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第5回映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~
スペシャルエディション アルノー・デプレシャンとともに

最新のフランス映画を特集上映する「第5回映画批評月間 ~フランス映画の現在をめぐって~ スペシャルエディション アルノー・デプレシャンとともに」が、9月8日(金)から9月29日(金)まで東京日仏学院で開催される。

本特集上映では、ノエミ・メルランとの共演が楽しみなルイ・ガレルの監督最新作『イノセント』や、『ベネデッタ』等、快進撃が続くヴィルジニー・エフィラを主演に迎えたアリス・ウィンクール監督の『パリの記憶』といった注目作品の上映もさることながら、新作映画『私の嫌いな弟へ  ブラザー&シスター』の公開(9月15日(金))に合わせて来日するアルノー・デプレシャン監督のほぼ全作を網羅するレトロスペクティブ上映が予定されている。

デプレシャン監督の登壇や特集上映は、東京日仏学院の他にも、国立映画アーカイブにて開催中の「第45回 ぴあフィルムフェスティヴァル2023 アルノー・デプレシャン監督特集」などでも予定されており、この9月はデプレシャン祭りの様相を呈しつつある。1991年に『二十歳の死』でデビューして以来30年間以上に亘って、映画作家として第一線で歩みを続けてきたアルノー・デプレシャン監督が、2023年現在、斜陽にあるこの国を訪れて、何を思い、何を語るのか、注目したい。

『私の嫌いな弟へ ブラザー&シスター』
9月15日(金)より、Bunkamura ル・シネマ 渋谷宮下ほか、全国順次ロードショー
公式サイト:https://moviola.jp/brother_sister/#modal

「第45回 ぴあフィルムフェスティヴァル2023 アルノー・デプレシャン監督特集」
9月9日(土)〜9月23日(土)、国立映画アーカイブにて ※月曜休館
公式サイト:https://pff.jp/45th/lineup/arnaud-desplechin.html
2023.9.12 update
ゲスト:アルノー・デプレシャン(映画監督)、佐向大(映画監督)、須藤健太郎(映画批評家)、月永理恵(エディター&ライター)、結城秀勇

9月8日(土)~9月29日(金)
会場:エスパス・イマージュ
料金:一律 1,100円
※チケットは Peatixにて9/1(金)15時より発売いたします。上映当日、窓口での販売はございませんので、ご注意ください。

公式サイト:https://www.institutfrancais.jp/tokyo/agenda/cinema20230908/



アルノー・デプレシャン監督からの挨拶
僕のこれまでの映画を日本で特集してもらえる時が来ました。ここに書ききれないほど感動しています。僕の人生において、皆さんがどれほど大切な存在であったかを実感しながら。皆さんに会いに来ること、日本映画について知ること、日本の映画館や大学やバーで時を過ごすことがどれほど好きか。初来日のときは、(新宿ゴールデン街のバー)ラ・ジェテで尊敬するコッポラに遭遇したことも!けっして消えることない思い出です……。そう、東京を訪れるたびに、僕は自分が歩んできた道のりを確認してきました。
もう映画を作り続けて32年です!僕はT・S・エリオットの詩の以下の2行を自分に言い聞かせるように暗唱しています。

ああ齢が寄る……齢が寄る
ズボンの裾をまくってみようか


後ろを振り返るすべなど心得ていないと思いながら……。

当時シャイヨー宮にあったシネマテーク・フランセーズでの一夜をはっきりと記憶しています。僕は19歳で、バルコニーの最前列でエリック・ロシャンとパルカル・フェランと共に座っていました。あれはアンリ・ラングロワだったか、オーソン・ウェルズが紹介されて入ってきました。会場は満席で、僕たちは巨人の言葉に酔いしれました。ウェルズは「この会場で映画を撮りたい人は誰でしょう」と観客に問いかけ、おそらく約300人が一斉に手を上げました。ウェルズは、今度は「君たちの中でエンターテインメントを作りたい人はいますか」と尋ね、ロシャンと僕はすぐに両手を高く上げ、すぐに自分たちだけだと知り恥ずかしさで縮こまったものです。

