OUTSIDE IN TOKYO
YOKO YAMANAKA INTERVIEW

山中瑶子『あみこ』インタヴュー

6. 映画を一本撮ったことで、内側ばかりに向いていた意識がやっと外に向いて、
 明らかに視野が広がりました。

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OIT:人間関係、恋愛っていうのは普通だと思いますが、そこで”政治”っていうのが面白いな(笑)と思ったんです。
山中瑶子:なんでそう書いたのか覚えてないですが(笑)。
OIT:今の日本の映画で10代、20代の人たちを描いた映画では、”政治”という言葉すら出てこない映画がほとんどではないかと思います。
山中瑶子:そうですか?この1年間でかなり政治については考えるようになりましたね。『あみこ』を作っていた当時は、本当にもう政治とか、自分の生まれた国のことなんてどうでも良かったし、”わたしと目の前のあなた”っていう、その関係性だけを、生活の中で重視していたんですけど。この一年でさまざまな国の映画祭に行くことができて、海外の映画祭って実際のところはどうかわからないんですけど、社会的なテーマ性が描かれていないと、というのがあるじゃないですか。実際に映画祭で見た映画はどれも自国に対して批評的な視点がある。食事会での話題もそうですね、当たり前に日本のジェンダー意識や政治についての質問をされる。自分の意識の足りなさに普通に恥ずかしくなったんです。わたしはここに居ていいのかと。映画を一本撮ったことで、内側ばかりに向いていた意識がやっと外に向いて、明らかに視野が広がって、政治にも関心が湧くようになってきた1年間でしたね。
OIT:その時は、何よりもまず映画を撮りたいから他のことにかまけている余裕がない、という感じだったのですかね。
山中瑶子:それもありますし、”社会はしんどいのが当たり前だ”、とずっと思っていたので、首相なんて誰がなったって変わらないし、日本で革命は起きないから考えても仕方がない。と思っていましたね。でも目の前のあなたと楽しく居たいから、しんどい社会なんて当然嫌だし、”しんどい社会でもあなたといれば乗り越えられる”みたいなのはおかしいと思います。そういうキャッチコピー多いですよね。しんどい前提の。
OIT:ベルリン国際映画祭というのは、とりわけ社会性の強い映画が集まる映画祭ですけれども、ベルリンでは、”あみこ”の反抗的な目線というか、彼女の目つきに対する反応はあったのでしょうか?少女が盲目的に突っ走る物語という点だけではなく、社会へのアンチな姿勢に対する反応といいますか。
山中瑶子:そうですね、ベルリンだけではなくどこの映画祭に行っても、そういう声はありますね。「日本の女性って、男性の後ろに慎ましく控えている印象があって、そもそも”あみこ”のような言動をするイメージがなかったけど、最近はそうではなくなったのか?」ということを聞かれたりしました。
OIT:それが新鮮に見えたということでしょうね。
山中瑶子:そうですね、あみこが制服を着ているというところもあったと思います。ステレオタイプな日本の女子高生像ではないですからね。
OIT:他にはどのような反応がありましたか?
山中瑶子:ヨーロッパや北米・南米の映画祭の方が、アジアの映画祭の観客よりも、映画を見て受け取ったことを素直に伝えてくれるという印象ですね。反応がヴィヴィットでわかりやすくて、日本の女子高生の話なのに、若い人の感覚として通じるものがあるし、こんなに共有できる哲学があるのは驚きだったという反応が結構あります。逆に韓国とか中国の映画祭では反応がちょっとわかりにくかったですね。ただ「自分も映画を撮っているんだけど、学校の言うことを聞いて納得できないことも多かったけど、もっと好きなように撮ってみようと思った」と、映画を志している若者たちが声をかけてくれることはどこの国でもありました。

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