OUTSIDE IN TOKYO
Percy Adlon INTERVIEW

パーシー・アドロン『マーラー 君に捧げるアダージョ』インタヴュー

3. 映画を観ることは、幸せだろうと、悲しみだろうと、何らかの感情を持ち帰ってもらうもので、
 彼らの生活の一部となり、彼らの人生のささやかな素材となるべきものです

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OIT:あなたは、映画はどうあるべきだと思いますか?
PA:映画はとても才能豊かな映画作家によるパーソナルな表現でなければいけないと思います。財布を握る者たちに制限され、薄められたものであってはならない。いじることでもっとお金を稼げる、影響を与えられると思っている人間たちに。それがうまくいった試しはないんです。そうした作品は、全ての人をインスパイアするものだと思います。映画館を出る時に、退屈だったり、疲れていたり、ただビッグマックを食べたい(笑)と思わせるものであってはいけないのです。幸せだろうと、悲しみだろうと、何らかの感情を持ち帰ってもらうもので、彼らの生活の一部となり、彼らの人生のささやかな素材となるべきものだと思います。自分たちとは無関係な単なるファンタジーではなく。

OIT:その通りですね。でも『バグダッド・カフェ』はその両方をやってのけましたよね。
PA:まあね(笑)。

OIT:エンタテインメントであると同時に、人々が持ち帰れるものも与えました。
PA:珍しい例外だったと思います。かなり珍しいだけでなく、それは計画できるものではないのです。でなければ、みんな『バッグダッド・カフェ』を計画的に作れるはずですから。でも素晴らしいのは、それができないことです。会社には何フロアにも映画を開発するための人間がいます。どうしたらできるのかと考えている。でも数字で言えば、彼は私一人よりもずっと成功率は低いはずです。年に12本とかを出すわけですよね。運がよければ、その12本の中の1本くらいは大ヒットに繋がるかもしれない。それは(私にとって)安心材料です。ほっとしますよ(笑)。

OIT:『バグダッド・カフェ』の成功の後、いろんなプロデューサーたちから声がかかったと思います。次の『バグダッド・カフェ』を作ってくれと。それは困難な状況とはなりませんでしたか?
PA:正直、全く難しくはなかったよ。

OIT:実際、そのあと続けて映画を発表していましたものね。『シュガー・ベイビー』もそうでしたっけ?
PA:『シュガー・ベイビー』は『バグダッド・カフェ』の前です。そのあとは同じ女優を使って、『ロザリー・ゴーズ・ショッピング』を作りました。そしてみんなががっかりした。誰もがまた『バグダッド・カフェ』を期待していたからです。でも、もしまた同じ『バグダッド・カフェ』を提供していても、みんなはまた同じじゃないかと言ったはずです。違いはないのかって。まあ、違うものを提供しても『バグダッド・カフェ』ではないと言われますけど。つまり、彼らを満足させる方法はないのです。『タンポポ2』を作るようなものです。うまく行くはずがない。それは唯一のもので、繰り返しは利かないのです。

例えば、これはFOXに言われたことですが、(主人公の)女性の夫にその後、何が起きたかを語ればいいじゃないかと言われました。彼女が去ることになった夫の(笑)。それはおもしろくないでしょう。私が興味を持ったのは、あの映画の女性たちであって、夫なんてどうでもいいわけです。僕が語りたいのはバヴァリア地方のバカな男の話じゃなく、女性たちの話なのだから(笑)。それで結局、『ローザリー・ゴーズ・ショッピング』を撮りました。でもこれは早すぎたと思います。『バグダッド・カフェ』はちょうどタイミングがよかった。その時代にとって。『ローザリー・ゴーズ・ショッピング』はクレジットカードによって人々の意識が様変わりし、それが巻き起こす文化的な変移について言及するものでした。楽しい映画だったと思いますが、ドイツでは誰も理解できなかった。フランスではもっとひどい。誰もクレジットカードを使っていなかったのだから(笑)。それは一体何のことだって感じで。だからアメリカだけで反応があった。