それから僕は32年間エンターテインメントにつとめ、皆さんを楽しませてきました。時にはわかりにく、あるいは博識ぶった、または大衆的なモチーフとともに。東京で上映される僕の全作品を前にお伝えしたいのは、各作品の後ろに僕は決して隠れることなく、完全に自分を捧げようとしてきたつもりだということです。裸になり、ばかばかしくも、華々しくも、慎みなく、みだらに。そう僕が唯一、倫理を持っているとしたら、それは "みだらであれ "という倫理でした。 俳優たちの素晴らしきみだらさに倣って。俳優と同じように、僕は自分自身のを道具として映画を作ってきました。
独学の僕に、映画はすべてを教えてくれました。それが今回の来日に際して僕が言える唯一のこと、感謝の気持ちであり、それは僕の誇りの源です。

上映スケジュール
9月8日(金)
13:30
揺れるとき
(93分)

16:00
パリの記憶
(105分)

18:30
イノセント
(100分)
上映後:トークショーあり(ゲスト:佐向大、結城秀勇)
9月9日(土)
13:30
フルタイム
(87分)

15:30
あの頃エッフェル塔の下で
(120分)
18:30
キングス&クイーン
(87分)



9月10日(日)
13:30
イヌとイタリア人、お断り!
(70分)
15:30
イノセント
(100分)

18:00
ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して
(117分)


9月15日(金)
14:15
ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して
(117分)
17:00
フルタイム
(87分)

19:00
イヌとイタリア人、お断り!
(70分)


9月16日(土)
13:30
揺れるとき
(93分)

16:00
イヌとイタリア人、お断り!
(70分)
18:00
パリの記憶
(105分)



9月17日(日)
13:30
フルタイム
(87分)

15:30
パリの記憶
(105分)

18:00
エスター・カーン めざめの時
(148分)
上映後:アルノー・デプレシャンによるティーチインあり
9月18日(月・祝)
11:00
あの頃エッフェル塔の下で
(120分)
14:00
そして僕は恋をする
(180分)

18:00
キングス&クイーン
(153分)




9月19日(火)
14:00
揺れるとき
(93分)

16:15
パリ18区 グット・ドール街
(98分)
18:30
エスター・カーン めざめの時
(148分)



9月20日(水)
14:00
ルーベ、嘆きの光
(119分)

17:00
二十歳の死
(52分)

19:00
いつわり
(105分)




9月21日(木)
13:00
二十歳の死
(52分)

15:00
クリスマス・ストーリー
(150分)
18:30
愛されたひと
(66分)
上映後:アルノー・デプレシャンを囲んだトークショーあり

9月22日(金)
13:30
パリ18区 グット・ドール街
(98分)
16:00
パリの記憶
(105分)

18:30
魂を救え!
(146分)

9月23日(土・祝)
12:30
パリ18区 グット・ドール街
(98分)
15:00
“男たちと共に”演技するレオ
(125分)
18:00
イスマエルの亡霊
(134分)

9月24日(日)
13:00
パリ18区 グット・ドール街
(98分)
15:15
いつわり
(105分)

18:00
“男たちと共に”演技するレオ
(125分)
9月29日(金)
13:30
ルーベ、嘆きの光
(119分)

16:30
愛されたひと
(66分)

18:30
クリスマス・ストーリー
(150分)

上映プログラム

アルノー・デプレシャン監督レトロスペクティブ

(C)Why Not Productions
『二十歳の死』(La Vie des morts)
フランス/1991年/52分/カラー/デジタル
カンヌ国際映画祭〈批評家週間〉出品
出演:マリアンヌ・ドニクール、エマニュエル・サランジェ、エマニュエル・ドゥヴォス、ティボー・ド・モンタンベール

フランス北部のある家で20歳のパトリックが散弾銃で自殺を図った。昏睡状態が続くなか、知らせを聞いた親戚一同が集まってくる。デプレシャンはこの監督デビュー作で、パトリス・シェローの門下生など若手新人俳優たちを大挙起用、驚くべき演出力によって窮地に追い詰められた一族の推移を濃密に描き、熱狂的に迎えられ、期待すべき若手監督に贈られるジャン・ヴィゴ賞を受賞した。

