OUTSIDE IN TOKYO
RAYMOND DEPARDON

世界最高の写真家集団“マグナム”に所属し、ロバート・キャパ賞も受賞している著名な写真家・ジャーナリストにして、映画作家としても本作でフランス最高の映画賞ルイ・デリュック賞を受賞したレイモン・デゥパルドン監督にパリのご自宅で『モダン・ライフ』についてお話を伺った。

もともと農村の出身である監督が10年来のライフワークとして取り組んできた本作は、ドキュメンタリーでありながらも全てのフッテージが用意周到に35mmシネマスコープサイズで撮影されており、作品の審美性を際立たせている。作品自体は「進歩が終わった世界を、人はどう生きるのか?」というテーマ性よりも、監督が、若い頃に捨てた農村での生活に今一度立ち返って自らのルーツとの対話を試みるプライベートフィルムの感触と、農村に住む人々との豊かな沈黙の時間が映画を支配する、瞑想的な美しさが印象に残る作品だ。エコやロハスという浮き足立った言葉とは一線を画する位置に静かに佇む本作を、ぜひともスクリーンで観る事をおすすめしたい。
(上原輝樹)

1. 写真を撮っているときも、映画をやりたいと思っていた

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インタヴュー・テキスト:佐藤久理子

──写真をやっていらした監督が、映画を始めたきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
レイモン・ドゥパルドン(以降R・D):じつはもともと映画をやりたいと思っていたのですが、結局写真から始めることになったのです。というのも、写真の世界の方が入りやすいからです。それに比べて映画はまず映画学校に行き、基礎を学んだりと、もっと道程が決められています。わたしはまず兄のカメラを借りて写真を撮り始めました。でもそのあいだも映画のことがずっとどこか頭のなかにあったのです。

──あなたは固定カメラで長回しを多用しますが、その理由は何ですか。
R・D:彼らが喋る瞬間を待っているからです。たとえば亡くなったマルセル・プリヴァは、わたしが出会った中でももっともガードの固い人物でした。当初テレビ局は2年間彼を追って、そのあいだに彼の人生のすべてを話してもらうことを望んでいました。でもそんなことが無理なのは、わたしにはわかっていました。彼らが喋る瞬間を予知することは、写真では学べないことでした。映画を撮るようになって自然に学んだのです。たぶんわたしの性格が学ばせたのかもしれません。わたしはしばしば砂漠や田舎に行って撮影をしましたが、そういう場所では絵になるようなものはないからです。そんなとき、そこで写すべきものを自分で発見しなければなりません。たとえばわたしは砂丘の写真をよく撮っていた植田正治の写真が好きですが、砂丘は我々に見るべきものを教えてくれます。彼は、「写真のなかでもっとも大切なのは背景、デコールだ」と語っていましたが、これはとても面白い意見だと思います。

田舎の人たちを撮影するとき、もっとも難しいことはまず彼らの信頼を得るということです。何年もかけてその場所に通わなければなりません。彼らは写真も、写真に撮られるのも好きじゃない。テレビさえ見ない。そんな彼らの信頼を得るためには、じっくりと時間をかけ、あせって事を進めないことです。彼らから「会えてうれしいよ」と言われるようにならなければならないのです。彼らの生活にこちらが侵入するような場合は好かれません。でも一度受け入れられたら、その後も彼らはあなたのことを歓待してくれるでしょう。

『モダン・ライフ』
原題:LA VIE MODERNE

6月26日より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー!

監督・撮影:レイモン・ドゥパルドン
製作・録音:クローディーヌ・ヌーガレ
音楽:ガブリエル・フォーレ
編集:サイモン・ジャケ

2008年/フランス/90分/35mm/カラー/シネマスコープ/ドルビーSRD
配給:エスパース・サロウ

©Raymond Depardon / Magnum Photos

『モダン・ライフ』
オフィシャルサイト
http://www.espace-sarou.co.jp/
modernlife/
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