OUTSIDE IN TOKYO
KEN LOACH INTERVIEW

ケン・ローチ『わたしは、ダニエル・ブレイク』オフィシャル・インタヴュー


テキスト:上原輝樹

名匠ケン・ローチ監督に2度目のカンヌ国際映画祭パルムドールの栄誉をもたらし、本国イギリスでもヒットを記録した『わたしは、ダニエル・ブレイク』には、監督デヴュー作『キャッシー・カム・ホーム』(66)以来、50年の長きに亘ってケン・ローチが寄り添ってきた市井の人々を描くリアリズムが力強く息づいており、人々の生活を支えるはずの社会制度の機能不全と為政者の不作為(悪意)に怒りを滾らせ、見るものに生々しい感情を呼び起こす。今まさに、多くの”民主主義国家”で必要とされている映画である。

主人公である熟練の大工ダニエル・ブレイク(デイブ・ジョーンズ)は、ある日、心臓の発作を起こし、仕事中に足場から落ちてしまう。医者からドクターストップが掛かったダニエルは、休職中の手当を受け取るべく役所へ行くが、そこで思わぬ壁に打ち当たる。マニュアル通りの対応しか出来ない役所の人間の融通の効かなさに呆れ果てた後に辿り着いた、申請書の提出は、すべてネットを使って行わねばならず、パソコンなど使ったことのないダニエルは途方に暮れてしまうのだ。国の福祉制度が弱者に対して如何に不条理を強いるものになっているかを、名匠は熟練の手捌きで、ユーモアする滲ませながら鮮やかに描き出す。

役所手続きのカフカ的不条理にダニエルが途方に暮れていると、今度は、締切時間に少し遅れたという理由で住む家の目処が立たないと抗議する女性を目にし、ダニエルは助太刀に入るが、敢えなく外につまみ出されてしまう。それを切っ掛けに、ダニエルは、二人の子どもを連れたシングルマザーであるケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)を手助けし、妻を失って孤独な生活を営んでいたダニエルと、ケイティの家族は徐々に心を通わせて行くようになる。この家族の心の交流の描写に、人情譚の第一人者であるケン・ローチの手腕が遺憾なく発揮されている。

ケン・ローチは、ITを活用した国の福祉制度が如何に多くの障壁を築いているかを告発する一方で、ITを活用して小商いを成立させたり、中国のサッカーファンと交流をする若者の姿をも描いている。彼がテクノロジー、そのものを批判しているわけではなく、それを使う側の人間の”作為”を問うていることは明らかだ。その点においても、ケン・ローチの問題に対するアプローチは的確で曇りがない。そして、本インタヴューでも触れられているフードバンクのシーンの生々しさ、この素晴らしいシーンを見るにつけ、これほどの作品を撮った監督が引退の間際にいるとは誰が考えるだろうか。世界はまだまだケン・ローチ監督の作品を必要としているし、この作品で描かれた”怒り”は、私たちの周囲にも燻っている。そして、映画を見る私たち、ひとりひとりに、覚醒と行動を促している。

1. 暖かい部屋か食べ物か、どちらかひとつを選ばなくてはならない人たち、
 生活保護をすべて失って生きていけなくなった人たち、
 屈辱のあまり自殺を図る人たち、その他にも実にたくさんの話を聞きました

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Q:本作を制作しようと思ったきっかけを教えてください。
ケン・ローチ:脚本家のポール・ラヴァティと私は同じような話を何度も耳にしていました。暖かい部屋か食べ物か、どちらかひとつを選ばなくてはならない人たち、生活保護をすべて失って生きていけなくなった人たち、屈辱のあまり自殺を図る人たち、その他にも実にたくさんの話を聞きました。そこでリサーチを始めた結果がこの映画です。
Q:ダニエル役のデイヴ・ジョーンズら俳優はどのように見つけたのでしょうか?
ケン・ローチ:デイヴは、大スターというわけではありませんが、英国では知られたコメディアンです。ダニエル役は同じニューキャッスル出身者に演じてほしいと思っていたんです。あのなまりが話せて、労働者階級出身、60歳前後で、大工が似合う人。その条件で俳優だけでなく、コメディアンや歌手なども含めて捜しました。デイヴはその条件にぴったりだったんです。彼の父親は実際に大工だったんですよ。笑いのタイミングも完璧で、まさに理想通りでした。ケイティを演じたヘイリー・スクワイアーズは演劇人ですが、脚本家でもあるんです。とても明るくて、知的で、この役を完全に理解していました。彼女はロンドンの労働者階級出身で、そのことをとても誇りにしています。
Q:ダニエルの隣人の青年チャイナもとても良いキャラクターですね。
ケン・ローチ:「中国のネット仲間から小包でスニーカーを手に入れているのは、実話なんですよ(笑)。名前は違いますけどね」

『わたしは、ダニエル・ブレイク』
原題:I, DANIEL BLAKE

3月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

監督:ケン・ローチ
プロデューサー:レベッカ・オブライエン
脚本:ポール・ラヴァティ
撮影監督:ロビー・ライアン
美術監督:リンダ・ウィルソン
衣装デザイナー:ジョアン・スレイター
編集:ジョナサン・モリス
音楽:ジョージ・フェントン
出演:デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター、シャロン・パーシー、ケマ・シカズウェ

© Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, LesFilms du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and TheBritish Film Institute 2016

2016年/イギリス、フランス、ベルギー/英語/100分/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch
配給・宣伝:ロングライド

『わたしは、ダニエル・ブレイク』
オフィシャルサイト
http://danielblake.jp
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