OUTSIDE IN TOKYO
KITANO TAKESHI INTERVIEW

北野武監督の最新作『アウトレイジ ビヨンド』は、ナンセンスでバイオレントな爆笑ブラック・コメディだった前作『アウトレイジ』を伏線に緻密な脚本を練り上げ、前作で撒き散らした暴力の”おとしまえ”を監督自らが着けようとしたかのような、因果応報が巡る秀逸な人間ドラマに仕上がっている。

北野武が明白に娯楽作品としての”面白さ”を追求した本作には、前作からの成り上がり組(山王会の加藤(三浦友和)、石原(加瀬亮)、舟木(田中哲司))と生き残り組(大友(ビートたけし)、木村(中野英雄))、マル暴の刑事(片岡(小日向文世)、繁田(松重豊))に加え、新たに登場する関西ヤクザ花菱会の面々(神山繁、西田敏行、塩見三省、高橋克典)や中尾彬、名高達郎、菅田俊、光石研、新井浩文、桐谷健太といった味のある俳優陣が嬉々として加わっており、この男の前で自分の演技を見せたいという彼らの異様なテンションが、21世紀的なリアリティに満ちたヤクザ映画の傑作として結実している。

前作の成功を受けて、順調に製作が走りかけていた『アウトレイジ ビヨンド』は、2011年3月11日の震災を経験し、制作を一旦中止、1年後にスタッフ全員が再会を果たすことを約束して解散したという。その丁度1年後に満を持してクランクインしたという”間”があったことも、本作の重厚な内容と本質的に関係があるように思えた。今回のインタヴューでは、その辺りの実際についても聞く事ができたのだが、何より、本作のクライマックスというべき、花菱会に大友と木村が乗り込んで行き怒鳴り合う<言葉の格闘技>シーンが、どのようにして作られたかということについて、少し踏み込んで話を聞くことができたのはとても収穫だった。

”天才”と言われる北野武が、この素晴らしいシーンを作り上げるまでに、どれほど繊細かつ大胆にフィルムと向き合ったことか。そして、同時に「真面目に映画を作ろうなどと考えないでください」、「あまりにも平凡で陳腐でアメリカ的だからカットバックは恥ずかしいものです」といったオタール・イオセリアーニ監督の非凡な言葉を、北野武はなんと自然に実行していることか。映画監督北野武の黄金期はいま、始まったばかりなのではないだろうか。

1. 大阪弁と関東弁の罵り合い、漫才のような「言葉の格闘技」をやりたかった

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Q:監督が、続編という形で作られるのは、今回が初めてのことだと思います。続編ということで、前作を観たファンの方が比較をしたり、どんな作品になるんだろうと期待値が非常に高まると思いますが、そういう意味では通常の作品よりもハードルが上がるのではないかと思うんです。今回の作品を監督するにあたって、その辺についてはどのような思いがあったのでしょう?
北野武:前作はそんなにハードル高いわけじゃなくて、低いところから始まってるからね。自分ではストーリー的に面白いなと思ってて、(映画の)評判も良かったんだけど、なんか暴力描写ばっかり話題にされて、ストーリーにあんまり触れられなかった。じゃあもうちょっとエンターテイメントらしく、ストーリーに裏切りだったり、ひっくり返ったり、予想以外のことが起こったりというサスペンスを増やすかっていう。エンターテイメント性を暴力以外のものでより表現するということにしたかな。あと、台詞を増やしたことで、前作よりは数段エンターテイメントができただろうとは思う。そもそも続編は『アウトレイジ』撮っている最中に「続編が出来たらどうなるだろう」ってスタッフと盛り上がったんだよね。だから前作を撮りながらも、続編のことは少し意識していたかもしんない。それで『アウトレイジ ビヨンド』を撮ることになってから、今回のストーリーにしたんだよね。脚本を書く段階ではもちろん役者は決まってないんで、場合によっては役を作んなきゃいけないこともあった。でも基本的には苦労はあんまりしてなくて、今回のほうが自分で作ってても面白かったなって思うよ。

Q:これまでたくさんの作品を監督されてますけど、続編もあるなって思われたのは今回が初めてでしょうか?
北野武:うーん、たくさん作ったけど、要するに『HANA-BI』(97)なんかはまあまあ評判もよかったうけど、『HANA-BI』の続編なんてないからね(笑)、死んでんだから。『座頭市』(03)はヒットもしたんだけど色んな“座頭市”も出てきちゃってるしね。もういいかなって

Q:楽しんで作られたって今おっしゃったんですけれども、前作の内容をかなり引き継いで脚本が凄く緻密に作られていて、その緻密さが今までの北野監督の作品の中でも群を抜いてるんじゃないのかなと思ったんですけれども。
北野武:実は「2」って言われるのは嫌いで、でも『アウトレイジ』っていうタイトルは決まってるわけだし、『アウトレイジ2』だと嫌だなって思ってたんで、『アウトレイジ ビヨンド』にした。前作の流れを汲まずに続編はできないと思ったんだけど、(前作を)観てなくても楽しめるっていうふうに台本を作ったつもり。まあ台詞で前作の内容をしゃべらせたりしてる時もあるんだけど(笑)。だからこれはこれで独立して観られるようにして、なおかつ前作を観てたらより面白いだろうっていう。あと基本的に俺が主役ってわけでもないんだけど、大友(ビートたけし)が生きてたというとこから始まるんで、物語がどう動くのかっていうのをやるんだけど、大友がイケイケだと単なる復讐戦になってしまうんで、周りの警察とか関東や関西のヤクザとかが大友を巻き込むことにした。何故関西のヤクザが登場するかっていうと、大阪弁と関東弁の罵り合いをやってみたくて(笑)。漫才のような「言葉の格闘技」をやりたいっていう。登場人物は多いんだけど、相関図に役者さんの写真を並べて構図を作るところからはじめて。それでこっちのキャラクターがこっちに裏切られて、一方でこっちはこっちを潰そうとしてた、とか考えていって、かなり緻密に練ったね。そういう意味では大変なこともあったけど面白かったね。

『アウトレイジ ビヨンド』

10月6日(土)より公開

監督・脚本・編集:北野武
音楽:鈴木慶一
撮影:柳島克己
照明:高屋齋
美術:磯田典宏
録音:久連石由文
キャスティング:吉川威史
助監督:稲葉博文
製作担当:里吉優也
衣装:黒澤和子
大友衣装:山本耀司
装飾:柴田博英
メイク:宮内三千代
編集:太田義則
記録:吉田久美子
音響効果:柴崎憲治
プロデューサー:森昌行、吉田多喜男
ラインプロデューサー:小宮慎二、加倉井誠人
アソシエイト・プロデューサー:川城和美、松本篤信、大西良二、久松猛朗
出演:ビートたけし、 西田敏行、 三浦友和、 加瀬亮、 中野英雄、 松重豊、 小日向文世、 高橋克典、 桐谷健太、 新井浩文、 塩見三省、 中尾彬、 神山繁、 他

© 2012「アウトレイジ ビヨンド」製作委員会

2012年/日本/114分/カラー
配給:ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野

『アウトレイジ ビヨンド』
オフィシャルサイト
http://wwws.warnerbros.co.jp/
outrage2/
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