OUTSIDE IN TOKYO
PEDRO COSTA INTERVIEW

ペドロ・コスタ『ホース・マネー』インタヴュー

3. ヴェントゥーラと自分の間にあって、自分がわからないものは一杯ある。
 それが、映画を作っているのだと思う。

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OIT:なるほど、そうすると、先の青山監督との対談で、次は女性映画を撮るかもしれないと仰っていましたが、それと近いのでしょうか?
ペドロ・コスタ:そうだね、その劇は自分にとって、丁度トライアルのようなものであったのかもしれない。

OIT:それはとても楽しみです。『何も変えてはいけない』はまさしく音楽映画でしたが、今回の『ホース・マネー』で使われていた楽曲にも大変魅了されました。オス・トゥバロスというバンドの曲が使われていましたね。
ペドロ・コスタ:「アルト・クテロ(高貴なナイフ)」という曲で、バンド名は、“サメ”っていう意味なんだ。70年代のバンドで、カーポ・ヴェルデでは一番有名なグループだ。ヴェントゥーラが好きなバンドで彼から教わったのさ。『コロッサル・ユース』の中でもヴェントゥーラがレコードをかけるシーンがあって、そこでも同じバンドの別の曲をかけてるよ。

OIT:あ〜、そうだったんですね。カーポ・ヴェルデというと、セゼリア・エヴォラという素晴らしい女性のシンガーがいましたよね。今も、カーポ・ヴェルデには豊かな音楽シーンがあるのでしょうか?
ペドロ・コスタ:カーポ・ヴェルデは、ちょっとブラジルみたいなところがあって、街や村の、どんなところにも音楽がある。偉大なミュージシャンを輩出しているというよりは、街でもどこでも、誰かしら歌っている感じ。山の中のどんなに小さい村でも、歌っていたり、バイオリンを弾いたりしていて、本当に人々の生活に音楽が根付いている国なんだ。

OIT:ヴェントゥーラは、そんな故郷に帰りたいと思っているのでしょうか?
ペドロ・コスタ:いや、そうは思っていないと思う。『ホース・マネー』の中で、ヴェントゥーラがヴィタリーナに、自分の家に行った?と聞く、行ったけど、家は完全に取り壊されているし、家畜ももういない、って言うシーンがあるんだけど、それは本当のことで、もうヴェントゥーラがカーポ・ヴェルデに持っていた物は何も残っていないから、帰っても意味がないんだ。

OIT:大きな黒い鳥が“ホース・マネー”(という馬)を引き裂いてしまった、という台詞がありますね?あれは、エドガー・アラン・ポーの「レイブン」から想起されたメタファーなのでしょうか?
ペドロ・コスタ:一体、あの台詞がどのように生まれたのか?もしかしたら、ヴェントゥーラが言ったのかも知れないし、ヴィタリーナが言った言葉だったかもしれない。映画の現場では、その台詞がどのように生まれたのか、時として分らないようなことが起こる。メタファーではあることは確かだけれども、僕にはよくわからない。怖いから考えないようにしているんだ。クワァー!クワァー!クワァー!(と、鳥の鳴き声を真似る)

OIT:(笑)映画の中には、監督すら理解していないものが入っていると?
ペドロ・コスタ:ヴェントゥーラと自分の間にあって、自分がわからないものは一杯あるのさ。それが、映画を作っているのだと思う。


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