OUTSIDE IN TOKYO
HANAYO OYA INTERVIEW

大矢英代はなよ『沖縄スパイ戦史』インタヴュー

5. 実際に戦場で起きているのは、コミュニティの破壊、家族の破壊、人間関係の破壊です

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OIT:映画では、“山下”の話から“スパイ虐殺”の話へと移っていきますけれども、そこでは、“裏の軍隊”が存在していて、住民が協力して“スパイリスト”が作られていたという話がありました。この話は結構知られている話なのでしょうか?

大矢英代:“裏の軍隊”といのは、“国士隊”の話ですね。これは研究者の間では良く知られている話ですが、沖縄でも一般的に知られている話ではないと思います。
OIT:この話の難しさは、かつて協力した人が今も生き残っているということですね。その中で取材を進めていくということは、取材をしても使えないものとかが結構あったりするのかなと思ったのですが。

大矢英代:そこの部分は、三上さんが取材をされていますので、私にはわからない部分もありますけれども、沖縄は小さな社会ですから、それを言うことによって、家族や血縁者との関係にもヒビが入ってしまう可能性があります。そうすると、そこでは暮らせなくなってしまったりするから、中々言い出せないという状況はあるようです。ただ、三上さんが、戦後73年経って、スパイ虐殺やスパイ狩りに協力した人が亡くなって初めて、それを知っている人が語り始めることが出来る、ということを言っていて、そういう意味では、ただ単に戦後73年経って失われているものばかりではなくて、今だから言えるということも出てきているのかなと思います。
OIT:証言者の中に軍服(※)らしきものを着て、“あの時の状況では、そうせざるをえなかった。今、そんなことを言われても、君だったら何が出来たというのか!”と話される方もいましたね。(※注:軍服のように見えるが、実際は“農作業着”とのこと。)

大矢英代:はい、いましたね。あの方は旧日本軍の人というわけではなくて、山に避難した一般の人です。玉城さんという方ですね。三上さんがその地域で目撃者を探した時に、自分はあの時のことはわかるよ、と言ってくれたので、カメラを回したら、次第にああいう風になっていったということです。
OIT:この雰囲気というのは、実は結構リアルなことで、現在、日本で暮らしている人なら、皆分かることなのではないかと思ったんです。日大ラグビー部の件にしても同じで、その場にいると中々逆らえないという空気が作られている。それは、ある部分では、今現在も全く変わっていないという意味で、結構暗澹たる気分にさせられる。そうした“重さ”がこの映画にはあります。

大矢英代:あれが実は、沖縄戦の本当の姿というか、真相です。いわゆる“地上戦”というと、私たちは肉体的な破壊をイメージするわけですが、実際に戦場で起きていることというのは、それだけじゃなくて、コミュニティの破壊でもあるし、家族の破壊でもあるし、人間関係の破壊なんですよね。同じ沖縄県民同士が疑心暗鬼になって、あいつは敵なんじゃないか?あいつを殺らなければ俺が殺される、自分が生き残るために相手を殺す、それって、今までの“沖縄戦”というもののイメージからは到底想像出来ない戦争の姿ですよね。でも恐らく、同じ国民同士、市民同士が疑い合って、裏切り合ってという現状は、これからどんな戦争が起きても、同じことが起きると思うんです。今でも、実際の戦闘こそ起きていませんが、マインドは戦争と同じですよね、沖縄の人はスパイだとか、翁長(知事)は中国の回し者だとか、自分と他者を区切って、あいつは変なやつだ、あいつは攻撃していい対象なんだ、そういう思考というのはもう始まってますよね。

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