです。でも後になって評論家とか観た方が、(映画に)接する方が、こういう距離感の取り方が上手いね、下手だね、いいねとか。それは相性でそう感じると思うんですけど、本人は無意識じゃないんでしょうか。それが画面から滲み出ているのか、それは私が一人一人の役者さんとどう距離感を保つとか、うちの家族とどう距離感を保つとか、そういうのって、こういう距離感を保ちたいからって、先にあって保てるものでもないような気がします。ずっと性懲りも無く向き合っているうちに、時間もたっぷり経って、自分も年をとり、でき得る、ある一定の距離ってあると思います。ですから、それは今の時点での私との距離ですね。十年後の私が同じテーマで撮っていたらまた違うと思うので。これが正しいかどうかは分からないですけど、なんとなくそういうことじゃないかと。

OIT:先ほど抑制という言葉を使ったように、たとえば、何か物語を、個人と普遍性というか、人に分かるような話とのバランスを、わりと作る時に考えることが多いと思うのですが、それでもあえて、パーソナルな視点ということでよろしいしょうか?
YY:普遍性のある作品にしたいとはいつも思っていて、ちょっと特殊な、北に家族がいても、マイノリティとして日本に暮らしている家族の話ですね。そこで、この家族を分かってもらう為にどういう説明が必要だろうって。あれこれ説明するよりも、徹底的に一家族に集中して描いた方が普遍的にいくだろうなというのは、ドキュメンタリー2本やりながら私がなんとか学んだことでもあり、私が実際に感じとったことなので、それは今後も変わらないでしょうね。説明すればするほど、訳が分からなくなるように、それはよく感じるんですよ、色々な映画を観ていて。まあ、ドキュメンタリーが多いんですけどね(笑)。このテーマを分からせよう、分かってもらおうみたいな感じに持っていくと、勉強にはなるけどつまらないと(笑)。それは一番聞きたくない感想ですよね。勉強になりましたというのは(笑)。まあ、もちろん観ていただくのは嬉しいですけど、勉強になったくらいならいいんでしょうけど。いやあ、勉強になりましたよって終わられると、何となくね。さっぱり分からないけど泣いちゃったって言われた方が嬉しい。笑いましたとか、ガツンと来ましたとか。なんか、忘れないとか、その日は疲れたとか、もう一本観る気が失せたとか、そっちの方で残ってほしいというのはありますね。

OIT:物語だと特にそうですよね。物語を観て勉強になったと言われてもね。
YY:(笑)映画を観て、確かに勉強にもなるとは思うんですけど。

OIT:この映画の入り方ですが、まず家族が待っているわけですよね。その(導入は)最初から決められていたのですか?最初にどのような画から撮ろうと意識していたのでしょう。
YY:電話を待っている画と、最後はスーツケース、というのが何となくあって、何度書き直してもそれは残りましたね。どうよって言われてもそこは何となく。なぜか分からないけどありましたね。ドキュメンタリーって、撮った後で編集するのは一緒ですけど、撮った後で編集段階になって、ある程度仮編集くらいまでできて、やっと台本を書けるじゃないですか。テレビのドキュメンタリーは先に台本や企画書を出せとか言われるので。まあ、私はできないんですけど(笑)。だいたい画を全部ラッシュで見て、バンバン切っていって、何百時間とか何十時間とかあるのを、3時間、4時間とか、まあ、目標は2時間以内だとしても、4、5時間くらいになってきて、段々と台本が書けるようになってくると思うんです。それでもっとその台本を突き詰めて、まあ、映画だと台本が先にあって撮りますよね、台本が先にあって撮るんだけど、どっちにしても台本を書く時点で、最初のシーンと最後のシーンだけぽーんと、なんとなく決まるんです。そこは一回決めたら変えたくないってことではないんですけど。(いえ、)いくら変えてもいいと思うんですけど、(それでも)戻ってしまうんですよね、そこはおもしろいと思いますね。だから、今後は分からないですけど、まあ、今回はそうで、色々試行錯誤して撮ったという感じです。


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