OUTSIDE IN TOKYO
SEBASTIEN BETBEDER INTERVIEW

美大を卒業した後、これといった職につくわけでもなく、33歳という年になってしまったアルマン(ヴァンサン・マケーニュ)は、そろそろ「本当に何かが起きないとマズい」と焦燥感を募らせている。そんな時に思い立って始めてみた朝のランニングで、アメリ(モード・ウィラー)と出会い頭の衝突をする。アメリは、27歳半の美術ライター志望、今はギャラリーで働いている。この衝突を切っ掛けに、少し打ち解けた会話を交わした二人だが、その場は、”ふつうのパリジャン”らしい慎ましさからか、再会の約束を交わすわけでもなく別れていく。ついに「何かが起きた」ことを感じとったアルマンは、翌日も、その翌日も、再びアメリと鉢合わせることを期待して、彼なりにお洒落なスタイリングを決めてランニングに望むが、ふたりは一向に出会うことができない。スクリーンでは、背景に流れる音楽が耳に心地よく響くばかりだ。

映画は、アルマンの美大生時代からの親友バンジャマン(バスティアン・ブイヨン)をスクリーンに登場させると、ウジェーヌ・グリーン『生きている世界(Le monde vivant)』(03)、ジャド・アパトー『素敵な人生の終り方』(09)、ロベール・ブレッソン『白夜』(71)といった、アルマン(そして、監督自身)が好きな映画群への言及を散りばめることで、アルマンの人となりを語らせるだけではなく、ナラティブにおける省略部分をシネフィル的引用で補っている。例えば、スタンダードサイズという枠の中で、正面を向いた俳優たちにモノローグを語らせる映画的実験が、何十もの断片化した章立てを通じて行われているのは、グリーンの『生きている世界』で描かれた”断片化した世界”を参照するものだろう。

本作において、その”断片化した世界”をゆるやかに統合し、日常的なリアリティと豊かな人間味をスクリーンに齎しているのは、やはり、ヴァンサン・マケーニュという希有な才能によるところが大きい。そして、ついにアルマンとアメリが再会を果たすシーンでは、セバスチャン・ベベデール監督のトラジコメディ的な演出が冴えわたる。運命的な再会を果たしたアルマンとアメリ、そして、親友のバンジャマン、パリの“メニルモンタン”で2009年秋から2011年冬までの3年間を過ごした”アドゥレサンス(ティーンエイジャー=”アドレサンス”と大人=”アダルト”の間を指す造語)”な登場人物たちの物語は、“マヤ歴によると世界が終わる年”2012年を迎えたところで一旦終焉を迎えるだろう。

“メニルモンタン”というのは、アルベール・ラモリス監督の『赤い風船』(56)の舞台にもなった、パリ20区にある下町情緒溢れる高台の街である。2015年12月の今、この地区が、11月に起きたパリ同時多発テロの標的のひとつとなった11区に程近いエリアであることを全く無視して、この映画を語ることは難しい。少なくとも言えることは、この映画は、”テロ以前”のパリを生きた、都市生活者のメランコリックなコメディであるということだ。そこには、シネフィル的な実験に留まらない、憂鬱でも尚愛おしいささやかな日常と、未来への漠然とした不安と希望が繊細な秋と冬の光のもとに刻印されている。そして、今も彼/彼女らの生活はそこで続いているはずだ。2014年6月に行われたフランス映画際での上映のために来日した、セバスチャン・ベベデール監督のインタヴューをお届けする。

1. 私は、映画だからこそ、観客と対話する関係を結べるのだと思っています

1  |  2  |  3



OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):まず最初に映画の構造について聞かせてください。なぜこういう断章で構成されたのでしょうか?
セバスチャン・ベベデール:最初にシナリオを書いた時は、一人の声でモノローグのように続けることを考えていたんですが、すぐに四人か五人の人物像に合わせた声を聞かせた方がいいんじゃないかと考えを改めました。最初のシナリオはもちろん映画のために書いたものですが、かなり書き込んだ文学的なものでした。それを映画に落とし込むにあたって、継続的な一つの声をテーマに幾つかの章を作ろうと思ったのです。というのは、人生の三年間というある程度の長さをそれで表したい、一人の人間の人生の長さを表したいということと、エピソード的な挿話と重要な主題を上手く組み込むような作りにしたかったんです。それでこうした構造になったのです。

OIT:カメラに向かって俳優達が話しかける、観客に向かって話しかけるスタイルはどの段階で決めたのですか?
セバスチャン・ベベデール:最初からです。映画では基本的にやってはいけないこと、滅多に使われることのない方法とされていますが、残念だなと思っています。私は、映画だからこそ、観客と対話する関係を結べるのだと思っています。しかし、いざ撮影を始めてみると、実際にはどういう結果が出るのか、全然分かりませんでした。その後、編集室に入ってから、観客に与えるインパクトについて理解しました。結果的は上手く行ったと思っています。俳優たちは自分の役にとても深く入り込んでくれました、それが上手く行ったのは、彼/彼女らのお陰ですね。演技に関しては、細かいところまで計画して、精密さを求めたことも成功の要因だったと思います。

OIT:撮影の段階では不安があったということでしょうか?
セバスチャン・ベベデール:まず不安を取り除くようにしました。お金をなるべくかけないようにしたんです。自由にやりたかったので、リスクをとる自由も得たいと思いました、間違えてもいいと。予算が少ししかありませんでしたので、外部の人の目もそんなに光ってはいなかった。だから私とスタッフと俳優陣がこの責任を自分たちで担うということにして、自由を確保したんです。

『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』
原題:2 AUTOMNES 3 HIVERS

12月5日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

監督・脚本: セバスチャン・ベベデール
製作:フレデリック・デュブレイユ
撮影:シルヴァン・ヴェルデ
編集:ジュリー・デュプレ
音楽:ベルトラン・ベトゥシュ
出演:ヴァンサン・マケーニュ、モード・ウィラー、バスティアン・ブイヨン、オドレイ・バスティアン、ポーリーヌ・エチエンヌ、トマ・ブランシャール、オリヴィエ・シャントロー、武田絵利子

(c) ENVIE DE TEMPETE PRODUCTIONS2013

2013年/フランス/90分/DCP/スタンダード/5.1ch
配給・宣伝:東風+gnome

『メニルモンタン 2つの秋と3つの冬』
オフィシャルサイト
http://menilmontant-movie.com
1  |  2  |  3    次ページ→