OUTSIDE IN TOKYO
Carla Simón INTERVIEW

『ハウス・イン・ザ・フィールズ』は、アトラス山脈に始まり、カサブランカを経て、やがて国境を超えていく、モロッコを舞台にした<三部作>の第一作目であるという。この作品では、アトラス山脈の人里離れた山間地帯に暮らすアマジグ族の姉妹に焦点を充てている。姉のファティマは、父親の意向で、好きな学校を辞めて、カサブランカの男性の家へ嫁ぐことになり、妹のカディジャは、現モロッコ国王による「男性と女性は平等である」との宣言に触発されて、「将来は弁護士になりたい」という夢を抱いている。数百年に及ぶという共同体社会の伝統的な暮らしと、迫り来る現代社会の変化の波との相克が、四季折々の美しい自然と調和した人々の暮らしの中で炙り出されていく。

この美しき珠玉の作品を撮り上げたのは、脚本家、監督、プロデューサーとして、世界の映画祭サーキットで作品が評価されてきたタラ・ハディド、2020東京オリンピックの幻となった「新国立競技場」のデザインで知られるザハ・ハディドは彼女の叔母にあたる。タラ・ハディドは、写真家としても評価されており、ニューヨークの売春宿を撮り続けた「Heterotopia」シリーズなどのプロジェクトでも知られる。タラ・ハディドは、プレスリリースに掲載されている自らのコメントの中でドゥルーズの以下の言葉を引いている。「映像作家は自分の民族の民俗学を調査すべきではないし、また私的な物語にすぎないフィクションを自ら編み出すべきでもない。作家に残されているのは、自分を「仲介者」にできる可能性、つまり現実の虚構ではない人物をとらえ、彼ら自身を、「虚構化させ」、「伝説を語らせ」、「物語を話す」状態に導く可能性である。」タラ・ハディドはまさに、この言葉に導かれるようにして、“ポイーシズ(創造)”の瞬間に立ち会ったに違いない。

1. 都会と田舎というのはまるで違う二つの惑星のようです

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):『ハウス・イン・ザ・フィールズ』を拝見して、幾つもの意味でとても美しい映画だと思いました。まずは誰が見ても分かることですが映像が美しい、都会ですとどうしても黒とかグレーといったダークな色合いに支配されていますが、モロッコ・アトラス山脈の自然の暮らしは違いますね。自然の織り成す色が衣服や織物などに反映されていて、色彩が大変美しい。これは監督がご自身で撮影されたのかということと、やはり映画の審美的な側面というのは監督にとって重要だったかという点について教えてください。

タラ・ハディド:まず、美しさというアイデアについてコメントをして頂いてありがとうございます。撮影は私がしました、と言いますのも、この共同体は、非常に緊密な共同体ですから、その方法しかありませんでした。つまり大きなクルーを従えることが出来ない、自分とアシスタントとサウンドマンだけという非常に小さいクルーで撮影をしました。そして仰る通り、確かに都会はグレーだったり黒だったりするような色合いですけれども、自然のある田舎は本当に美しく、都会と田舎というのはまるで違う二つの惑星のようです。

そしてその美しさは、本当にカメラの目の前に既にあるものです、目の前にあるものをそのまま録画したということです。色彩はほとんど修正もかけていません、非常に乾燥した強い色合いを、ほぼそのまま使っています。この地に入って最初に気が付くのが自然の強烈な美しさですが、山々の広大な美しさが、そこに住んでいる人々の生活に反映しています。私は山に住んでいる人々を美しいと思いますし、私にとっては彼らの風習も非常に美しいと思えるものでした。


『ハウス・イン・ザ・フィールズ』
原題:TIGM N IGREN

4月9日(金)より、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか、全国順次公開

監督・撮影:タラ・ハディド
出演:カディジャ・エルグナド、ファティマ・エルグナドほか

© 2015,SUMMER 1993

モロッコ、カタール/2017年/86分/1:1.85/アマジグ語
配給・宣伝:アップリンク

『ハウス・イン・ザ・フィールズ』
オフィシャルサイト
https://www.uplink.co.jp/fields/
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