OUTSIDE IN TOKYO
JIM MARMUSCH INTERVIEW

『リミッツ・オブ・コントロール』
ジム・ジャームッシュ オフィシャル・インタヴュー

3. 撮影監督クリストファー・ドイルとの仕事について

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引用されたランボーの詩、さながらに、船引きの先導なく出航をしたかのように見える今回のプロダクションだが、案の定、絵コンテは用意されず、その代わり、ロケハンで、ジャームッシュとクリストファー・ドイルのクリエイティビティが爆発した。
ジャームッシュ:僕は絵コンテを描いたことがない。それに最近の作品では、ショットリストも用意しない。だからこの映画でも、ロケ地の視察は非常に重要だった。全てのロケ地にまずひとりで、それからクリス・ドイルと一緒に足を運んだ。クリスがロケ地を見てから、ふたりでカメラの動きやそこで物語のどの部分を撮るべきかといったことを考えた。ロケ地に行くと、よく新しいアイディアが浮かんだ。ロケハンの最中、クリスはひっきりなしに横道に入り込んでは姿を消し、取り憑かれたように写真を撮っていた。撮影を始める前の数カ月間は、1度につき2週間の時間を取ってクリスに会い、とにかく話しまくってショットについてのアイディアを出し合った。

撮影監督のクリストファー・ドイルが本作で果たした役割は大きい。大胆かつ繊細にして、野性的ですらある彼の仕事ぶりをジャームッシュは更に振り返る。
ジャームッシュ:クリスはセットの中で、その場所を明るくするためではなく、むしろ影を作るために照明を使った。これはポジティブな部分とネガティブな部分の対比の認識を逆転させる考え方だ。クリスは、この件について小論文を書いている。例えば、異なるフィルム上で、緑色と並んだ赤色がどんな風に微妙ではあるが目に見えて違って見えるかとか、文化的経験といった要因に依存して人の目がどんな風に異なった反応を見せるかといったことが書かれている。海の浮かぶ船の絵があったとすると、アジアでは船はすごく小さく、海は非常に大きく描かれることが多い。だが欧米の絵ではほとんどの場合、海は船の周りを囲んでいて、船は構図の中心に据えてある。
クリスは視覚的に衝撃を受けると、もう子供みたいに夢中になって興奮するんだ。目をキラキラさせてね。それがまわりに伝染する。僕は普段、自分の作品の枠組みをかなりきっちりと管理する方だが、クリスの仕事や仕事に対する柔軟な姿勢には、なにか不思議な力がある。どう説明していいか分からないが、枠組みは広げられ、僕自身が認識していたものよりもずっと柔軟性を持ったものになる。クリスと一緒に働くには自分の凝り固まった考えを捨てて、過去の共同制作のときよりも撮影監督の仕事の縛りをゆるくしなければならなかった。ダイナミックなショットを撮るときなどは、クリスはほとんど野性的になる。

HDビデオカメラを使わずに、35ミリカメラとフィルムで撮影するジャームッシュの映画美学を変えずに、従来よりもハイペースで撮影を進めることができたのは、クリストファー・ドイルの功績。
ジャームッシュ: あるシーンで、僕が「こんな風に撮ろうと思ってるんだ」と言うと、クリスは最初のショットにしか興味を示さないことがよくあった。残りのショットについては「ああ、それは考えたくない」って言うんだ。カメラのアングルも、ほとんどの場合、僕がカメラを置こうと思う場所とは違っている。そして9割方、僕が考えたものよりもいい画が撮れる。そして、クリスはとにかく仕事が速い。クリスのスピードがなかったら『リミッツ・オブ・コントロール』をスケジュール通りに仕上げることはできなかっただろう。これまでは1日で平均24シーンくらいを撮っていたが、今回は1日で35シーンは撮っただろう。HDビデオカメラならそうしたスピードで撮影出来るが、僕らは画家の感覚を目指していたから、媒体は35ミリカメラと特性のフィルムとレンズにこだわった。

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