OUTSIDE IN TOKYO
MICHALE BOGANIM INTERVIEW

ミハル・ボガニム『故郷よ』インタヴュー

3. タルコフスキーの映画には終末感が漂う。そして私の映画でも、黙示録への言及がある

1  |  2  |  3  |  4  |  5



OIT:タルコフスキーの名前が出たのはおもしろいです。実際、映画を見ながらタルコフスキーのイメージについて考えていました。
MB:そうね(笑)。タルコフスキーのイメージは色々なところにあるかもしれない。それにストーカーというのはガイドでもあるでしょ。この主人公の女性も(被災地を見せる)ガイドなの。父と息子(エンジニアとヴァレリー)が最初のシーンで木を植えるのも『サクリファイス』(86)を連想させる。でも皮肉もたくさん込められているわ。その植物や木は数時間後に全て破壊されてしまう。ある意味、偽物の幸せのように。それに放射能のシンボルもある。ある哲学者の言葉に、放射能のシンボルは、木が成長するようだ、とあるの。つまり放射能は時間と共に成長を続けていくということ。それで木をその象徴として使ったの。

OIT:その哲学者とは?
MB:ポール・ヴィリリオよ。彼は惨事やチェルノブイリについてたくさん書いている。都市計画家(アーバニスト)としても知られているわ。彼も区域内に行ったことを書いている。だからこそ彼の発言はとてもおもしろいと思った。彼は惨事がタイムレスだと言っているの。惨事、そして福島についても言及している。惨事というのは時間と共に延々と続いていくものだと。だから私の映画も前半と後半に分かれているの。それに木が放射能の象徴であるだけでなく、水はまだ放射能に汚染されていて、100万年以上かかってもまだ放射能があるかもしれない。

OIT:タルコフスキーについてだけど、映画の中の時間の流れも彼の映画を思わせるところがあったように感じるけど。それは意図的なものだったの?
MB:それはカメラの動きということかしら?

OIT:カメラの動きもそうだけど、ゆっくりとしたペースだったり。
MB:そうね。動きはわりとゆっくり構成しているわ。あまりあおることもなく、ロングショットというか、漂うようなショットは、タルコフスキーとかロシア映画的と言えるかもしれないわね。そして時間の感覚は終末的というか。分かるかしら。『サクリファイス』もそうだけど、タルコフスキーの映画には終末感が漂う。そして私の映画にも黙示録への言及がある。聖書への言及とか。それは文化的なものだから。タルコフスキーは自分の国にインスピレーションを得た。彼は迷信を信じていたと思う。私にとってもチェルノブイリの惨事を黙示録と結びつけて考えるのは自然なことだった。彼の映画では老女が森の中でヨハネ黙示録を読んでいたと思うけれど、黙示録として、人々が死に、暗い薬草を飲む。さらにチェルノブイリという言葉の意味は暗い薬草という意味がある。そうした象徴がたくさんあり、信仰がある。タルコフスキーもそんな黙示録的な要素から影響を受けて映画を撮っていたと思うの。

OIT:他にもまだ参照はあったりしますか?
MB:(原爆の恐怖を描いた)『黒い雨』(89/今村昌平)の影響にも触れているわ。『黒い雨』の結婚することができない女性に。その映画では、監督は惨事を見せているけど。人々には大爆発が聞こえていた。でもチェルノブイリは違って、人々が目にすることはなかった。目に見えない危険。見えない惨事。それはとても特徴的だと思うの。ヴィリリオもそこに触れているわ。見えない危険について。ある人たちは、私の映画がSF映画を思わせると言っていたけど、それは私自身が意識したことじゃないから分からないわ(笑)。カイエ・デュ・シネマで、ある人が、名前を思い出せないけど、SF映画の監督を引き合いに出して論じていたの。

OIT:「降りかかる見えない恐怖」的な?
MB:そうなの。多くのSF映画がそれに基づいているわね。見えない恐怖。私はあまりSF映画を見ないから無意識なのかもしれないけど(笑)。でももちろん、区域内にいる時は、未来でもあり得る。コーマック・マッカーシーの『ザ・ロード』という本があるでしょ?映画も作られて、あまり映画はよくなかったけど、本はすごくいいの。物語は、核爆弾の投下の後、2人の人間、つまり男と少年が砂漠をさまよっている。全てが死んでしまったような場所を。食べものを探そうとして、ずっとさまよい続けている。区域内に入る前にその本を読んでいたけど、作者が核爆発後の状況を説明する様が、私にはプリピャチのように感じられた。それにプリピャチを舞台にSF映画を撮っている人たちがいると聞いたわ。あまりに黙示録的な風景で、SF映画とかビデオゲームとかにぴったりだと思うの。だから区域内にいる時、他の場所にいるかのように、いろんなことが想像されるの。核爆発後でも戦争後でも。


1  |  2  |  3  |  4  |  5