OUTSIDE IN TOKYO
Denis Villeneuve INTERVIEW

カナダの俊英ドゥニ・ヴィルヌーヴが、1970年代にレバノンを壊滅させた内戦に想を得た、ワジディ・ムアワッド原作戯曲「incedcies」をもとに作られた傑作『灼熱の魂』(10)に続いて、原作として選んだのは、またもや一筋縄では行かない重厚な作品、ポルトガル唯一のノーベル文学賞作家ジョセ・サラマーゴによる長編小説「複製された男」だった。本作『複製された男』で意気投合したドゥニ・ヴィルヌーヴと主演を務めたジェイク・ギレンホールは、再びタッグを組み『プリズナーズ』(13)を製作、日本では、順序逆で既に公開され、好評を博したことも記憶に新しい。

『灼熱の魂』においてパレスチナの過酷な歴史をテーマとして扱いながらも、ゴダールばりのタイポグラフィに対するセンスをスクリーンに輝かせたドゥニ・ヴィルヌーヴが、まさに今、ガザ地区へのイスラエルによる常道を逸した攻撃が世界を揺るがせる中、今度は、カフカばりの不条理劇の中で、優れたグラフィックのセンスを炸裂させている。パレスチナを支持して反ユダヤ主義者呼ばわりされたゴダールは、かつて毛沢東の文化大革命すら支持してしまい、革命的な映画作家が必ずしも政治的に常に正しい判断を行ってきたとは言い難い前例を作ってはいるものの、全ての映画作家が政治的に間違い続けているわけではないということを、皮肉な事にも証明していたのは、アモス・ギタイやアヴィ・モグラビといったイスラエルの映画作家たちの存在だった。アモス・ギタイやアヴィ・モグラビの映画を見て、少なくとも私たちが知ることが出来るのは、イスラエルの民が置かれている二重性である。それは、歴史上虐げられた民であり続けた”被害者”であると同時に、現在においては、パレスチナの民を抑圧する”加害者”であるということだ。

このユダヤ的二重性の不条理を、本作『複製された男』も生きている。もちろんそれは、オーソン・ウェルズの『審判』(63)やローマン・ポランスキーの『テナント』(76)、ジョセフ・ロージーの『パリの灯は遠く』(76)といった映画史において鈍い輝きを放つ傑作群において私たちが見てきたものと無縁ではないだろう。近年ではモンテ・ヘルマンの迷宮映画『果てなき路』(10)を想起しても良いかもしれない。ただし、これらの作品とは異なる、どうしてもゴダール的と呼びたくなるタイポグラフィのセンスと、呆気にとられる洒脱な展開がドゥニ・ヴィルヌーヴ作品の独自性を特徴づけている。今、最も注目すべき映画監督のひとり、ドゥニ・ヴィルヌーヴのオフィシャル・インタヴューをお届けする。。

1. フェラーリのようにパワフルな俳優たちと仕事をし、その実力を存分に活かすチャンスを与えられた

1  |  2  |  3



Q:プロデューサーのニヴ・フィッチマンとのコラボレーションはどのようなものでしたか?
ドゥニ・ヴィルヌーヴ(以降DV):プロデューサーのニヴとは長いつき合いなんだよ。12,3年位になるかな。前作『灼熱の魂』(10)を撮り終えた後は、色々と大変なことが多くて慌ただしくしていたんだけど、ニヴとは常々一緒に仕事をしたいと考えていたから電話したんだ。それで一緒に手がけるプロジェクトを探そうって言ったんだ。ここ10年くらいずっと一緒に仕事をしたいと思っていたからね。それでいい仕事が出来るように、アイデアを出しあった。そんなとき、ニヴはジョゼ・サラマーゴ原作の二つの映像権を取得した。最初の話し合いでその二つの小説について話をして、両方読んだ僕は「複製された男」を選んだんだ。色々なアイデアを模索したけど、「複製された男」を読んだ時、これは映画に出来ると思ったんだ。何故か?第一に一人の男のアイデンティティーと潜在意識、自己を深く考察するといったテーマに非常に惹きつけられたこと。加えて役者の数が非常に少ない点だ。一人か二人、または三人ぐらい。そうすると彼らとの試行錯誤に多くの時間がもてる。何のために映画を作るのか理由は様々だけど、アーティストとして言うなら、何かしら新しい分野で進化をして、映画を作る人間として成長したいと思うんだ。今回で言えば物語の紡ぎ方――役者との関わり方を模索して、どうやって一緒に映画を作り上げていくか。それは僕の今までの作品では追求出来なかった側面なんだ。映画を作る時、最終的にどのような形になるかは分からない。どこに向かいたいかは分かるし、方向性は定まっているけれど、頭の中のヴィジョンそのものをカメラに収めるのは並大抵のことじゃない。当たり前だけど、結果には過程が必要だ。僕にとって今回の映画のプロセスは正に思い描いていた通りになった。それはフェラーリのようにパワフルな俳優たちと仕事をし、その実力を存分に活かすチャンスを与えられたことだ。

『複製された男』
原題:ENEMY

7月18日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
撮影:ニコラ・ボルデュク
編集:マシュー・ハンナム
音楽:ダニー・ベンジー、ソーンダー・ジュリアーンズ
出演:ジェイク・ギレンホール、メラニー・ロラン、サラ・ガドン、イザベラ・ロッセリーニ

2013年/カナダ、スペイン/90分/カラー
配給:クロックワークス、アルバトロス・フィルム

© 2013 RHOMBUS MEDIA (ENEMY) INC. / ROXBURY PICTURES S.L. / 9232-2437 QUEBEC INC. / MECANISMO FILMS, S.L. / ROXBURY ENEMY S.L. ALL RIGHTS RESERVED.

『複製された男』
オフィシャルサイト
http://fukusei-movie.com
1  |  2  |  3