「この時期たくさん西部劇を見て考えていたのは、共同体が形成される時に必ずその影には多くの人間の死があるということだ。このテーマをまずは家族のスケールで描いてみた。登場人物たちひとり一人にそれぞれの軌跡があり、自分の秘密の隠れ家を持っている」
『魂を救え!』
(La Sentinelle)
フランス/1992年/146分/カラー/デジタル
カンヌ 国際映画祭〈コンペティション部門〉正式出品
出演:エマニュエル・サランジェ、エマニュエル・ドゥヴォス、マリアンヌ・ドニクール、ジャン=ルイ・リシャール

1991年。外交官だった父を亡くしたマチアスは、ドイツからフランスへと向かう列車内で突然身柄を拘束される。その後解放されてパリに着くと、マチアスのスーツケースの中には見知らぬ人の頭部が……。法医学の研究医である彼はこの頭部を分析し始めるが、そこには大きな政治的陰謀が隠されていた。初の長編作品は、敬愛するジャン・ル・カレにならった”スパイもの“である同時に、青春群像劇、クローネンバーグ風ホラーと様々なジャンルが織り交ぜられた意欲作。

「マチアスがずっと大切に持ち歩き続けるあの頭部は、ヨーロッパの死、ロシアの死、科学の死、様々なメタファーであると同時に具体的な何かに、ひとりの人間に再びなっていく」
(C)Why Not Productions
『そして僕は恋をする』
(Comment je me suis disputé... (ma vie sexuelle))
フランス/1996年/180分/カラー/35mm
カンヌ国際映画祭〈コンペティション部門〉正式出品
出演:マチュー・アマルリック、エマニュエル・ドゥヴォス、エマニュエル・サランジェ、マリアンヌ・ドニクール

パリ6区サンジェルマン・デ・プレ界隈を舞台に29歳の大学講師ポールと彼をめぐる3人の女性の恋のゆくえがユーモラスに、そして切実に描かれていく。フランス映画史に残るあらたな“恋愛映画の傑作”と評され、世界にもデプレシャンの名前を知らしめた作品。本作によってヌーヴェルヴァーグに続く“あらたな波”あるいは“デプレシャン系”という言葉が生まれ、映画界を席巻していく。

「ポールとは誰だ、と考えていたときに、マチューに出会い、ポールは女性たちなんだ、と気がついた。ポールという登場人物はたくさんの欠点を持っているかもしれないけど、彼の大いなる美点は周囲の人たちを感嘆とともに眺め、愛でることができるところだ」
(C)Why Not Productions
『エスター・カーン めざめの時』
(Esther Kahn)
フランス、イギリス/2000年/148分/カラー/デジタル
カンヌ国際映画祭〈コンペティション部門〉正式出品
出演:サマー・フェニックス、イアン・ホルム、ファブリス・デプレシャン、エマニュエル・ドゥヴォス

1891年、ロンドン、イーストエンドのユダヤ人街で生まれ育ったエスターは、内向的な性格で他人はおろか家族の者とさえ満足なコミュニケーションがとれない。そんな彼女がある日、初めて観た芝居に触発され、ひそかに女優になることを決意する。故リヴァー・フェニックス、そしてホアキン・フェニックスの妹サマー・フェニックス演じるヒロインは、激しさと繊細さを併せ持ち、デプレシャンが敬愛するトリュフォーの『恋のエチュード』のふたりの姉妹を思い起こさせる。音楽は重鎮ハワード・ショア。

「本作は、15年以上前に読んだアーサー・サイモンズの短編小説の映画化だ。脚色を始めたとき、僕たちは一本の映画『野生の少年』に導かれた」
(C)Why Not Productions
『“男たちと共に”演技するレオ』
(Léo en jouant « Dans la compagnie des hommes »)
フランス/2003年/125分/カラー/デジタル
カンヌ 国際映画祭〈ある視点部門〉正式出品
出演:サミ・ブアジラ、ジャン=ポール・ルシヨン、イポルット・ジラルド、ラズロ・サボ、アナ・ムグラリス

