OUTSIDE IN TOKYO
SPIKE LEE INTERVIEW

スパイク・リー『セントアンナの奇跡』オフィシャル・インタヴュー

スパイク・リーは、1986年に自主製作映画『シーズ・ガッタ・ハヴ・イット』でステレオタイプを否定したポストモダンな黒人像を示し、アメリカ国内で物議を醸して以来、『ドゥ・ザ・ライト・シング』『ジャングル・フィーバー』『マルコムX』と映画を通じて、賛否両論を巻き起こしながらホワイト・アメリカに対して異議申し立てを続けて来た。そのコアな部分は変わらずに、『クロッカーズ』『サマー・オブ・サム』『25時』『インサイド・マン』といったジャンル映画的な傑作を次々に生み出し、今や巨匠の風格すら漂い始めるスパイク・リー監督通算20作目の長編劇映画『セントアンナの奇跡』がこの夏公開される。『セントアンナの奇跡』は、実在した黒人兵部隊”バッファロー・ソルジャー”のイタリアにおけるナチスとの戦闘を描きながら、ネオレアリズモ映画で描かれた対ドイツのレジスタンス活動といった複雑な内乱状態も描き、映画のタイトルになっている幾つかの謎めいた”奇跡”と実際に起きた教会での”虐殺”といった悲痛な史実も交え、幾層にも物語が交錯するスケールの大きなヘビィー級のヒューマン・ドラマに結実した。ここに、スパイク・リー監督のオフィシャル・インタヴューを、”バッファロー・ソルジャー”を演じた役者たちのコメントと併せて掲載します。


なぜこの作品を手がけようと思ったのですか?
ジェームズ・マクブライドが、さまざまなストーリーを織り交ぜた素晴らしい本を書いたんだ。ぼくたちは、これが92歩兵部隊のバッファロー・ソルジャーについてだけの映画ではないと信じている。当時イタリアで起きていたさまざまな問題、自由を望む市民と、ムッソリーニのファシスト政権下にいたいと思う市民の間に起きた内乱なども描いている。また、ぼくとジェームズは、ナチのキャラクターを、出来るだけ多面的なものにしたいと思っていたんだ。

イタリアでの撮影はいかがでしたか?
撮影中に年老いたイタリア人が何度もぼくのところにやって来たんだ。彼らは第二次世界大戦のときはまだ子供で、セント・アナの虐殺の生き残りだった。一人の年老いた女性が「バッファロー・ソルジャーのおかげで私は生き残ったの」と話しかけてきた。第二次世界大戦中、幼い彼女は死にかけたそうだ。それで彼女の母親がバッファローソルジャーの基地に彼女を連れて行き、黒人の医者がペニシリンを注射して助かったんだ。彼女は話しながらぼくの目の前で泣き出したんだよ。そういう話を聞くとこれは本当に起きたことだと実感できた。1944年8月12日、ナチの16部隊が無実の560人のイタリア市民を虐殺した。彼らの大半は年寄りや女性、子供たちだった。まさにそれが起きた場所でぼくたちは2日間撮影したんだ。キャストやスタッフ全員が、虐殺された560人のスピリットとソウルを感じることが出来たよ。だから、ぼくはインスパイアーされずにはいれなかった。これをちゃんと描く義務があると背中を押されたよ。

撮影で苦労したことは何ですか?
最初の頃心配していたのは言葉の問題だった。ぼくはイタリア語を話せないからね。「バイバイバイ」「アタックル、アタックル」くらいしか話せない。イタリア人のスタッフが質問してくると、何か訊いていることはわかる。そしてぼくの答えはいつも「デュエ」だったんだ。「2つ」という意味なんだけど、なぜかいつもそれでうまくいったんだよ。「デュエ!」ってね(笑)。ぼくはイタリア語もドイツ語も話せないけど、言葉が壁にはならないということがわかったよ。多くの障害や境界は自分で自分に押し付けてしまうものだということに気づいたんだ。目からうろこが落ちる経験だったよ。スタッフは95%がイタリア人。でも、ぼくたちはコミュニケートすることができたんだ。

もっとも大きなチャレンジは何でしたか?
素晴らしいカメラマンにエディター、キャストが集められたから、この映画を作れるという自信はあった。でも、一つのワイルド・カードは子供だった。それで眠れぬ夜を過ごしたよ。フローレンスでオーディションをしたら5千人の子供がやってきた。全員に会ったわけじゃないけど100人以上に会ったよ。マテオは演技経験はなかったけど、この役を演じるのに必要な顔、知性、イノセンスを持っていた。ジェイムズが書いた脚本は、イタリアのネオリアリズムを彷彿させた。ロッセリーニやデシーカの映画みたいにね。「自転車泥棒」も主人公は子供で、戦争が子供たちにどういう影響を与えたかが描かれていた。マテオは「自転車泥棒」の子供のように素晴らしいよ。

