OUTSIDE IN TOKYO
Robert Guediguian INTERVIEW

なぜか作品から漂うやさしさから、細面のインテリを想像して部屋に入ると、一瞬にして『マルセイユの恋』(96)のフランス人監督ロベール・ゲディギャンのゴツさと存在感に威圧されてしまう。同じにおいの人にどこかで会っていると思いながら、初対面の握手を交わすとこれまたがっしりと力強い。もちろんそこに手放しの笑顔などない。

新作『キリマンジャロの雪』は前作同様、彼の出身地であるマルセイユが舞台だ。港湾労働者たちが港でくじを引くなか、一人また一人と苦い表情で溜息をもらす。そして最後に、場を取り仕切っていた、会社から一定数の解雇を要請された組合長ミシェル(ジャン=ピエール・ダルッサン)もくじを引き、自ら当たってしまう。そこまでしなくても、という同僚たちの声の中、自分にできる最低限の公平さだと、彼は潔く退職を決意する。そして彼の子供たちと同僚たちは、ミシェルと妻のマリ=クレール(マリアンヌ・マスカリッド)の長年の労をねぎらい、彼が「キリマンジャロの雪」の唄から、いつか行ってみたいと話していたアフリカはキリマンジャロへの航空券と、カンパした現金を贈る。

ところが妹夫婦との食事中、突然押し入った強盗に拘束され、全てを略奪される。しかも強盗の言葉から、航空券とお金のことを知っていた節がある。その後、暴力への恐怖に萎縮し、落胆するミシェルの前に、強盗が持ち去ったはずの自分の名前の書かれた漫画を手にした幼い兄弟をバスの中で見かける。そして兄弟を尾行した先にいたのが、彼と共に解雇された若い元同僚のクリストフ(グレゴワール・ルプランス=ランゲ)だった。通報した警察に連行されるクリストフ。そして残される幼い兄弟…。

このあと、監督のゲディギャンは混迷する現代に新たな答えを用意してくれた。それはその後の夫婦の行動で示されることになるが、続きは映画で見てもらう方がいいだろう。ただ、知らなければいけないのは、ゲディギャンが長年、労働闘争に関わってきた“闘う人”だということ。デモやストライキなど社会主義思想を掲げて闘った世代の意志を受け継ぐ人だ。そして彼は、時代と共に、人々からそうした手段への熱が失われていく様を見ながら、より広い観客に伝えるべく映画の道を選んだ。そこで彼の威圧感もどことなく理解できるというもの。そして彼に似た空気を感じたのが、後に口からも出るあの人だったのも興味深い。芯の強さと社会から外れた者、弱者へのやさしくもコミカルな眼差し。そんな印象も、監督の話を聞くことで納得がいく。上から意見を振りかざすのでも、暴力に訴えるでもなく、彼の背中から読み取れ、そう言われるような感じだ。これはあくまで自分の意見だが、この映画は、僕ら=社会が一歩先へ進むための、とても大切な、ある“生き方”を提示してくれている気がしてならない。できたら、今だからこそ見てほしい作品だ。

1. 貧しい人同士で争うような、そういう状況を富める者たちが意図的に作っている

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OUTSIDE IN TOKYO (以降OIT):最初に映画を拝見した時の印象ですが、“平等ではないんだな”という言葉がぱっと頭に浮かんだのですが、この映画は現在の監督の世の中の見方を体現していると言っていいですか?
ロベール・ゲディギャン(以降RG):そうだね。

OIT:そこをもう少し詳しく聞かせて頂けますか?
RG:今の世の中を見た時に恐ろしいと思うのは、豊かな人々とそうではない人々に分けた場合に、豊かな人々は豊かななりに世の中に存在するんだが、その人たちが豊かではない貧しい人達の繋がりを更に…、まあ、要するに貧しい人同士で争うような、そういう状況を富める者たちが意図的に作っていることです。それを見た時に、自分としてはとても深刻だと思うんです。それをこの映画の中で描いたのだと思っています。例えば、(労働組合長で退職を宣告する側になりながら、自らクジ引きで退職者にもなった)ミシェルと、(それによって解雇された若者)クリストフは、同じ仕事の現場で働いてはいるけど、互いのことをよく分かっていない、ということがこの映画の中で分ります。もしクリストフとミッシェルがもっと近い関係で、本当に、文字通りの仲間であったならば、クリストフはあのような行動に出なかったと思うんです。かつて労働者階級という階級の中でそこに組みしている人たちの中にはやっぱり繋がりがあったと思うんです。それを「連帯」と呼んでいたと思うんだけど、そういうものが無くなってると自分は思うんです。だから仕事をしている人たちも、それぞれがみんな別々に仕事しているような、そんな関係性があるんだと思う。だから、そうではなく、かつての様に彼らの中での繋がり、連帯感みたいなものをもう一度築き上げることが重要なのではないかと自分は思います。

『キリマンジャロの雪』
原題:Les Neiges du Kilimandjaro

6月9日(土)より岩波ホールにてロードショー!全国順次公開

監督:ロベール・ゲディギャン
出演:マリアンヌ・マスカリッド、ジャン=ピエール・ダルッサン、ジェラール・メイラン、マリリン・カント、グレゴワール・ルプランス=ランゲ

© AGAT Films & Cie, France 3 Cinema, 2011

2011年/フランス/107分/カラー/35ミリ/1:1.85/ドルビーDTS
配給:クレストインターナショナル

『キリマンジャロの雪』
オフィシャルサイト
http://www.kilimanjaronoyuki.jp/
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