これは何人かの権力者たちと彼らが繰り広げる戦いについての話である。ふたりのビジネスマンが対立する金融界での闘争の真っ只中に投げ込まれる息子——まるでハムレットの世継ぎとふたりの王のようなーーの話であり、そこには侍従や愚者、無法人者なども巻き込まれていく。

「イギリス現代戯曲の中でももっともシェークスピア的なエドワード・ボンドの戯曲の中に70年代のB級アメリカ映画的なるものを見出したところから本作の構想が出発した。これほど未熟で、これほど怒りに満ちた映画を撮ったのは初めてだ!僕が15歳の時に見たかった、大好きだったのはこんな映画なんだ」
(C)Why Not Productions
『キングス&クイーン』
(Rois et Reine)
フランス/2004年/153分/カラー/35mm
ヴェネチア映画祭正式出品
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、マチュー・アマルリック、カトリーヌ・ドヌーヴ、モーリス・ガレル

一方には光輝く「クイーン」のようなノラが、もう一方には、落ちぶれた「キング」イスマエルがいる。ノラは結婚を前に、父が突然倒れ、過去の記憶や亡霊たちに囲まれていく。イスマエルは精神病院に強制収容されるも、そこで「休暇」を過ごすことに。かつて恋人同士だったふたりの人生がしだいに交錯していく。E・ドゥヴォス、M・アマルリックはこれまで以上に素晴らしい演技を見せ、アマルリックはセザール賞最優秀主演男優賞を受賞。

「シナリオを書くうえで取り決めていた言葉、それは“激しくあれ”ということだった。メランコリーとか、慎ましいユーモアなんかクソ喰らえ!僕らの望みは激しく悲劇的に、激しく喜劇的に、ということだった」
(C)Why Not Productions
『愛されたひと』
(L’Aimée)
フランス/2007年/66分/カラー/デジタル
出演:ロベール・デプレシャン、アルノー・デプレシャン、ファブリス・デプレシャン

家が売却されるのを知り、デプレシャンは故郷ルーベの家に戻り、幼少期について、結核で亡くなった母テレーズとのつながりについて、そしてデプレシャン家にまつわる家族関係について父に尋ねていく。ドキュメンタリーながら、ヒッチコックの『めまい』へのオマージュも感じられる本作には、デプレシャンの他の作品群(『二十歳の死』、『エスター・カーン』、とりわけ本作と同時に制作されていた『クリスマス・ストーリー』)を読み解くための鍵を見出すことができる。

「私たちは、自分が愛したと思っている人を知っているだろうか?もちろん、無知で不器用な私たちは正しく認識できずにいる。しかし、愛されたその人は私たちを知っている。それこそが愛の秘密だ」
(C)Why Not Productions - France 2 Cinéma
『クリスマス・ストーリー』
(Un conte de Noël)
フランス/2008年/150分/カラー/35mm
カンヌ 国際映画祭〈コンペティション部門〉正式出品
出演:マチュー・アマルリック、カトリーヌ・ドヌーヴ、アンヌ・コンシニ、メルヴィル・プポー、キアラ・マストロヤンニ

フランス北部の街ルーベ。ヴュイヤール家は、母ジュノンの病気をきっかけに、疎遠になっていた子供たちがクリスマスを過ごすために家に集う。しかし絶縁されていた”役立たず“の次男の登場で、久しぶりの家族の再会に波風が立ち始め、誰もが抱いている不安や寂しさ、秘密めいた想いが顔をだすことに……。ヴュイヤール家、姉妹の関係など最新作へと繋がるモチーフを持つ。

