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COSTA-GAVRA INTERVIEW
コスタ=ガヴラス オン 西のエデン

左翼系政治家の死の真相に迫りながら陰謀に巻き込まれる判事を描き、ジャン・ルイ・トランティニャン、イヴ・モンタンが演じた『Z』(69年)など、政治陰謀や運動など社会的テーマを扱うことの多いフランス在住のギリシャ人監督のコスタ=ガヴラスは、『ミッシング』(84年)でカンヌ国際映画祭でパルムドール、『ミュージック・ボックス』(89年)でベルリン国際映画祭の金熊賞を受賞した巨匠の一人だ。アメリカやフランスを拠点に硬派な社会派ドラマを撮りながら、サスペンスやエンターテイメントの要素を忘れない彼だが、名前よりも作品の方が知られているかもしれない。昨年は彼の娘ジュリー・ガヴラスも『ぜんぶ、フィデルのせい』を発表している。そんな彼の新作『西のエデン』がフランス映画祭で上映された。ヨーロッパを目指して船に乗り込んだ不法移民のエリアスは、エデンという名のリゾートに上陸し、ギリシャからパリまでの道のりを、言葉ができないままに旅を続ける。道中で出会う人々は、善い人と思えば悪かったり、悪そうな人が善人だったりと最初の印象を裏切る。社会レベルでは疎まれる存在でありながら、個人レベルでは人の役に立ったり、増え続ける経済移民の現状を、極度にシンプルな移動の物語に転換する、これまでと大きく違う作品に仕上っている。この映画を作った経緯を聞きながら、76歳になる監督の映画作りの真髄を垣間みられたような気がする。

1. 『西のエデン』は移民に対するオマージュ

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なぜこの作品を撮ることにしたのですか?
もちろん、まず個人的な理由があります。数年前、ヨーロッパ、特にフランスで起きている移民の状況に関して撮りたい、というのが主な理由になります。ほとんど悲惨な状況にある国から、よりよく生きられる国へと向かって、移民を志す人々の動きが活発になっています。
自分自身も、実際に外国へ移り住んだ人間ですから、このような状況は少し自分にも関わりがありますし、個人的な思いもあります。またそうした移民の人々が見せているのと、また違う表現をしたいと思ったのです。つまり、移民が描かれたとしても、少しばかり移民が悲劇的な状況を見せて、結局はその移民たちが社会に受け入れられない、ということを見せる映画が多いのです。私はその逆のことをしたいと思いました。すなわち、移民に対してオマージュを捧げ、そうした外国からやってきた人々が、その社会において重要な役割を演じることができるということを示したかったのです。
そしてまたこの映画を作ったのは、こうした移民の到来という動きが今だけのことではないことを見せるためです。今後ますます増えていくでしょうし、少なくとも今後10年くらいは、この動きはますます盛んになるだろうと思ったからです。

主人公の辿った経験というのは、自分の辿った経験とは違いますよね?
もちろん何らかの違いはあります。時代がもちろん違います。私がフランスに来た時代は、世界はよい方向に向かっているという希望が持てるような時代でした。フランスでも必ず仕事が見つかるような時代でした。ところが現在の経済状況は悪化し、失業率が高くなっています。そのような状況のために、移民は危険な存在だと見なされるようになっています。その点が大きく違います。しかし、世界の状況がどうであれ、こうした移民の動きは昔から存在していましたし、今後ますます増えていくことでしょう。

映画から少し離れますが、あなたがフランスに降り立った時の記憶を、覚えていたら教えていただけますか?
あれは人生最悪の瞬間でした。列車で来ましたので、リヨン駅に降り立ったのですが、リヨン駅から外に出て見たパリは、雨が降っていて、暗くて、しかも当時ですから、まだ建物の表面が煤で黒くて、霧もかかっていて、悲しい風景を見ました。それを見た瞬間、一体なぜこんなところに来たのだろうと思いました。本当に、考えられるうちで、最も悲観的なヴィジョンでした。もちろん、その考えはすぐに変わりましたが。

それは助けてくれる人がいたからですか?
すぐにではありませんけど、そうした人々には早い時期に出会いました。特にパリの大学都市にいたのですが、大学都市の寮でそうした人に出会いました。

その時の経験が、彼の動きの端々に見え隠れているわけですか?
もちろん、孤独感ですね。一番はあの登場人物の中にある孤独感でしょう。結局、あの街に一人でいて、通る人々は彼のことを少し見るけれど、結局は無関心に通りすぎていく。また自分の抱えている問題を語ることもできない。そんな孤独感です。

『西のエデン』
Eden á l' Ouest

2009年3月、フランス映画祭にて公開

監督:コスタ=ガヴラス
脚本:コスタ=ガヴラス、ジャン・クロード・グランバーグ
製作:ミシェル・レイ・ガヴラス
撮影:パトリック・ブロシエ
編集:ヤニク・ケルゴー
出演:リッカルド・スカマルチョ、ジュリアンヌ・コーラー、ファティ・アキン

2008年/フランス・イタリア・ギリシア/35mm/カラー/1:2.35/ドルビー TRS/110分
© KG Productions
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