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melvil poupaud INTERVIEW

メルヴィル・プポー『ミステリーズ 運命のリスボン』インタヴュー

3. 美しくてオリジナル、でも何を意味するのか分からない

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Q:今回の『ミステリーズ 運命のリスボン』は、ラビリンス的なお話はもちろんなんですけれども、19世紀のヨーロッパの衣装ですとか、内装ですとか、美術のセットも素晴らしく魅了されました。『見いだされた時』(99)でもそうだったんですけど、ルイス監督の美術に対するこだわりについてお聞かせ頂けますか?
MP:まず彼の美術に対する造詣の深さですよね、クリムトの映画(『クリムト』06)も撮っていらっしゃいますけど、20世紀ウィーンの美学にインスパイアされた作品ですね、それをラウル・ルイス監督は完璧にコントロールしてましたよね。クリムトの作品は映画化なんて出来ないよって言われてきましたが、本当の意味で作品を成功させた唯一の監督かもしれません。それは全て彼の文化、教養によるものです。色々な文化、時代というものに自分自身を溶け込ませることが出来る監督だという気がします。ピタゴラスの伝記映画を作ろうなんていう企画もあったみたいです。洞窟にいるピタゴラス、通訳をやってるピタゴラスみたいな(笑)。だから対象は何でもいいみたいですね、とても有能な技術スタッフ達さえいれば。撮影監督にはラウル・ルイス監督と仕事が出来て本当に嬉しかったっていう人が多いです。衣装の人達も美術監督の人達も、自分達の一番いいところを差し出したいって思わせるような監督だったのだと思います。

Q:撮影現場について聞きたいんですけれども、ルイス監督の脚本は撮影の段階ではちゃんと出来上がっているのでしょうか?
MP:シナリオが全然ないところからスタートしたっていう作品もありますし、朝もらうような時もありますし、本にも書いてますけど、そのせいでクレイジーな台本もあります。俳優っていうのはいつも安心させてもらいたい存在なのですが、どういうことか分からないよ、この台詞、なんていうことになると完璧に不安になります。それがラウル・ルイス監督の狙いですよね。でも親切な優しい人でしたから、いつも解決方法を導き出してくれるんです、わざと困らせてやろうとか、そういう邪意のある人ではないので、何とか解決方法を見つけようとしてくれます。ある撮影現場では、朝渡されたシナリオのページにファドを歌う犬人間みたいなキャラクターが書かれていたんです。スタッフが布とかぬいぐるみとか着て、なんとかその犬人間を作ろうとみんなが努力しました。みんながそれに抱きついて愛撫したいようなあまりにも可愛らしいキャラクターが出来て、ちゃんと耳まであって本当に犬みたいな、その犬人間はファドを歌ってました(笑)。

Q:今回の撮影現場はどうでしたか?
MP:悲しいことに、もう既に『ミステリーズ 運命のリスボン』の撮影の時に彼は病気だったんですね。そこでちょっと面白いことがありました。彼は肝臓のガンを患っていましたけれども、その肝臓の検査の為に撮影をちょっと中座して、検査結果を携えて戻って来たんです。すると、白い白衣を着た、研修医みたい人たちが階段上の会議場みたいな所に集まって、そこの演壇には偉い教授が立っているんです。その階段上の会議室にラウル・ルイス監督が入ると、その教授は、ラウル・ルイス監督の肝臓を3Dで撮った映像を映しながら、「この素晴らしい肝臓の持ち主が今、入場されました」ってウォルト・ディズニーのキャラクターみたいにアナウンスして、ラウル・ルイスの肝臓についての批評をしたんですね。それがまるでラウル・ルイス監督の作品についてカイエ・ドゥ・シネマが5年前に書いた記事のフレーズとまるで一緒だった。「美しくてオリジナル、でも何を意味するのか分からない。」(笑)


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