OUTSIDE IN TOKYO
ELISE GIRARD INTERVIEW

エリーズ・ジラール『静かなふたり』インタヴュー

2. 普通はシーン毎にカメラの設定を調整しますが、
 この作品では完璧にFIXした設定で撮っています

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OIT:ベルタさんはどういう風にそれを実現したのでしょうか?
エリーズ・ジラール:彼は大変才能豊かな人ですから、やはり才能のある人と仕事をするのが一番です(笑)。実はですね、クランクイン前にカメラテストを何度も重ねました。それでカメラのレンズの絞りなどを色々と調節するわけですが、それを完璧にFIXにしたんです。普通だったらシーン毎にカメラの数値を調節するわけですけれども、今回の作品では、テストで得た設定を貫いて全編その数値で撮っているのです。ですから、空の色も特殊な色になっています。例えば、パリの夜空ですけれども、実際はあのような色をしているわけではありません。彼は本当に凄く才能がある撮影監督ですからね。映画において空を撮ることは、撮影監督にとって最大の難関の一つなのです。

OIT:映画冒頭ですが、3点のスチールフォトで構成されていて、ベルトラン・ブルガラの音楽が流れてくる、ミステリアスな70年代のブニュエル映画のような感じを受けたのですが。そういう狙いはありましたか?
エリーズ・ジラール:それは特に考えていませんでした。でも実は、ブニュエルの作品は、2ヶ月くらい前からパリで特集上映が行われていて、丁度最近見直したばかりです。久しぶりに『昼顔』(67)を見たのですが、中国人が箱の中の何かを見せるシーンがあって、それがストーリーの中でどういう意味を持つのかということは説明されない。私の映画の中にも、例えば、ある場面でクモが出て来る、なぜクモが出て来るのかは説明されない、そういう何かちょっと謎めいたところというのが、ブニュエルの作品と私の作品が持っている共通の要素かもしれません。そういう訳で私の映画を撮り終えてからブニュエルの作品を見直してみて、彼の作品と私の作品の間には、何か繋がっている糸みたいなものがあるということを感じていました。もちろんブニュエルの作品は大好きで、そのスタイルはモダンであると同時に、少しノスタルジックでもあります。それに貢献しているのがブルガラの音楽であり、レナート・ベルタの画なのだと思います。

OIT:前作では三年ぐらい脚本に時間をかけたと伺いましたけれども、今回はどれくらい時間をかけて、どのように作られましたか?
エリーズ・ジラール:大体、私は一人で書き始めます。映画って本当に撮影するまでに時間がかかりますから、今回の場合も二年ぐらい、脚本の執筆に時間をかけています。今も、撮影はまだ先ですが、二つの脚本を書いている最中です。『静かなふたり』の時は、一通り書いてから、脚本に共同クレジットされているアンヌ=ルイーズ・トリヴィディクという女性が、コンサルティングのような感じで助言する形で参加してくれました。ジョルジュとマヴィの関係性をどういう風に一歩一歩進めていくか、構築していくかっていうところで彼女の助けを借りたのです。

OIT:ジョルジュのキャラクターですけれども、監督のインタヴューを読んだら、『山猫』(63)のサリーナ公爵(バート・ランカスター)と「赤い旅団」の実在した出版人(ジャンジャコモ・フェルトリネッリ)をモデルにしていたということですけれども、ひょっとしたらレナート・ベルタもモデルの一部だったのではないかと思ったのですが。
エリーズ・ジラール:少しね(笑)。手書きの文字(カフェの壁に貼られていた求人募集など)が見えるところは、レナートの手書き文字なんです。

OIT:というのは、あるインタヴューでレナート・ベルタさんが、マルグリット・デュラスに彼女の映画の撮影を頼まれたけれど、スケジュールが合わなくて断らなければならなかった、彼女はそのことを覚えていた、と語っていたものですから、あなたとレナートとの間でそのような会話があって、今回の作品の中であのようにデュラスが揶揄されていたのかなと思ったのです。
エリーズ・ジラール:それはないです(笑)。デュラスは好きな作家です、もちろん嫌いな人もいますよね。あのシーンは、デュラスに纏わる現実というものを、きちんと表現しておきたかったのです。デュラスを、凄く大好きな人達もいれば、ちょっと耐えられないっていう人もいる、そういう現実の風景を一つのシーンの中に取り入れたものです。


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