「クリスマスには魔法がかかります。退屈なつもらない街も、ただ雪で包むだけで、まるでおとぎ話の幻想的な街に変わるのだ。それは映画の魔法でもある。そこでそれぞれの登場人物は、ミュージック・ホールのように、それぞれが自分に適したナンバーを弾いている。」
(C)2013 Why Not Productions-France 2 Cinema-Orange Studio
『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』
(Jimmy P. (Psychothérapie d’un Indien des Plaines))
フランス/2013年/117分/カラー/デジタル
カンヌ 国際映画祭〈コンペティション部門〉正式出品
出演:ベニチオ・デル・トロ、マチュー・アマルリック、ジーナ・マッキー、ミスティ・アッパム

1948年、アメリカ、モンタナ州に暮らすアメリカ・インディアンのジミーは、第2次世界大戦からの帰還後、原因不明のさまざまな症状に悩まされ、カンザス州の軍病院に入院する。そこでフランス人の精神分析医で人類学者のジョルジュと出会う。ジョルジュとの対話を重ねるうちに、ジミーは自らの心に宿る闇に触れることになる。

「この映画のテーマは確かにアイデンティティであるが、同時に“亡命”でもある。ここにはふたつのレベルの亡命がある。ジミーはネイティブ・アメリカンとして亡命者であり、ジョルジュはユダヤ系ヨーロッパ人として亡命者である。彼らは治療に共に取り組み、そしておのずと友だちになっていく」
(C)JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS
『あの頃エッフェル塔の下で』
(Trois souvenirs de ma jeunesse)
フランス/2015年/120分/カラー/デジタル
カンヌ 国際映画祭〈監督週間〉出品
出演:カンタン・ドルメール、ルー・ロワ=ルコリネ、マチュー・アマルリック

長い間、外国暮らしをしていた人類学者のポールは、パリに帰国する途中で、パスポートをめぐる奇妙なトラブルに巻き込まれる。なぜか、世界には〝僕″が二人いる?偽のパスポートが忘れかけていた過去の記憶を呼び覚まし、ポールは人生を振り返りはじめる。ルーベの家族、ソビエトへのスリリングな旅、そして、忘れられない初恋…。『そして僕は恋をする』の続編ともいえる本作は思春期の若者たちの多感な感情を崇高な悲劇のように描いてみせる。

「キャスティングを始めた時、僕の大きな不安と大きな望みは、自分より30歳も若い俳優たちと幸福で創造的で充実した関係を築くのに成功することだった。全部で800人ぐらいの若者に会い、その中に定義できないような、ユニークな存在であるカンタンとルー・ロワがいたんだ」
(C)Jean-Claude Lother Why Not Productions
『イスマエルの亡霊たち』
(Les Fantômes d’Ismaël)
フランス/2017年/135分/カラー/デジタル
カンヌ国際映画祭オープニング作品
出演:マチュー・アマルリック、マリオン・コティヤール、シャルロット・ゲンズブール、ルイ・ガレル、ラズロ・サボ

映画監督のイスマエルは、外交官の弟イヴァンを題材にスパイ映画を準備中だ。イスマエルはシルヴィアという恋人がいるが、若い頃に突然失踪した元妻カルロッタの記憶に取り憑かれている。ある日、そのカルロッタが突然現れて…。

「トリュフォーはある時ドヌーヴにこう書き送った『傑作を作ろうと考えるのは問題外です!ただ生き生きとした映画を一緒に作りましょう』。本作の三人の女性たちはまさに生き生きとしている。高齢と闘うブルームも生命力に溢れてる。イヴァンがメランコリックで、ドストエフスキーの『白痴』のようだとしたら、イスマエルと彼の過ちはやはり生き生きとしている。そしてそんな彼に生き方を教えるのはシルヴィアなんだ」
(C)Why Not Productions
『ルーベ、嘆きの光』
(Roubaix, une lumière)
フランス/2019年/120分/カラー/デジタル
カンヌ 国際映画祭〈コンペティション部門〉正式出品
出演:ロシュディ・ゼム、レア・セドゥ、サラ・フォレスティエ、アントワーヌ・レナルツ