アメリカが初のアフリカ系アメリカ人の大統領を迎えようとしていることとこの作品には何か関係があると思いますか?
あると思うよ。映画の中で二人の兵士がアメリカへの愛国心について議論するシーンがある。デレク(・ルーク)が演じるスタンプは「おれは子供や孫のために戦っているんだ」と言う。そういった長期的な見方が必要なんだ。バッファロー・ソルジャーは、バラク・オバマへとつながっていった進化の一部だよ。キング牧師やジョン・F・ケネディ、マルコムとリストは延々と続く。それはホープだ。ぼくたちの祖先が持っていたのと同じホープだよ。彼らは奴隷だったけど、教会に行ってニグロのスピリチュアルを歌い、いつか約束の地に行き着けるようにと祈った。ぼくの祖母の母は奴隷として生まれたけど、祖母は大学を卒業して100歳になった。そして、ぼくをモアハウス大学とニューヨーク大学に行かせてくれたんだ。彼女はアフリカ系アメリカ人が大統領になるなんてことは考えたことさえなかったよ。それはこの国が大きく動いていることを示している。今は祖父母や両親と同じ考えを持たないアメリカ人がたくさんいる。白人のキッズが買う音楽の80%はヒップホップなんだ。それは物事の見方を完全に変えてしまう。彼らはオバマのキャンペーンの大きな部分を占めた。この映画はまさにそこにピッタリとはまるんだ。ホープと、この国の創始者たちがやろうとしていたことをついに達成しようとしているこの国の可能性という意味でね。




“バッファロー・ソルジャー”が語るスパイク・リー

■ラズ・アロンソ(ヘクター・ネグロン)
撮影現場のスパイクはパワフルだ。監督は誰か、一目瞭然さ。手が汚れようと、足が汚れようと構わない。最初の10日間はセルキオ川で撮影した。モニターの設置場所から演出する監督はたくさんいる。心地いい暖房つきのテントからちょっと出て演出し、またそこに戻る。スパイクは川の中にいたよ。10〜12時間、川の中で過ごした。まさに僕らの真横にいたんだ。彼は他人に頼らず、自分ではっきり指示する。実践型の監督だ。でも同時に、任せきりにはしないが、俳優の選択も尊重してくれる。

■マイケル・イーリー(ビショップ・カミングス)
スパイクとの仕事で学んだことは、ほかの監督たちとの経験とはまったく違うことだ。監督はチームプレーを大事にする。まるでバスケットのコーチみたいなんだ。俳優はベンチに控えている。でもいつ「試合に入れ」と言われるか、わからない。だから常に、準備万端じゃなきゃいけない。いつ「お前の番だ」と言われるか、わからないんだ。つまり、とてもチーム的なアプローチの仕方だ。だから全然違う。でも僕はスポーツが大好きだから、理解できるよ。それに俳優にしっかり準備させるけれど、“アクション”と“カット”の間は口を出さないところが凄いと思うね。

『セントアンナの奇跡』
原題:Miracle at St. Anna

7月25日(土)、TOHOシネマズ シャンテ、テアトルタイムズスクエア他にて全国ロードショー

監督:スパイク・リー
原作・脚本:ジェームズ・マクブライド(原作本「Miracle at St. Anna」)
製作:ロベルト・チクット、ルイジ・ムジーニ、スパイク・リー
製作総指揮:マルコ・ヴァレリオ・プジーニ、ジョン・キリク
撮影:マシュー・リバティーク、A.S.C.
美術:トニーノ・ゼッラ
編集:バリー・アレクサンダー・ブラウン
衣装:カルロ・ポッジョリ
音楽:テレンス・ブランチャード
出演:デレク・ルーク、マイケル・イーリー、ラズ・アロンソ、オマー・ベンソン・ミラー、マッテオ・シャボルディ、ルイジ・ロ・カーショ、レオナルド・ボルツォナスカ、ヴァレンティナ・チェルヴィ、ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、セルジオ・アルベッリ、オメロ・アントヌッティ、リディア・ビオンディ、ウォルトン・ゴギンズ、トリー・キトルズ、D・B・スウィーニー、ロパート・ジョン・バーク、ヤン・ポール、アレクサンドラ・マリア・ララ、クリスチャン・ベルケル、ケリー・ワシントン、リーランド・ガント、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ジョン・タトゥーロ、ジョン・レグイザモ

2008年/アメリカ・イタリア/英語・イタリア語・ドイツ語/カラー/スコープサイズ/DTS・SRD・SR/163分
配給:ショウゲート

写真:© 2008 (Buffalo Soldiers and On My Own Produzione Cinematografiche)- All Rights Reserved.

『セントアンナの奇跡』
オフィシャルサイト
http://www.stanna-kiseki.jp/

『セントアンナの奇跡』レビュー