OUTSIDE IN TOKYO
ICIAR BOLLAIN INTERVIEW

イシアル・ポジャイン『オリーブの樹は呼んでいる』インタヴュー

3. この作品には『エル・スール』がこだましている

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OIT:その寛容度の高さは、アルマが叔父を騙す、それに対する彼の反応からして映画冒頭で明かされていましたね。そのスペイン人的なニュアンスという部分ですが、ポールさんの脚本は英語で書かれたのですよね?
イシアル・ポジャイン:ポールはすべて英語で書いて、それを翻訳者に訳してもらいました。それを私が翻案して、スペイン的なニュアンスを加えていったという感じです。特に、会話に関しては、よりエネルギーに満ちた感じを加えていきました。やはり、翻訳される過程で、元にあった精神のようなものが失われていくことがあるものですから、そうした部分を私の方でより自然な表現にしていったのです。

OIT:そうすると、その翻案部分だけではなく、内容的な部分でもイシアルさんが脚本に絡んでいるところもあるのでしょうか?
イシアル・ポジャイン:脚本に関しては、私も助言や提案をした部分があります。ただ、ポールはもう12年間スペインに住んでいて、スペイン語で書きはしませんが、喋ることはできますから、スペイン人の発想には慣れているんです。確かに私が助言をすることがあったり、実際にオリーブ農園で働いている人たちの意見を取り入れたりすることもありました。そうした共同作業を通じて、彼の書いた脚本に現場の生の声が反映されていくということはありましたね。

OIT:そうした共同作業のやり方や、プロの俳優と素人をキャスティングするといったオーガニックな映画作りの方法については、ケン・ローチ監督から多くを学ばれたのでしょうか?
イシアル・ポジャイン:この作品が私の8作品目になるのですが、今まで大体同じような作り方をしてきました。キャストに関しては、プロの俳優の中では探せない人物というのがどうしてもいるんです。ですから、私の今までの作品では、どの作品にも必ずひとりは中心的な人物を演じる素人をキャスティングしてきています。そして、今までの経験上、素人を混ぜるという方法は毎回上手くいっていて、プロとアマチュアが混ざると、とても良い化学反応が生じる。本作でいえば、あの祖父を演じてくれたお爺さんは、本当に地元の人なんです。やはり、大地で常に働いている人の雰囲気というのは、俳優では出せないんですね。この祖父を演じてくれたマヌエル・クカラさんは、演技も本当に素晴らしかったわけですけれども、まずキャスティングの段階で、この役柄に一番相応しい人を探すというミッションがあって、それで彼が選ばれた。彼は実際にオリーブ農園で働いていて、樹を育てていたので、本当に役柄と似た境遇にあった。だから上手くいったのだと思います。

OIT:ところで、この祖父のお爺さんは、『エル・スール』(83)のお父さんに似ているなと思いながら見ていたのですが、それは私の気のせいでしょうか?
イシアル・ポジャイン:そうですよね!実は私もそう思っています。そっくりなんです。自然に醸し出す優美さが共通しているんですよね。

OIT:そう思って見ていくと、タイトルも『El Sur』と『El Olivo』(本作の原題)ですし、『エル・スール』は主人公少女と父の物語、こちらは主人公少女と祖父の物語、そして、どちらも少女の回想が物語の中で語られるというようなことがあります。『エル・スール』に対するオマージュのような気持ちが、この作品のどこかにあるのでしょうか?
イシアル・ポジャイン:確かにあると思いますね。この作品には『エル・スール』がこだましているのだと思います。もちろんそれは、より無意識的なものなのでしょう。ポール・ラヴァーティはスコットランドの人ですから、どこまで彼がそれを意識していたかはわかりません。まずは、“家族”というテーマ、そして、自分の“ルーツ”ということ、そして、年配の人との美しい関係、過去とどうやって繋がるかといったこと、確かに私の中では無意識に繋がっていたかもしれません。ポールがそれに気付いていたかどうかはわかりませんが、私はそうした共通点を感じていました。『エル・スール』の父親は、水を探し当てることが出来たわけですが、この作品では、代々受け継いできた自然を失う、そうしたことに対する郷愁も、二つの作品に共通していますよね。



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