クリスマスの頃、ルーベの街でひとり老女性の遺体が発見される。警察署長のダウードと新米刑事のルイは同じ建物にカップルとして暮らすふたりの女性クロードとマリーを署に連行する。故郷ルーベの警察署の様子を記録したドキュメンタリーから着想を得て、現地の住民や警察官たちとプロの俳優たちを共演させて撮った初のフィルム・ノワール。

「これまでの僕の作品はロマネスクだった。あまりにも!そして過度なほどのロマネスクを、その『あまりにも』を僕は欲した。でも今日、僕は現実に密着した映画を撮りたいと思った。手が加えられていない、生の素材から始めたいと。そして俳優たちの芸術=技術によってそれが燃え上がらんことを求めたんだ」
(C)Shanna Besson / Why Not Productions
『いつわり』
(Tromperie)
フランス/2021年/103分/カラー/デジタル
カンヌ 国際映画祭〈コンペティション部門〉正式出品
出演:レア・セドゥ、ドゥニ・ポダリデス、アヌーク・グランベール、エマニュエル・ドゥヴォス

1987年、ロンドン。フィリップはロンドンに亡命している有名なアメリカ人作家。彼の愛人は定期的に彼のオフィスに会いに来る。そこでふたりは愛し合い、議論し、逢瀬を重ねながら、女性たちについて、性について、反ユダヤ主義、文学について、そして自分自身に忠実であることについて語り合う...。原作はデプレシャンが敬愛する現代アメリカ文学の巨匠フィリップ・ロスの代表的小説『いつわり』。場所も人物も特定できず、映画化不可能とされていたこの原作からデプレシャンは優雅で心張り裂ける親密なる作品を生み出した。

「本作はレアの完全なる自己投入に追うところが大きい。彼女は演じた役で自分自身について語っている」


*全作品日本語字幕付。「」は監督の言葉の引用
批評家たちオススメの最新フランス映画

Interdit aux chiens et aux Italiens © Gebeka Films
『イヌとイタリア人、お断り!』
(Interdit aux chiens et aux Italiens d’ Alain Ughetto)
フランス/2021年/70分/カラー/デジタル
アヌシー国際アニメーション映画祭〈コンペティション部門〉出品
監督:アラン・ウゲット
声の出演:アリアンヌ・アスカリッド、アラン・ウゲット

20世紀初頭、北イタリアのウゲッテーラ、ウゲット一族の村。この地域で生活することが非常に難しくなったウゲット一族は海外でのより良い生活を夢見ていた。伝説によると、ルイジ・ウゲットはアルプスを越えてフランスで新しい生活を始め、愛する家族の運命を永遠に変えたという。彼の孫が、タイムスリップしてルイジの歴史を振り返っていく。2022年ヨーロッパ最優秀アニメーション作品賞受賞作品。

「フランスを築いた移民たちへの親密なるオマージュ」(マルシア・デュブルイユ、「ル・モンド」)
Petite nature © Avenue B Productions - France 3 Cinéma
『揺れるとき』
(Petite nature de Samuel Theis)
フランス/2021年/93分/カラー/デジタル
カンヌ国際映画祭〈批評家週間〉出品
監督:サミュエル・セイス
出演:アリオシャ・ライナート、アントワン・ライナルツ、メリッサ・オレクサ、イジア・イジュラン

10歳のジョニーは東フランスの貧しい地域で、シングルマザーの母と二人の兄妹と共に暮らしていた。敏感で賢い彼は様々な物事に関心を持つが、ある日、都会から赴任してきた新任教師に心惹かれてゆく。本作はその才能に注目が集まる若手監督サミュエル・セイスの長編2作目。

「ここで重要なのは、社会的羞恥心と萌芽的な欲望に共通するもの、つまり視線の強さ--自分自身に向けられると想像する視線、選ばれた対象に投影する視線--に指をかけることであることは間違いない」(シャルロット・ガルソン、『カイエ・デュ・シネマ』)
A plein temps © Haut et Court
『フルタイム』(A plein temps d’ Eric Gravel)
フランス/2022年/87分/カラー/デジタル
ヴェネチア映画祭〈オリゾンティ部門〉監督賞・最優秀女優賞受賞
監督:エリック・グラヴェル
出演:ロール・カラミー、アンヌ・スアレス、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ

