OUTSIDE IN TOKYO
Guillaume Brac INTERVIEW

海辺のバカンスにやってきた母娘。奔放な母親と美しいが少し奥手そうな娘。ロメール映画のような格好のシチュエーションから始まる映画だが、主役は2人ではなく、バカンス客に家を貸すサエない男。そんな彼が母娘と過ごす時間が映画の主軸となり、観客を引き込んでいく。そんな『女っ気なし』で男を演じたヴァンサン・マケーニュはじわじわと注目を集め、監督のギヨーム・ブラックも一躍、時の人となった。前作短編でもマケーニュを起用し、田舎町で自転車が壊れ、途方に暮れるサイクリストを一晩泊めてあげる謎の男を演じさせていた監督のミューズはやはりマケーニュだった。だが新作『やさしい人』での彼は、かつてインディーのロックスターだったというカリスマ性を与えられる。その歩き方、身のこなしには、人の視線を浴びてきたことがところどころ見え隠れする。だが現実にはピークを過ぎ、父のいる田舎町トネールに居候し、ギターを手に歌ってみても、どこか切なさが漂う。そんな彼に一筋の光が訪れる。地元新聞の駆け出しの記者が、彼をインタビューしたいと押し掛けてきたのだ。その若い女性は彼の話に聞き入り、目を輝かせる。また彼も若さとエネルギーに溢れ、彼に興味津々の女性に魅了される。かつての自分を取り戻したように、彼女の若さに酔いしれる。だがそんな時間はすぐに終わりを迎える。一転して彼女にサッカー選手のカレシの存在が現れ、急に彼女からの連絡が途絶えてしまう。彼はパニックになる。再び見つけた自分。輝いている自分。物語はそれまでの明るさからは想像でもできない方向へ急展開を見せる。

マケーニュという俳優を得て、自分自身を投影しながら作品を作り、作品毎によくなってきた監督のギヨーム・ブラックに話を聞くのはいいタイミングに思えた。爽やかな受け答えの中に繊細さを垣間見せる彼の姿は、自然とマケーニュが演じてきた主人公たちと重なっていった。

1. ロメールやジャック・ロジエから影響を受けた映画だと決めつけられることには
 少し違和感を覚えていました

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):前作『女っ気なし』と今作『やさしい人』の間で、何か変化はありましたか?
ギヨーム・ブラック:『女っ気なし』はとてもヒットして、沢山の観客がこの映画を好きになってくれました。ただ、とても人気が出たこと、成功したことによってこの映画にあまり捉われたくないという風にも思いました。一方で『女っ気なし』と同様、今回の『やさしい人』も観客に気に入ってもらいたいという気持ちもありました。『女っ気なし』は私自身の話でもあります、とても個人的な話です。ですから、『やさしい人』は『女っ気なし』の続きのようでもあると同時に、断絶して、一本線を引いた違う映画でもあります。『女っ気なし』は、自分で資金を出して作った低予算の映画でした。今作は、自分でももちろん資金を出していますけれども、プロデューサーを見つけて撮ることが出来ました。前作同様、『やさしい人』も私のよく知っている人達を使って映画を撮りました。ヴァンサン・マケーニュもその中の一人です。ただ彼にはこれまでと違う新しい登場人物を演じてもらおうと思っていたのです。繰り返しにはしたくないと思っていたからです。映画のトーンもやはり前作とは違う、途中からフィルム・ノワール、ジャンル映画に変わってしまう、何か映画の途中に断絶がある、そういった映画にしようと思っていました。ですから『やさしい人』は、前半が『女っ気なし』の続きのようで、後半はその反対のような映画になったと思います。

OIT:なぜ反対の要素を選んだのでしょう?
ギヨーム・ブラック:それを説明するのはとても難しいのですが、ラブストーリーには恋愛があり狂気があり喜びがあり苦しみもある、その中で妄想したり幻想を見たりするということがあるわけです。『やさしい人』も途中で挫折があってフィルム・ノワールに転換してはいますけれども、これは恋愛の二段階であって、一つの一貫した話でもあります。そして『女っ気なし』と『やさしい人』は、ある意味似ている、近いものがあると思います。『女っ気なし』を観た観客の方には、この映画はとても軽妙で面白い映画だという人もいれば、とても悲しくて暗い話だねという観客もいました。そして『やさしい人』もそうですが、とても軽妙で優しい部分もあれば、とても暗く悲しい部分があります。ですからこの両方の映画は二つの要素を持っていて、その二つの要素をどういう配分で調整していくのか、その違いがあるだけなのかもしれません。その時の私の精神状態によって、その軽妙さや暗さをどの程度配分していくのかというのが決まっていくのかもしれません。そして『女っ気なし』は、当時あの映画を観た人たちから、参照としてロメールやジャック・ロジエの名前が挙げられました。実際私自身ロメールやジャック・ロジエ監督から影響を受けて撮っていますので、その通りなのですが、ただ影響を受けた監督はこの二人だけではないので、そういう風な映画だと決めつけられることには少し違和感を覚えていました。他にも影響を受けた監督は沢山いるわけですから。

『やさしい人』
原題:TONNERRE

10/25(土)より、ユーロスペースにて公開

監督・脚本:ギヨーム・ブラック
製作:アリス・ジラール
撮影:トム・アラリ
出演:ヴァンサン・マケーニュ、ソレーヌ・リゴ、ベルナール・メネズ、ジョナ・ブロケ

(c) 2013 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH - FRANCE 3 CINEMA

2013年/フランス/カラー/100分/フランス語/DCP/1:1.85/5.1ch
配給:エタンチェ

『やさしい人』
オフィシャルサイト
http://tonnerre-movie.com
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