OUTSIDE IN TOKYO
Ounie Lecomte INTERVIEW

女優キム・セロンを見出した、ウニー・ルコント監督の第一作『冬の小鳥』(09)は、韓国の孤児院からフランス人の里親に引き取られ、以降フランスで教育を受け、育ってきた監督自身の体験をベースに、キム・セロン演じるジニの自然な演技を通じて、”捨てられたもの”の複雑な感情を繊細なタッチで紡ぎ上げる、透明感のある秀作だった。そして、その鮮烈な監督デヴューから約6年を経た今、前作同様、自らの過去に材を得た、二作目『めぐりあう日』が公開されようとしている。

新人監督の二作目というのは、困難に見舞われることが多いが、ウニー・ルコント監督の場合は、誠実に映画探求の道を歩み続けると同時に、作品のスケールアップにも成功しているように見える。主人公エリザ(セリーヌ・サレット)は、実の母親を探すために、夫アレックス(ルイ・ド・ドゥ・ランクザン)と暮らすパリを離れて、息子ノエ(エリエ・アギス)を連れて、港町ダンケルクに住み始める。とりわけそのダンケルクにおいて、現代映画史に名だたる名撮影監督キャロリーヌ・シャンプティエが、現在の状況を鑑みると一層複雑な感情に心が乱されるが、”移民の国フランス”を素晴らしい色彩感覚で捉えており、映画のルックに魅了される。

主人公エリザを演じるセリーヌ・サレット(フィリップ・ガレル『恋人たちの失われた革命』(05)、ベルトラン・ボネロ『メゾン ある娼館の記憶』(11))の、独特にスクリーン映えする、やや猫背で長身の体躯と深い瞳が湛える眼差しの魅力、人生の全てにおいて自信を失いかけている女性アネットを演じるアンヌ・ブノワの、自らの人生に対する後悔と哀しみを湛えた、何とも人間らしい、その存在感、このふたりが”めぐりあう”ことで生じる、時間を超越したサスペンスと人間性の回復、そして、ミア・ハンセン=ラブを愛するものにとっては、『あの夏の子供たち』(09)の父親にしてプロデューサーの役が忘れ難いルイ=ド・ドゥ・ランクザンが演じる夫アレックスのフェアな存在感、”人間”が、おのおの自然な姿で、豊かで複雑な感情を伴って、スクリーンのフィクションに息づいていることの素晴らしさを、ウニー・ルコント監督は改めて気付かせてくれる。

さらに本作で見るものを驚かせてくれるのは、イブラヒム・マーロフの音楽の存在だ。2016年、今年のカンヌ国際映画祭クロージングセレモニーにおける、映画音楽、ポップミュージック、ジャズ、アラブ音楽のハイブリッドな演奏も記憶に新しいイブラヒム・マーロフの音楽は、”人種の邂逅”を背景に持つ本作の”バックボーン”を成していると言っても過言ではない。「生きる喜びを謳歌せよ 愛が訪れるのを待ちながら」というアンドレ・ブルトンの詩が、マーロフの音楽と供に雄々しく響き渡るとき、観客は異次元の感動を体験するに違いない。自らの体験を素晴らしいフィクションに昇華し続ける、繊細で力強い映画監督ウニー・ルコントのインタヴューをお届けする。

1. ”意図”や”偶然”を超えて、映画に生起するもの

1  |  2  |  3  |  4



OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):第一作『冬の小鳥』も拝見しているのですが、今作は、豊かな感情が映画に移入されていること、繊細であること、といったルコント監督の特徴はそのまま、更にスケールアップをした作品に仕上がっていると感じました。まず冒頭のシーンからお尋ねしたいのですが、車窓の風景が後ろ向きに流れていて、セリーヌ・サレットが電車の進行方向後ろ向きに座っていることがわかります。これは彼女の過去を探求していく物語であるということを仄めかしているように思ったのですが、そうした意図はあったのでしょうか?
ウニー・ルコント:そのシーンですけれども、実はそのように意図して考えていた訳ではなかったのです。今回の撮影にあたっては、シーン毎にどのような画にするかということを、事前に絵画とか写真といったイメージを用いて、雰囲気作りの参考になるものを選んでいたのですが、そのシーンは、アメリカ人の写真家ナン・ゴールディンの作品で、女性が列車の中にいる写真があるのですが、それをイメージソースとして使おうと決めていました。それで撮影に臨んだわけですが、偶然というわけでもなく、結果的に彼女が後ろ向きに座り、背景が後ろに流れていくということになったのです。実は、彼女が過去を回想していくように見えるということは、別の方からも指摘をされていて、意図してそのようにシーンを作ったわけではなく、偶然というわけでもないのですが、その写真のイメージで、ということでやったら、結果的にそのような意味も含むことになっていたということが、映画の面白いところだなと思いました。

『めぐりあう日』
英題:Looking for her

7月30日(土)より、岩波ホールほか全国順次ロードショー

監督:ウニー・ルコント
脚本:ウニー・ルコント、アニエス・ドゥ・サシー
音楽:イブラヒム・マーロフ
撮影:カロリーヌ・シャンプティエ
製作:ロラン・ラヴォレ
出演:セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノワ、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、フランソワーズ・ルブラン、エリエス・アギス

2015年/フランス/104分/カラー/ヴィスタ/フランス語
配給:クレストインターナショナル

© 2015 - GLORIA FILMS - PICTANOVO

『めぐりあう日』
オフィシャルサイト
http://crest-inter.co.jp/
meguriauhi/
1  |  2  |  3  |  4    次ページ→