夫と離婚したジュリーは田舎町での2人の子供の育児と、パリの高級ホテルでのハウスキーパーの仕事に奔走している。希望していた職種の面接の日に、ストで公共交通機関が麻痺、ギリギリのバランスで成り立っていたジュリーの生活がぐらつき始める。ジュリーは状況を打開するために、すべてを失うリスクを冒して全速力で走り回る。

「社会派映画?もちろんそうだ。だがそれだけではない。またしても驚くべきロール・カラミーが登場する、見事に構成されたステキな映画だ」(ジャン=バティスト・モラン「レザンロキュプティーブル」)
L’Innocent © Les Films des Tournelles
『イノセント』(L’Innocent de Louis Garrel)
フランス/2022年/100分/カラー/デジタル
カンヌ 国際映画祭〈コンペティション外〉正式出品
監督:ルイ・ガレル
出演:ルイ・ガレル、ロシュディ・ゼム、ノエミ・メルラン、アヌーク・グランベール

60歳の母シルヴィが服役中の男と結婚しようとしていることを知ったアベルはパニックになる。親友のクレマンスの助けを借りて、母を守るために男を追い始める。しかし、その新しい継父ミシェルとの出会いはアベルを変えていくことに...。人気俳優であるとともに、監督としても着々と力を付けてきているルイ・ガレルの監督長編4作目。批評的に広く絶賛されるとともに、本国で大ヒットした作品。

「ペーソス溢れる家族ドラマは、やがて60年代のイタリアン・コメディを思わせる、とても滑稽な犯罪コメディへと変貌を遂げる」(ジャン=マルク・ラランヌ、「レザンロキュプティーブル」)
Goutte d’Or © Laurent Le Crabe - Kazak Productions -France 2 Cinéma
『パリ18区 グット・ドール街』(Goutte d’or de Clémence Cogitore)
フランス/2021年/103分/カラー/デジタル
カンヌ国際映画祭〈批評家週間〉出品
監督:クレモン・コジトール
出演:カリム・ルクルー、ジャワド・ウトゥイア、エリエス・ドヒシ

再開発の進む郊外に近いパリ18区グット・ドール(黄金のしずく)街。決して治安が良いとは言えないこの地区で、それぞれ異なる文化を持つ住民たちが暮らしている。インチキ降霊術を営む35歳のラムセスは古くからの住民たちからは問題視されながらも稼業を上手く行っていた。しかしタンジールからやってきた子供たちの存在がそのバランスを崩していく。映画と現代アートの間で創作を続ける俊英クレモン・コジトールの新作。シネフィルで有名なカトリーヌ・ドヌーヴにも絶賛された作品。

「コジトールは現実の根底にある幻想的な世界の痕跡を探し求める」(オリビア・クーペー=ハジアン、「カイエ・デュ・シネマ」)
Revoir Paris © Dharamsala – Darius Films – Pathé Films – France 3 Cinéma
『パリの記憶』(Revoir Paris d’Alice Winocour)
フランス/2022年/105分/カラー/デジタル
カンヌ国際映画祭〈監督週間〉出品
監督:アリス・ウィンクール
出演:ヴィルジニー・エフィラ、ブノワ・マジメル、グレゴワール・コラン

パリで、ミアはあるブラッスリーでの襲撃事件に巻き込まれる。3ヶ月経っても、ミアは以前の日常を取り戻せずにいた。幸福を取りもどすため、ミアは自分の記憶の中を探求していく。2015年にパリで起きた同時多発テロ事件を彷彿させるドラマが描かれる本作は『約束の宇宙(そら)』などでその才能に注目が集まっている若手女性監督アリス・ウィンクールの長編4作目。

「これは小さな役までその声が響いてくる合唱のような映画であり、個人と集団の記憶、共有されたイメージと音、そして映画そのものについての作品である。」(アリアンヌ・アラール、「ポジティブ」)