OUTSIDE IN TOKYO
Ounie Lecomte INTERVIEW

ウニー・ルコント『冬の小鳥』インタビュー

3. 彼女の真新しい人生を見せるのが目的で、開かれたエンディングにしたかった

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OIT:当時フランスへ旅立ち、孤児院を出た時のことを記憶しているのですか?
OL:いいえ。実際に孤児院を出た時のことは覚えていないの。別離や悲しい気持ちの瞬間って覚えていられないものみたい。あまりに苦しくて。だから孤児院を出た時のことは覚えていないけど、フランスに到着した瞬間は覚えているのよ。

OIT:そんな感情を、少女(キム・セロン)にどう説明したのですか?
OL:説明しなかったの。そこが大事なところよ。それより、彼女に(その)気持ちを伝えて、育てたの。だから彼女にはたまにすごくダイレクトに話していた。もちろん、私は韓国語が話せないから、通訳を介してだけどね。でも「セロン、あなたはこの場所へ父親に連れて来られたの。ここはあなたの知らない場所で、汚くて、少女たちで溢れていて、あなたはみんなを好きになれないし、彼女たちも汚れている。それに彼女たちがフレンドリーだとは思えない。あなたは父親が戻るのを待ちながら、ここに留まりたくないと思ってる」そういうシンプルな言葉で伝えたの。子供ってそういうことを理解できるものよ。初めて学校に通う時も、何が起きるか分からないでしょ。そういう状況は経験済みなの。だから彼女にもそう話した。もっと感情を引き出したい時は、あなたは父親が迎えにくるのを待っている。でも彼は戻らない。あなたのことはもう忘れたかもしれない、もうあなたを愛していないかもしれない、と伝えた。それも彼女の心を動かすのに十分だった。どんな子供も、自分の両親の愛を失う不安は理解できるはず。そして私の知る限り、セロンもそんな感情を既に経験していたみたい。彼女の場合は父親じゃなくて、母親のようだけど。それも後で少しずつ知ったの。母親は現場に来ていたし、彼女の面倒も見ていたんだけどね。でも自分が愛情を感じている人の愛情を失う時の感情って理解できるの。だからセロンが大人って言うのは、彼女が感情的に成熟していたということ。彼女は“感じる”ことを恐れないの。

OIT:うん、分かりますよね。でもあなた自身はこの映画を作るプロセスから“何かを”乗り越えることができたのですか?
OL:(笑)そうね、“何か”はね。子供や親を呼んだ上映会で、一人の少女が、とてもシンプルな言葉で聞いたの。「この映画を作ったことで」、なんて言ったかしら、「よくなったの?」そんな聞き方だったと思う。とにかく、その質問がとてもかわいかった。言っていることは同じだけど(笑)。

OIT:(笑)とてもダイレクトですね。
OL:そう、とてもダイレクトだった。実際、私はこの映画を撮っても100%乗り越えることができていない。トラウマの体験ってそういうものだと思うの。トラウマだからね。常に不安に襲われ、いつでもそうなる可能性がある。それが繰り返すの。それがこの映画のストーリーよ。彼女は父親との別離を一度は乗り越えるけど、それはもう一人の少女、スキと友達になれたから。でもすぐにまた次の別れが訪れる。2人とも別々に養子縁組されてしまうから。それが私たちの人生の物語よ。一緒になっては別れる…。そこには長いプロセスがあるの。乗り越えても倒れ、また立ち上がる…。だから一度映画を作ったからと言って、乗り越えたと、過ぎたことにするのはむずかしいし、そうなるとは決して言えないわね(笑)。

OIT:それに年齢を重ねるに連れて、人は過去に遡る傾向もありますしね。歳をとるにつれて、最初の記憶をなぞるようになったり。
OL:そうね。歳を重ねるに従って、周りの人も失い始める問題もあるわね(笑)。

OIT:でも、他の方法で映画を終えることもできたわけですよね。映画によっては、次に何が起こるのか語りすぎるものもある。そしてあなたは正しい瞬間に終えた気がします。でも同時に、彼女が孤児院を去る瞬間を選べたわけですし、他の人なら、フランスに着いてからの、彼女が生きる現実を見せたかもしれないですよね。
OL:確かにその通りで、脚本ではそうだった。前のバージョンではもっとその部分が描かれていたの。彼女がどんな少女かも。彼女が新しい家族といるところも。でも最終稿では、空港で終わりにすることはもう決めていたの。それが脚本の最終版に入っていて、それで撮影したの。でも編集の間も、編集者も助監督も、違うエンディングを提案してきたのは事実。例えば、孤児院で終わるとか。夢の終わりのように、飛行機の中、いや飛行機の後で、ジニが父親と自転車に乗っているところとかで終わるとか。夢を見るように。だから違うオプションは確かにあった。でも最終的に、脚本のあのバージョンを守ることにしたの。もし孤児院で終わらせていたら、そもそもこの映画を撮る意味がなかったかもしれない。それはタイトルが示すように、「真新しい人生」だから。彼女の真新しい人生を見せるのが目的で、開かれたエンディングにしたいという理由もあった。

OIT:日本語のタイトル『冬の小鳥』は原題『A Brand New Life(真新しい人生)』と違いますね?
OL:国によって違うタイトルが選ばれるというのは既に経験しているから(大丈夫)。韓国では“トラベラー”を意味するタイトルだった。タイトルの翻訳がむずかしい国もあると思う。タイトル・コンセプトも。私は日本語が分からないから、それを日本語に訳すとどうなるか分からないし、日本のスタッフを信頼して任せるしかないの。でも日本語のタイトルの方がよりミステリアスで、ある意味、詩的な感じがすると思うの。もちろん、隠喩的な意味合いもあるようだし。でもたぶん、物語を知らない人にとっても、このタイトルを見て映画を見に行くとしたら、ストーリー自体がとてもオープンになる気はするわね。

OIT:さっき新しい脚本を読んでいたみたいですが?
OL:(笑)いいえ、違うの。

OIT:この映画の後はどう(キャリアは)進んでいくの?
OL:新しい脚本を書き始めたところよ。

OIT:自分の脚本ですか?
OL:そうね、最初は。最初のバージョンを自分で書こうと思うの。でも共同脚本家はもう決めていて、今は話し合いをしているところ。でも彼女は後から入ってくるわ。私が最初のバージョンを書き終えてからね。

OIT:その話も自分の体験が絡んでくるのですか?
OL:いいえ、よりフィクションになると思う。でも、フィールドとテーマという意味ではこの映画と繋がってるかも(笑)。


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