OUTSIDE IN TOKYO
Valérie Donzelli & Jérémie Elkaïm INTERVIEW

『わたしたちの宣戦布告』という、この象徴的、かつ限りなく挑発的なタイトルは、普遍性という意味でとても大きく、映画作家2人の個人体験をベースにしているという点では小さい。大きい、小さいという物語の普遍性のことだが、人々に共通する社会性と、真実味を支える個人的体験にしっかりと裏打ちされている。だがそこに、女性監督ならではの、幻想的な寓話性と勢いが加わることにより、眉間に皺を寄せてまじめに教条する雰囲気はない。あくまで、楽天的な若者2人が出逢い、恋に落ち、急激に襲われた環境に対処する内にいつのまにか大人へ成長していく個人的な物語だ。それを見事に形にしたのが、フランス人女優であり、長編2作目となるヴァレリー・ドンゼッリと、脚本に参加し、この映画にスタイルを持ち込む元パートナーのジェレミー・エルカイムだ。2人は映画の物語と同様に、出逢い、恋に落ち、子供を作って現実の困難に対処するうち、ある意味、恋を卒業し、恋愛を越えた同志のような関係になり、個人的なパートナー生活は解消した。と言っても分かりにくいと思うので、物語はこうだ。

ある夜、パーティーで出逢った無邪気な男女。名前はロメオとジュリエット。そのまま2人は寝て、一緒に過ごすようになる。刺激いっぱいで楽しい日々。そしてその結果、子供が生まれた。男は逃げることなく、一緒に子供を育てる。2人は職業的な夢を築きあげる前に次々と襲ってくる日常に対処しながら現実と向き合う。ところが、子供の様子がなんとなくおかしい。他の子供はとっくに出来ているのに、いつまで経っても歩かない、言葉をしゃべらない。2人は焦り、苛立ちをぶつけ合うようになる。若い2人は別れるのだろうか。だがそれでも2人はがんばる。そして、息子が重い病気であることを知る。悲嘆に暮れる2人。現実に押しつぶされそうになりながらも、それでも2人は持ちこたえる。彼らは戦うことを選んだのだ。互いの両親の協力も得て、彼らは社会に、世の中に、運命に、“宣戦布告”する。

そう、こうした状況は全てが鏡のようにノンフィクションではないだろうが、2人の経験から出たものだ。そして俳優を雇わず、主観的、客観的な、両方の視点を持ち合わせた2人が自ら主役を演じることにした。その悲しみや苦しみは深くとも、どれだけの茨の道を歩もうとも、2人は生き残る人たちがするように、それをユーモアにさえ転化して見せる。若い2人は運命と共に疾走し、未経験なことに未熟にぶつかっていきながら、後ろを振り返ってみると、なんとなく、少しは成長していた。それだからこそ、振り返ってみれば、笑うことができる。

この映画は、もちろん完璧などではない。手づくりの自動車でレースを挑んでいるようなものだ。不完全で、凸凹で、不揃いで、稚拙。だがそれが僕らの感覚にフィットする。そしてなぜかとてつもなく愛しく、とんでもなく清々しい。実際、人生なんて解決なんてしないものかもしれない。でも、それをどう走るか、どうぶつかり、どうすり抜けるか。それに尽きるのかもしれない。そう考えれば、毎日が宣戦布告だ。重さ、軽さ、明るさ、暗さはあれ、僕らの運命、僕らの世界、僕らの僕らの自身への挑戦。そんなおかしくて泣けて爽やかでちょっと意地悪な映画は、矢継ぎ早に繰り出す2人の話からも汲み取れるはずだ。

1. ノンストップで最後まで行く、
 全自動洗濯機感!を出したかった(ヴァレリー・ドンゼッリ)

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Q:そもそも、どうして自分たちの物語を描かなければいけないという気持ちになったのでしょうか。また、個人と社会との振り幅はどのように考えていたのでしょう?
ヴァレリー・ドンゼッリ Valérie Donzelli(以降VD):そうならざるを得ないという義務感は全くなかったんです。最初にあったのは、やっぱり映画に対する欲望です。前作『彼女は愛を我慢できない』(09)と違うものを作りたいとは思っていました。もっとアクションがあり、戦いがあり、そしてラブストーリーであるということが必要だったわけです。そこで考えたのが、ひょっとすると私たちが生きてきた経験がいい素材になるのではないかと。そうすれば、その戦っているカップルの姿が描けるのではないかと思ったのが最初ですね。私たちが生きた経験をなんとしても映画にしなければという想いは全然無くて、あったのは、欲望であり、欲求であり、私たちの生きた経験が興味深いものに思えたわけです。
Q:映画を貫いているスピード感とか、テンポがすごく印象的で、常に2人が走っている(感じで)、路上でも病院の中でも、疾走感みたいなものがすごく印象的でした。この映画のテンポとか印象についてはどんなところにポイントを置かれていますか?
VD:ムーブメントの中に登場人物たちがいる、とてもフィジカルな映画を作りたかったのです。最初は前作でも撮影している撮影監督のセリーヌ・ボゾンが、35mmフィルムを使って、手持ちカメラにしようと言ったのですが、途中でセリーヌがこの映画に参加できなくなってしまった。その後、撮影監督をすることになったセバスチャン・ブッシュマンとかなり長い準備期間をかけて、自然光をどういう風に撮ろうかと病院に行って、スチールカメラでやっているうちに、それが動画も撮れるので、パノラマ撮影をする時に手持ちカメラよりもずっとずっとスピード感が出るね、という話になったんです。スチールカメラでムービーが撮れる小さなコンパクト・カメラ(キャノン5D)を選んで、常にノンストップで、いつも走っているような雰囲気を出せればいいと。まるで全自動洗濯機みたいに!次から次へノンストップで最後まで行くという。そういう全自動洗濯機感を出したかったんです。

『わたしたちの宣戦布告』
原題:LA GUERRE EST DÉCLARÉE

9月15日(土)よりBunkamuraル・シネマ、シネ・リーブル梅田ほか全国順次上映

監督:ヴァレリー・ドンゼッリ
出演:ヴァレリー・ドンゼッリ、ジェレミー・エルカイム、セザール・デセックス、ガブリエル・エルカイム

2011年/フランス/100分/カラー/HD/シネマスコープ/ドルビーデジタル
配給:アップリンク

『わたしたちの宣戦布告』
オフィシャルサイト
http://www.uplink.co.jp/
sensenfukoku/



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