OUTSIDE IN TOKYO
ABEL & GORDON INTERVIEW

あのフランス映画社のバウ・シリーズ35周年記念作品として2010年に劇場公開された『アイスバーグ!』(05)、『ルンバ!』(08)が映画ファンの間で熱い支持を受けたアベル&ゴードンが、新作『ロスト・イン・パリ』を携えて来日し、元気な姿を見せてくれた。カナダの田舎町から、アーティストである叔母が暮らす街パリを目指してやってきた主人公フォオナの珍道中を、スタイリッシュな映像美と道化師由来の見事な身体芸で楽しませてくれる『ロスト・イン・パリ』は、今現在、彼らの最新作だが、その前の作品、2011年カンヌ国際映画祭の監督週間で上映され40カ国以上で公開されて好評を博した『La Fee/ The Fairy』が中々の傑作で、Youtubeに全編が掲載(https://www.youtube.com/watch?v=chPzieJXu4U)されているので、ご興味のある向きは是非ご覧になることをお薦めしたい。

アベル&ゴードンの作品は、ジャック・タチやチャップリン、バスター・キートンといった喜劇王たちの映画作品と比較して賞賛されることが多いが、二人の真の強みは、元々”道化師”だった点にあるだろう。お二人が本インタヴューの中でも語っている通り、”道化師”の伝統は、チャップリンやキートン以前のものであり、アベル&ゴードンのルーツは、”映画誕生”以前の伝統芸の世界にある。その上で、ピエール・エテックスやタチといった現代映画に啓発されているところが興味深く、独自の色彩感覚と美的感覚が息づく、独特な世界観を創造する鍵になっている。もちろん、そうした美学的側面ばかりが、作品の中心にあるというわけではない。アベル&ゴードンが、頭の先から爪先まで、全身を使って表現するのは、人間の精神の”自由”と人間の身体の”不自由”の鬩ぎ合いである。その不可避な鬩ぎ合いが激化していく中から、止むに止まれぬ笑いが生まれ、メランコリーと複雑な情感がスクリーンを満たして行く。加えて、本作『ロスト・イン・パリ』で特筆すべきなのは、エマニュエル・リヴァの存在だ。(現時点で)本作が遺作となってしまったエマニュエル・リヴァの背中に空高く舞い上げる”翼”と、軽やかな”フットワーク”を授けたアベル&ゴードンに賞賛の拍手を贈りつつ、お二人のインタヴューをお届けする。

1. ピエール・エテックスのおかげで
 モダンで様式的な表現が可能であることに開眼したんです

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):お二人の作品は、『ルンバ!』(08)と『The Fairy』(11)を拝見していました。そして、今回新作の『ロスト・イン・パリ』(16)と共に来日されるということで、お会いできるのを凄く楽しみにしていました。お二人は元々演劇をされていて、そこで知り合い、現在の映画作りに至っているわけですけれども、映画を作り始めるきっかけのようなものはあったのでしょうか?
フィオナ・ゴードン:きっかけは確かにありましたが、実は最初から映画をやりたいと思っていたんです。演劇は、一瞬で消えてしまう儚い面もありますので、絵画のように残るものを作りたいという気持ちは始めからありました。でも、私達のやり方は、演劇で様式化されすぎていて映画には向かないんじゃないか、動きも大きいし、そういう思いがあってなかなか踏み出せなかったんです。実際、具体的なきっかけとなったのは、フランスの映画作家ピエール・エテックスの作品なんです。エテックスは、ちょっとジャック・タチに似ていて、非常に身体的な表現でありつつ、モダンな様式を持った人です。ですからとてもモダンでありつつ、様式的な表現も出来るんだということが、エテックスの御陰で分かって開眼したわけです。
OIT:ピエール・エテックスの映画というのは、日本でも2015年に特集上映があって、結構観ている人もいるんですが、具体的にどの作品というのはありますか?
ドミニク・アベル:『女はコワイです(https://www.youtube.com/watch?v=Sp5k5yaFCCU)』(62)という作品がありまして、これが彼の最初の長編なんですけど、長編にしては50分という短さなんです。その映像の処理が非常に面白くて、今見れば、ビデオクリップ的に見えるところもあると思いますが、演技がかなり極端で視覚的にも非常に凝っている作品です。私たちは舞台の出身ではありますけれども、元々チャップリンとかキートン、タチといった人達には凄く魅力を感じていました。私たちが惹かれるのは現実の生活の中の道化師的な存在なんです、サーカスのクラウン以上に、現実生活の中でのクラウン的な存在に惹かれているのです。


『ロスト・イン・パリ』
英題:Lost in Paris

8月5日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開

製作・監督・脚本:ドミニク・アベル、フィオナ・ゴードン
出演:フィオナ・ゴードン、ドミニク・アベル、エマニュエル・リヴァ、ピエール・リシャール

©Courage mon amour-Moteur s'il vous plaît-CG Cinéma

2016年/フランス語、英語/フランス、ベルギー/カラー/83分/1:1.85/5.1ch
配給・宣伝:サンリス

『ロスト・イン・パリ』
オフィシャルサイト
http://www.senlis.co.jp/
lost-in-paris/
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