OUTSIDE IN TOKYO
KUROSAWA KIYOSHI INTERVIEW

黒沢清『ダゲレオタイプの女』インタヴュー

4. 自然にそうしたように見せる、っていうことに命を賭けている人たち

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Q:今回、そのステファンを演じたオリヴィエ・グルメをはじめとして、第一線で活躍されている素晴らしい俳優たちがキャスティングされていますが、何か彼ら/彼女らの演技で驚かされたようなことはありましたか?
黒沢清:フランスの演技なんで、よくはわからないのですが、相当緻密に考えた上で、如何にも自然、アドリブというか、何の準備もなくふっとそれをやってしまった、かのようにどうやったら見えるかということに、とことん力を入れる、まあ映画の俳優としては理想的だと思うんですけど。とことんそういうことを考えてらっしゃいましたね。ふっとこれをやるとか、何気なくこういう台詞を呟くというのは、彼らは大好きなんですけど、どうやったら何気なくなるかというのを相当緻密に考えた上でやるという感じでしたね。日本では、何気なくは出来ないんで何か理由をください、という人がいるんですが、彼らの場合、理由はいらないんですよ。理由なしでやる、よくわかります!って言って、いきなりやる。これをやってみましょう、とか言ってね。

Q:演出の意図を説明する必要もなく、脚本を読み込んできていて、最初からある程度の水準のものを出してくるという感じですか?
黒沢清:そういうところは、日本と変わらなかったですね。僕のやり方は日本と同じで、演出意図とかは語りませんが、こうしてくれということを言うと、そうしてくれる。そこの部分を、彼らは如何に自然にそうするか、監督がこうすると言っている、何故そうしたいかは、監督は言わないわけだけど、如何にも段取りっぽくそうするのではなくて、自然にそうしたように見せる、っていうことに命を賭けている人たち、という感じでしたね。

Q:特にマチュー(・アマルリック)さんはそうではないでしょうか?
黒沢清:いや~、マチューさんは面白い人で(笑)。みなさん、ほとんど感覚的にやってらっしゃっるんですけど、上手い方たちでしたね。

Q:マチューさんは、キャスティングしたというよりも、ご本人がやりたいと仰ったらしいですね。
黒沢清:そうなんですよ、だから、最初、マチュー・アマルリック?ちょっと無理でしょう、と思ったんです。前から知ってはいたんですが、忙しい人ですし、当初、さすがにそこまでの人は難しいんじゃないかと思ってたんですけど、ある程度キャスティングが進んだ時点で、こんな映画を僕がやろうとしているという情報を嗅ぎ付けて、何でもいいから、どっか出してよ!って。本当になんでもいいの?って聞いたら、本当に何でもいい、と(笑)。

Q:それで役を書き足したんですか?
黒沢清:いえいえ、そんなに多く書き足してはないんですけど、空いているのがあの役(ヴァンサン)くらいで、もちろん誰でもいいというような役ではありませんが、そう出番は多くないので、あれで良ければ、と言ったら、是非!と仰って頂いて(笑)。とても楽しかったですよ。

Q:先程、台詞が話題になった老婦人(Claudine Acs)、大変美しい方でしたね。
黒沢清:そうですね、大変奇麗な方で、上品な方で、もの凄く有名というわけでもないのですが、結構、色々な作品に出ていらっしゃいます。死ぬ前にこんな役をやれて嬉しいわ、なんて仰ってましたね。

Q:植物園の面接をした館長さんも良かったです。
黒沢清:あの方も凄く有名な方ではないですが、知る人ぞ知る舞台俳優さんで、どこで話を聞きつけたのか、これは日本ではあまりないことですが、人づてで話を聞いたようで、あの館長役は私が相応しいと思うんだが、といって自分の家であのシーンを演じるDVDが送られて来たんですよ。自分でビデオカメラのスイッチをカチャと入れるところから始まって、あのお芝居をして、止めるところまでが録画されている(笑)。こんなのどうでしょう?って。凄く積極的ですよね。



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