OUTSIDE IN TOKYO
Ramin Bahrani INTERVIEW

〜ロジャー・エバートに捧げた映画〜
ラミン・バーラニ『ドリームホーム 99%を操る男たち』インタヴュー


質問、テキスト:上原輝樹
2015年12月22日  電話インタヴュー

『ドリームホーム 99%を操る男たち』は、「1%の富裕層が世界の4分の1の富を独占し、残りの99%を貧困化させている」問題を主題に、家の立ち退きで追い出された男(アンドリュー・ガーフィールド)が、立場を逆転、手段を選ばず大金を稼いでいく、アメリカ的弱肉強食社会のモラルハザードを描くヒューマンドラマである。非情でカリスマティックな不動産ブローカーを、盤石の存在感で演じるマイケル・シャノン、失業中のシングル・ファーザーを、予想を遥かに上回る熱量で演じ見る者を惹き付けるアンドリュー・ガーフィールド、家族と“家”の行く末を案じる母親をローラ・ダーンが演じている。

本作はひとまず、ジェイソン・ライトマン『マイレイジ、マイライフ』(09)、ジョン・ウエルズ『カンパニー・メン』(10)、そして、今年のオスカーを賑わしているアダム・マッケイ『ザ・ビッグ・ショート』(15)といったポスト・リーマンショック時代のヒューマンドラマの系譜に属する、危機を迎えたアメリカ資本主義社会の“今”をリアリズムで描く作品であると言って良いだろう。注目すべきは、脚本にイラン出身の映画作家アミール・ナデリが参加していることで、テンションを徐々に積み上げていく手法とアメリカ社会の闇を撃つテーマ性、子ども使いの上手さ(父親を演じるアンドリュー・ガーフィールドが一人息子とベッドで戯れるシーンの素晴らしさ!)が実にナデリ監督らしい。本作の監督ラミン・バーラニに、アミール・ナデリとの共同作業について、そして、監督のバックグラウンドについて幾つか質問を投げかけてみた。

「自分がこういうものにするというよりも、自然に映画自体がこういうものになる、
その生成を露わにしていくという映画作りをしています」ラミン・バーラニ




OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):この映画は、アミール・ナデリの作る映画とリズムが似ているような気がしました。脚本には彼の名前も入っていますがその影響によるものなのか、監督自身が特に意識したことなのか、考えを教えてください。また、彼との出会いのきっかけ、今回の共同作業についてもどんなものだったか教えてください。
ラミン・バーラニ:『駆ける少年』(85)を大学で観て、とても好きな作品だったので、いつかコラボレーションしたいと思っていたのですが、数年後、最初の長編映画『Strangers』(00)を作った時に、彼の撮影監督と仕事をすることができたんです。結果的に編集段階でアミール・ナデリからもアドバイスをもらうことができました。以来、友情は続いていましたが、お互い映画作りで色々なところにいたので落ち着いて話す機会はなかったのですが、今回の脚本を書いている時に、こういう企画があって…という感じで、企画開発の段階から相談したのです。それで、友情がより深まり、師弟関係が生まれ、メンターとして色々アドバイスをくれる存在になったという感じです。今回は、(ナデリさんと)本当に密なコラボレーションをすることができて良かったと思っています。

ただ、映画のリズムに関して言えば、自分のフロリダでの事前リサーチの経験から生まれたものだと言うべきでしょう。というのも、フロリダで“ロケット・ドケット”という短期裁判の様子を見たのですが、 わずか60秒の簡易裁判の判決によって家を失ってしまう人々が沢山いたのです。映画の中の台詞にあるように、「この後、4万件も順番待ちの案件がある」という状態なのです。家を失うという、大変大きな事態があっという間に起こってしまうので、自分に何が起きたのかよく分からないショック状態で、いつの間にか家族とともにモーテルに追い出されてしまう人々が沢山いる、という恐ろしい現実を目の当たりにしました。そこで目撃したことを参考にして、常に落ち着かず動揺している状態、そのリズムを映画に反映すると、こうしたリズムになるという感じだったのです。映画というのは、自分がこういうものにするというよりも、自然に映画自体がこういうものになる、その生成を露わにしていく…私自身、そういう映画作りをしていますから、最初から映画の内容を決めてリサーチに行った訳ではありませんでした。
OIT:かつて、“アメリカン・ドリーム3部作”(『Man Push Cart』(05)、『チョップショプ 〜クイーンズの少年』(06)、『グッバイ・ソロ』(08))を作られていますが、ご両親がイランからの移民であるというバックグラウンドが映画製作に与えている影響はありますか? 若くしてアメリカで作品が評価されていることについてどういう理由があると思いますか?
ラミン・バーラニ:バックグラウンドについては、自分自身はアメリカ生まれアメリカ育ちですが、親は確かにそうですね。今回原案を担当したハバレ・アジミはイラン人でずっとフランスに住んでいます。ナデリもご存じの通りイラン出身で素晴らしい先生であり、素晴らしいメンターでもある。自分の中にふたつの文化があることに僕はすごく感謝しています。そうした多様性が、物事を一面的ではなく、多面的に見る見方を養うことに繋がったのだと思います。アメリカ合衆国は移民の国ですから、僕が小さい時から大好きで、よく親しんでいて、影響を受けた映画作家たち、コッポラやスコセッシ、もっと遡ればビリー・ワイルダー、ジョン・フォードといった映画作家たちも移民の第一、第二世代の人達ですよね。僕にとってはふたつの見方に繋がる部分を持っていることは素晴らしいことで、イランの詩、イランの映画や映像とアメリカの感覚を組み合わせて映画作りができるというのは本当に天からの贈り物だと思っています。

評価を受けていることに感謝しています。批評家、一般の方々、そして業界の支持を得ることは映画作家にとって次の映画を作れるということでもあるから。とりわけ、ロジャー・エバートがいてくれたことは、僕にとってとても大きなことだった。彼と友情を育むことができたし、この作品も彼に捧げています。


『ドリームホーム 99%を操る男たち』
原題:99Homes

1月30日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次公開

監督・原案・脚本:ラミン・バーラニ
撮影:ボビー・ブコウスキー
プロダクションデザイン:アレックス・ディジェルランド
出演:アンドリュー・ガーフィールド、マイケル・シャノン、ローラ・ダーン、ノア・ロマックス

2014年/アメリカ/112分/カラー/5.1ch/シネスコ
配給:アルバトロス・フィルム

『ドリームホーム 99%を操る男たち』
オフィシャルサイト
http://dreamhome99-movie.com