OUTSIDE IN TOKYO
Mohsen Makhmalbaf INTERVIEW

流麗な「美しく青きドナウ」がBGMとして流れる、夜のネオンに彩られた小綺麗な街の風景が、嘘に塗固められた国営放送が垂れ流す国家の宣伝イメージ映像であることが明かされるのに、モフセン・マフマルバフ監督はものの数分も掛けてはいない。イラン出身の巨匠マフマルバフ監督の新作『独裁者と小さな孫』は、実にダイレクトに、世界が直面している“暴力の連鎖”への平和的な抵抗を試みる映画である。

映画は、クーデターによって独裁体制が転覆されて、民衆に追われる大統領とその孫の逃避行を、時折のユーモアすら湛えながら、スリル満点に描き出すが、ストリートミュージシャンに姿を変えた独裁者が、貧困に喘いで不満を募らせる市民や、かつて迫害した政治犯たちの本当の姿を目の当たりにしていくうちに、自らの行為の過ちを厭というほど思い知らされていく、そのロードムービー的道程を“孫”の視点を通じてケレン味たっぷりに描いていくところに、名匠マフマルバフ監督のストーリーテラーとしての才能が如何なく発揮されている。

この“孫”を演じる子役ダチ・オルウェラシュウィリが素晴らしい。この作品の成功の多くは、彼の眼差しの説得力によるところが大きいとすら思えるのだが、もちろん、その“眼差し”は、映画ならではの演出の賜物であることはインタヴューを読んで頂ければわかることだろう。そして、この映画が伝えようとしている(個人的には滅多なことでは使わないようにしている言葉だが)”メッセージ”は思いの外、重い。この作品は、映画を“映画”として楽しんだ時点で終わるのではなく、むしろ、そこから映画を見たものへの問い掛けが始まる。

自らの作品の上映が禁じられた為に、故国イランを離れ映画を撮り続けているモフセン・マフマルバフ監督は、自国を離れたその10年間の間に、イラン政府によって、アフガニスタンで2度、フランスで2度、暗殺されかけたのだという。そんなマフマルバフ監督が問いかけるのは、人々の“人間性”が試される時が、どの国においてもやってくる、ということである。もちろん、その背景には、パーレビ国王の独裁政権が終わった後にやってきたのは、更にタチの悪い宗教指導者による独裁政権だったイラン革命に対する苦々しい体験と記憶、そして、近年では“アラブの春”によって、幾つかの独裁政権が崩壊した一方で、さらに複雑な“暴力の連鎖”を招き寄せた現実に対する抵抗があるに違いない。ここで重要なのは、こうした監督自身の人生の教訓が昇華された本作を、見るものがどのように受け取るかということである。是非、この機会に故国を離れて映画を撮り続ける、名匠の言葉に耳を傾けてほしい。

1. どの国の人が見ても、これは自分の国のことだと思うような映画にしたかった

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):90年代に監督の作品(『サイクリスト』(89)、『ギャベ』(96)、『パンと植木鉢』(96))を初めて拝見してから、約二十数年間の歳月が流れましたが、その間に時代は変わりました。世界的に同じような傾向があると思いますが、残念ながら野蛮な傾向を強めていると思います。『独裁者と小さな孫』は、現実社会の絶望を反映しながらも、ぎりぎりのユーモアと希望も感じさせるところが監督らしいと感じました。まず最初にお聞きしたいのは、この作品はグルジアで撮影され、言葉もグルジア語が使われていますが、そこに何か特別な理由があるのかということです。
モフセン・マフマルバフ:この題材を特別な土地で作りたくないと思ったんです、ロケーションが特定されると映画がとても小さくなってしまうと思ったからです。この映画はみんなのためのもので、どの国の人が見ても、これは自分の国のことだと思うような映画にしたかったのです。例えば、もし日本で撮影していたら、これは日本の話だから(日本に住んでいるわけではない)自分には関係がないんだなと思われてしまう。だから、(画面を)見ても、ここは一体何処なのだろう?と思わせるようなロケーションを選びたかったのです。グルジアでは革命が起きたばかりなのですが、革命が起きると、その直後には少し自由の風が吹くものですから、そこで撮りやすい状況が生まれたのです。その他の周辺国には皆、独裁者がいて、この映画を撮れるような状況ではなかったということもあって、グルジアを選んだのです。

『独裁者と小さな孫』
英題:THE PRESIDENT

12月12日(土)新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町 他全国公開

監督:モフセン・マフマルバフ
脚本:モフセン・マフマルバフ、マルズィエ・メシュキニ
出演:ミシャ・ゴミアシュウィリ、ダチ・オルウェラシュウィリ

2014年/ジョージア、フランス、イギリス、ドイツ/ジョージア語/カラー/ビスタ/デジタル/119分
配給:シンカ

『独裁者と小さな孫』
オフィシャルサイト
http://dokusaisha.jp
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