OUTSIDE IN TOKYO
SONO SION INTERVIEW

地面が揺れる。大きく揺れる。ものは倒れているが、無事だったことを確認する。家族も無事だったことを確認する。外を見る。風景は大きく変わらない。どこかから防災ラジオを出し、耳を傾ける。地震が起きたことを知り、津波を知る。発電所に問題があったことを知る。外は何も変わらず、いつも以上に静かだ。だがやがて、非難勧告が出る。向かいの家がバスに乗せられる。そして自分の家との間に柵ができる。そこが20キロ圏内と圏外と隔てる線だという。その先は避難地域でこちら側は違う。

それが福島で実際に起きたことだという。ばかばかしくも、事実だ。ばかばかしくも、深刻だ。空気は繋がっているのに、家の目の前で区切られた境界線。『ヒミズ』で震災を撮り、実際に現地で撮影を敢行した園子温監督は、さらに福島原発の状況を描かざるを得なくなったという。凄惨な状況を前にし、心を揺さぶられ、それを前にしながら、それを感じずに、描かずにはいられない。そうして誕生したのが『希望の国』。それ以上ないくらいストレートな、目の前の脅威に揺さぶられ、大なり小なり、今も多くの人が影響を受ける、放射能の影響を描いた映画だ。実際に家のそばを20キロ圏の境界にされた家族に話を聞き、状況を多少は強調しながら、ある家族がその状況で体験し得る時間軸を追っていく。ドキュメンタリーではなく、あくまでフィクションとして。

二世代の家族が体験し、受け身だった人も、受け止めざるを得ない現実に対処していく。不条理な状況に戸惑い、苛立ち、諦め、その中でも希望を見出していけるのか、が問われる。

そうして園子温監督に話を伺った。

繰り返すようだが、この映画は限りなくストレートだ。それは、これを伝えなければいけないという監督の気持ちではないかと思う。その状況をできるだけ早く出すことが大事なのかもしれない。最悪な状況の中に美しさを表現しているかもしれない。逆に、後になって陳腐になるということは事態が好転したことを意味するかもしれない(はたしてそんな状況が来るのかも分からないが)。

そんな監督は現在も東北でカメラを回し続けているという。おそらく、そこから何が見えてくるか分からないまま、刻々と変化する、または変化しない状況と向き合い、風景を捉えているのだろう。風景は変わっていく。

監督が、「作品以前の話でとにかく作る必要があった」と語る『希望の国』は様々な反応を呼ぶだろう。体験した人にはつらいだけかもしれないし、理解されない自分たちの何かが代弁されているかもしれない。直接的に体験していない人には、その体験を感じ取り、また、それを実際に体験したような、ロールプレイングのような感覚で自分の選択肢を判断するきっかけになるかもしれない。それがこの映画のストレートさの意義かもしれない、僕は思う。そして皮肉にも、状況はあまり変わっていない。

1. 早く撮って、早く公開しなければいけない、作品以前の話でとにかく作る必要があった

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OUTSIDE IN TOKYO:『希望の国』を始めた時の感覚をもう一回振り返ってみて頂いてよろしいですか?
園子温:『ヒミズ』(12)が当初、原作に忠実に描くつもりだったのにも関わらず、台本書いてる時に3月11日が起こって避けては通れなくなったんです。原作は2001年の原作で2001年の青春物語だったんです。それが、3月11日を通さないと2001年から2011年までは何もなかったっていうことに僕の中でどうしても嫌だったので、2011年型の『ヒミズ』でいこうと、急遽台本を変えた。それと同時に『ヒミズ』だけでは終われないなと思ったんです。3月11日のはもう撮ったから次行きますっていうのは、どうしても納得できなかった。もしも『ヒミズ』を撮ってなかったら、僕は今もずっとやってないと。だから『希望の国』は『ヒミズ』を撮ったことによって、ここの問題に片足突っ込んで、その後もう一回やらないでは元々の『ヒミズ』も駄目になると。それをお前心してかかったつもりだったら、そういう風にしなきゃいけないっていうのがあって、それでこの映画を撮ったんです。

OIT:今回、凄くストレートに扱ってますよね。
園子温:はい。何かの物語に絡めての3月11日じゃなくて、そのもので今回は行きたかったし、目的は一つしかなくて、今年の1月にこれを撮った時に、もうどんどん原発問題は風化するんじゃないかと僕は危惧してたんです。実際はそうはならずに、再稼働問題でまた盛り上がってはいるんですけど、当時は早いことこういう映画を撮って危機感を持続させてかなきゃいけない、原発問題っていうのは忘れる問題ではないから、その為にも一石投じる、映画界からも援護射撃しないと、とにかくこっちからも撃っていかなくてはという気持ちで撮ったんです。だから早く撮って、早く公開しなければいけない、作品以前の話でとにかく作る必要があったんです。

OIT:ある事件があった後にフィクションを撮る、作る、書くっていう作業に入るのに、時間がかかるってよく言う人がいますよね、そういう意見は結構多いと思うんですけど、それに対しては躊躇はなかったですか?
園子温:長くなれば長くなるほど、語るべきことがたくさん出てくるけど、3月11日から一ヶ月以内の話なので、そのことを取材するのはそれほど難儀ではない。だから福島に出かけて、色んな街、いわきや南相馬や双葉の避難された人々の所に行ってそこの人達に、その時あなたは何をしてた、そして一ヶ月どうだったっていうことを聞く。その時、今どうだっていう話はしない、そこまでやるとまとまらなくなるから、この『希望の国』は3月11日からぎりぎり一ヶ月くらいまでの間に絞ったんです。難点は一個に絞るのが嫌になってくるということです。例えば南相馬だと南相馬の話になる、双葉だと双葉の話だけになってしまう。一個だけにするとどうしてもこぼれ落ちて、実録としておかしくなる。だったらどうしたらいいんだろうと。その時に無い街の名前にすればなんとかなるっていう発想が生まれて、長島県というネーミングが出来たんだけど、元々は実際の福島でその時何が起きたかっていう映画にしようとはしてたんですよ。

『希望の国』

10月20日(土)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

監督・脚本:園子温
撮影:御木茂則
照明:松隈信一
美術:松塚隆史
録音:小宮元
編集:伊藤潤一
出演:夏八木勲、 大谷直子、 村上淳、 神楽坂恵、 清水優、 梶原ひかり、 筒井真理子、 でんでん、 菅原大吉、 山中崇、 河原崎建三

© The Land of Hope Film Partners

2012年/日本、イギリス、台湾/133分/カラー/ヴィスタ
配給:ビターズ・エンド

『希望の国』
オフィシャルサイト
http://www.kibounokuni.jp/
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