OUTSIDE IN TOKYO
Rebecca Zlotowski INTERVIEW

レベッカ・ズロトヴスキ『美しき棘』インタヴュー

3. 最初に観た日本映画は北野武監督の『HANABI』、
 その後、古い映画も観るようになって小津安二郎監督が好きになりました

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OIT:キャメラがほとんど手持ちだったと思うのですが、それは監督が決めたのでしょうか?
RZ:最初から決めていた訳ではないんです、撮り方はやはり物語とあうような撮り方をしたいということはあったんですけど、おそらく無意識のうちにこのキャメラマン(Georges Lechaptois)を選んだ時点でそういう撮り方を選んでいたんだと思います。というのはこのキャメラマンの仕事の中で私が一番好きだったのは手持ちのハンディで撮ったものだったので。それから主人公は凄く動きが多いんですけれども、それをずっとずっとフォローしていかないといけないので、これもやはり後から考えたら必然だったのかなと思います。

OIT:バイクの二人乗りのシーンとか、プリューデンスが森の中を抜けてバイカーが集まってる所に森か林を駆け抜けていくシーンがとても良かったのですが、全体的には狙った通りの画が撮れたという感じでしょうか?
RZ:狙った通りにはいったんですけど、この映画は非常に暗いんです、それは意図的やってるんですけど、画面が全体的に暗くて、これが美しく見えるには映画館で観ないとだめなんですよね。だけど今はiPadとかYoutubeとか、あとテレビとかでも皆さん映画を観るわけですから、どんな媒体でも美しく見えるようにするにはどうしたらいいかっていうことは次からもっと考えたいと思います。

OIT:ご自身は、それほどシネフィルではないということなんですが、映画館以外に、DVDで観たりパソコンで観たりっていうことも結構多いのでしょうか?
RZ:もちろんかなり見ます。一本まるまるYoutubeで観た映画もあります。

OIT:尊敬する監督というか、自分のスタイルの参考になりそうだとか、そういう監督さんはいらっしゃいますか?
RZ:たくさんいますね。本当にたくさんいて、色んな監督の作品で少しずついいところを真似したいと思ってるんですね。例えば撮影の仕方が素晴らしいとか、映像が素晴らしいとか、物語の語り方が素晴らしいとか、今ではいないような役者さんが素晴らしいとか、そういう色んな良さがあるし、例えばワンシーンだけ素晴らしかったみたいな場合もありますから、ちょっとずつ真似したいです。

OIT:クレール・ドゥニ監督とかはどうですか?特に影響はありますか?
RZ:全作品を観たわけではないんですけれども、クレール・ドゥニは大好きです。ストーリーの語り方とか、音楽の使い方ですね、ドゥニ・ラヴァンの出て来るシーンで「リズム・オブ・ザ・ナイト」っていう曲が使われている作品(『美しき仕事』99)があるんですけど、その曲自体はどうってことない曲ですけど、使い方が素晴らしいと思いました。

OIT:日本の映画はご覧になっていますか?
RZ:そんなに詳しい訳ではありませんが、とても好きですね。ヨーロッパではそういう人多いと思うんですけど、最初に観た日本映画は北野武の『HANABI』です。その後はもっと古い映画も観るようになって、小津安二郎監督が好きになりまして、私は黒澤監督よりも小津監督の影響を受けています。

OIT:映画の一番最後のシーンが凄く面白かったんですけど、あれは溝口の『雨月物語』ですか?
RZ:『雨月物語』は観ていないのですが、溝口の作品で、背中に入れ墨を入れた女性の写真がビジュアルになっていた作品(『歌麿をめぐる五人の女』)があったと思いますが、その作品は好きでした。小津監督が好きなのは、ちょっと中流階級の、ちょっとブルジョワ階級の家族の物語を語っているんですけど、世界共通だっていうことを分らせてくれると思うんですね、文化の壁を超えて。普通は日本の家族の物語を観てもあまり関係があるとは思えないんですけれども、小津監督の場合はそうじゃなくて、本当に自分達のことだっていうのを感じさせてくれる。溝口の場合は激しさとかセクシャリティっていう面では自分に近いかもしれませんけれども、少ししか観てないのでよく知らないんですけど。あとは成瀬(巳喜男)ですね。日本の映画の場合は季節の移り変わりとか、自然を凄く見つめるっていう部分とあと内面的な、あるいは家庭内の激しい衝突みたいなのと両方重なりあっているものが多いと思うんですね、それが凄く自分には訴えかけてくるものがあります。

OIT:この作品もプリューデンスの思春期の少女の話でありつつも、家族の話でもあったと思うんですが。
RZ:ただあまり家庭の話っていうことは追求したくなかったんですね、だからあまり大人が出てこないのもそのためです。垂直的な世代間の関係ではなくて、むしろ水平的な若者間の関係の方がテーマなので、あまり家庭というのは強調したつもりはないです。

OIT:ユダヤ系の家族が出てきて旧約聖書の話をするシーンがあるんですけど、垂直的な世代間の違いというのがあそこで強調されたのでしょうか?
RZ:ちょっと逆のことを言って申し訳ないんですけど、この映画の中で母親が死んでしまう、そして父親が遠くにいるっていうシチュエーションは、その家族のドラマを描きたかった訳ではなくて、あくまでも主人公の女の子が完全に自由な立場に置かれるための設定だったんですね。かといって完全に一人の訳ではなくて家族はいる、その家族っていうのはこのお母さんが亡くなる前はどんなだったかっていうことですよね、それをこんな家族だったんだよって、暗に見せるためにあの家族を登場させたんですね。そこで色んな家族間の問題が起こる訳ですけれども、もうプリューデンス自身にはそういう問題が起こることはないって、そこを言いたかった。

OIT:なるほど。プルーデンスは母親を亡くしてショックを受けたと思うんですけど、そのショックがなかなか消化出来ないというか、ショックの状態が長く続くっていう感情の部分を映画にしていた、そこが面白くて、とてもユニークだと思いました。
RZ:まさにそれが描きたかったことなんですね。何かが起こってからその影響が表面に出て来るまでの時間のずれを描きたかったんです。

OIT:タイトルが『美しき棘』(Belle Épine)、フランス語で何か複雑な意味があるんでしょうか?
RZ:実は最初は、場所の名前で、ベリーピヌっていう、パリの郊外にあるショッピングセンターの名前だったんですね。それはランジスの近くにあるんですけど、そのベリーピヌっていう言葉の響き自体が色んな意味に解釈出来る、アナグラムでベルペーヌっていう風になるんですけど、これはフランス語で“美しい痛み”という意味になるんですね、だからちょっとバロック風の花と血とか、そういうイメージも彷彿とさせますし、これはぴったりだなと思ってそれにしました。


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