OUTSIDE IN TOKYO
Mohsen Makhmalbaf INTERVIEW

モフセン・マフマルバフ『独裁者と小さな孫』インタヴュー

3. 政府がすることの責任は、必ず国民にあると思います

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OIT:彼は、そうした体験をした後でも、映画に出演したいと思っているのでしょうか?
モフセン・マフマルバフ:彼は、今や、ヨーロッパでとても有名になっていて、映画に沢山出ています(笑)。

OIT:それは素晴らしいですね。彼は、劇中で、途中からダチという名前をつけられるのですが、大統領も若い時にダチと名乗っていました。
モフセン・マフマルバフ:この“孫”はこの作品の中で色々な役割を担っているんですね。まず一つは先ほども言った通り、映画全体を柔らかくする存在であるということ。そして、もうひとつは、この子どもは実は独裁者の子ども時代のメタファーであるのかもしれないということ。大統領も、子どもの時は、このように純粋な男の子だったのだろう。さらにもう一つは、この男の子があのまま何も起きずに大きくなったら、この独裁者みたいになってしまうのかもしれないということ、だから同じ名前をつけたのです。

OIT:監督のご家族の皆さんが映画作りに関わっているというのは有名な話ですね。そもそも映画を家族的に撮っていくというのは左程珍しいことではなく、映画の歴史的にもそういうことがあったと思うのですが、ここまでたくさんの家族の方が関わる場合というのはやはりちょっと珍しいのではないかと思います。これは監督が意図的に家族のみんなを巻き込んでいったのか、あるいは気付いたらそういうことになっていたのか、教えて頂けますか?
モフセン・マフマルバフ:BBCでそういう内容を描いたドキュメンタリーを作りましたので、DVDを送りますから是非観てみてください。簡単に言うと、自分の目が覚めたら周りの家族はみんな映画人だった、という感覚はあるのです。何故なら一番上の子どもサミラは、一番最初に映画監督になりたいって言い出したわけですが、私は凄く反対だったんです。何故なら、映画作りって普通の仕事ではないんですよ。映画を作る時は、凄く暇があるかと思うと、急にもの凄く忙しくなったり、色々な経済的な問題や政治的な問題、そして検閲の問題も、ありとあらゆる問題が降り掛かってきますから、まさか自分の子ども達をこういう大変な仕事に巻き込もうとは思いもよらなかったわけです。しかし、サミラが映画が好きだから絶対に教えてほしいと言うものだから、サミラに教え始めたら、気が付くと他の者たちも参加していて映画作りを学んでいた。二年後には全員が映画人になっていた、そういう感じなんです。

OIT:そのドキュメンタリーで、みなさんの近況に触れられているのですね。
モフセン・マフマルバフ:『庭師』(12)は見ていますか?

OIT:数年前の東京フィルメックスで上映されたのですが、見逃してしまっているのです。
モフセン・マフマルバフ:それも後で一緒に送りましょう。一番下のハナは今、次の映画の準備に入っています。サミラは哲学に興味を持っていて、三〜四年前から映画を作らずに哲学の本ばかり読んでいる。メイサムはずっと私と一緒に仕事をしていて、『庭師』は彼と一緒に撮りました。彼は、キャメラを回しますが、主にプロデューサーとして自分と一緒に映画を撮っています。妻もこの映画で一緒に脚本を書いてますし、現場でもアシスタントをしてくれています。この映画の現場にはサミラ以外のみんなが入っていたんです。メイサムはもちろん制作の方を手伝いましたが、その後は音の編集も手掛けました。ハナはアシスタントとして入っていて、後で編集を手伝った。それで自分が監督をやって(笑)、この映画が出来上がったというわけです。

OIT:最後の質問になります。日本も最近、社会状況が危うい感じになってきているのですが、日本の観客に向けて、一言頂けますか?
モフセン・マフマルバフ:日本の今の現状はよく分かっているつもりです。政府は間違った法案を通したのかもしれませんが、それを許したのは国民だと思います。要するに、人々は沈黙すると希望を失っていく、そうするとそういう法案を通すんですね。(海外に住む)我々から見ると70年間日本というのは戦争に一切参加しなかった国です。私達が知っている日本というのは素晴らしい映画、素晴らしい文化を持っていて、テクノロジーが凄い国である。これからの日本は、じゃあ一体どうなるのでしょう?どこかの国が人を殺している、戦争に巻き込まれている、自分達の土地ではなくて外で戦争をやる、そういう国になるのを何故日本人は許すのか。今、みんなは沈黙している、しかし、気が付いた頃にはもう手遅れになっているかもしれません。気が付いたらもう暴力の道しかなくなっているかもしれない。政府がすることの責任は、必ず国民にあると思います。そういう意味では、こういう映画を今、日本のみなさんに見て頂きたいと思います。要するに、責任は全ての人々に、私達にもあるということを、今知ってほしいのです。


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