そして次にk.d.ラングと撮りました(『サーモンベリーズ』)。それは『バグダッド・カフェ』といい姉妹関係を作るものでした。『バグダッド・カフェ』は砂漠の中の話で、今度は氷の砂漠の中での話でした。エスキモーやイヌイットの土地です。それも満足のできるものでした。それから自分の家族とベルリンの有名なホテルについての映画を撮りました。『The Glamorous World of the Adlon Hotel』といい実際ささやかなヒット作となりました。ドイツではいつもテレビで放映され、とても愛されています。息子のフェリックスも20代で主役を演じ、私にとってはとても大切な映画です。それから自分でカメラを回してドキュメンタリーを10年撮り続けました。自分で撮ることを発見していき、それはとても充実した時間でした。22本の短編映画を撮りました。ヨハン・シュトラウスの知られざる作品について。だからそのあとは、音楽についての映画や小さな物語が続きました。歴史ものでなく、あくまでフィクションとして。

OIT:その短編はぜひ観たいですね。
PA:では、ぜひディストリビューターをみつけてください(笑)。テレビ局でもいいです。字幕もいらないし、ただ見るだけで楽しめますから。

OIT:それでも映画作りを続ける原動力となってきたのは何ですか?
PA:私はただ文章を書くだけの才能はないのです。音楽を作るだけの才能もない。絵を描くだけの才能もない。本を書くのも。有名な俳優になる才能もありませんでした。しばらくは俳優として活動していたんですけどね。だから適度な才能を一つのバスケットに詰めて(シェイクして)、それが映画作りというやつです。映画作りで、私は自分が好きなものを全て使うことができます。家族と仕事ができるのもその一つです。子供のエレノアやフェリックスとも仕事ができる。一緒に脚本を書き、共に苦しむ(笑)こともできます。それは人間である以上は必要なことですし(笑)。そうして私は倒れるまで映画を作り続けるでしょう。それが私の本質だからです。別に、常に映画を作っていなくてもいい。それにはたくさんのプライバシーが必要です。落ち着きと静けさ、何時間も砂漠を車で走りながら一言も口を聞かずにいられる状況もなくてはいけない。それは最高なことです。

OIT:それでは、次のプロジェクトについて聞くのはまだ時期尚早ですか?
PA:いや、早すぎることはないです(笑)。もう脚本は出来ているので。まだレジメだけですけどね。タイトルは『GRIETIEN』、つまりバスハウス、浴場という意味です。“温泉”のような、小さな浴場です。ニューメキシコ州のリオ・グランデ(川)の近くにある場所で、そこには温泉が湧き、『バグダッド・カフェ』のマレーネ・ゼーゲブレヒト演じるグレーティエンがその浴場を取り仕切ります。客はほとんどが老人で、よもやま話に興じたり、昼寝したり、読書するために集まってきます。そしてある日、事件が起きる。ソファが主軸となり、そこにたくさんのお金が隠されている。そして先住民のカジノを襲っていた若い強盗が登場します。またその若者は知らないけれど、30年間、刑務所に入っていた父親も出てくる。それも全て遺伝子の成せる業だったということです(笑)。でもほとんどの話が老人たちを中心に進んでいき、老いと、彼らがどのように楽しむかを見つめる、とても軽いコメディです。まあ、呼びたければ、ギャングスタ・コメディでもいいですけどね。でも『マーラー 君に捧げるアダージョ』や処女作の『Celeste』よりも、『バグダッド・カフェ』により近い映画ですね。

OIT:それは結果的に、人々が望むものを提供することにしたということですよね。『バッグダッド・カフェ』のような映画を欲している人たちへ。
PA:そうですね。そう言ってもいいと思います。

OIT:それは早く見たいですね。
PA:おもしろそうだと思います?

OIT:はい、とても!ではそれを今、実現させようとしているんですね。
PA:そうなんです。今は資金を見つけるのが本当に大変です。例え、“たったの”百万ユーロだとしても(笑)、それでも大変です。でもそれを見つけなければいけない。それにはすごい競争があるのです。パブリック・ファンディング、つまり国や自治体や公共機関から得るには。それに、幸運なことにたくさんの若く有能な映画作家たちがいて、みんながその資金を狙っている。80ほどの応募作の中から支援されるのは8本ほどで、10%にも満たない。だから宝くじのようなものなのです。

OIT:それは大変ですね。でもうまく行くことを願っています。ぜひ映画を見せてください。
PA:ありがとう。


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