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OLIVIER ASSAYAS INTERVIEW

オリヴィエ・アサイヤス:『クリーン』『ノイズ』、そして、現在撮影中の新作について語る

2. カルロスの物語、ソダーバーグの『チェ』、『バーダー・マインホフ』について

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越えなければいけない障害は、例えば、どんなものでしたか?
この企画は、フランスのペイTVであり、映画製作も行うカナル・プリュスの力強い支援を受けており、彼らは私の判断を支持してくれる。それは広いカンバスでストーリーを語ること。なにしろ、小さなプロジェクトとして始まりながら3部作の怪物に変身したからね。とにかく、彼らはストーリーを語るのに必要なものへの僕の意見に賛同してくれた。多様な言語を使うことについてもそうだ。そして有名ではあるけど、大スターとは言えない俳優に主役を任せることも許してくれた。僕はどうしてもエドガー・ラミレスを起用したかった。彼は何本か、特にハリウッド映画に出ているけれど、誰もが知る名前ではない。大きな賭けだけど、彼がカルロスに近いものを持っている気がして、それがこの映画を大きく支えてくれると信じたんだ。そうしたあらゆる要素に拘った上で資金提供者のサポートを得られるのは幸運というしかないね。だからそこまで困難ではなかった。でも最初から存在した大きな問題は、様々な国を再現しなければならないこと。つまり、カルロスの物語だけに、彼がひとつの国から次の国へと移動し続け、ある時期はロンドンにいたかと思えば、別の時期はパリにいたりしたわけだ。レバノンの訓練キャンプにいる時もあれば、イエメンの訓練キャンプにいることもある。リビアのカダフィ大佐(本名ムアンマル・ムハンマド・アル=カッザーフィー。69年の革命以来、リビアの実権を握り続ける)と交渉したり、常に様々な場所を飛び回っていた。そんな場所の、それぞれの空気を再現しなければいけなかった。車も、制服も、ヨーロッパ映画ではあまり使われないロケーションで撮影することも必要だった。そういう問題は山ほどある。でも映画を作るために必要な場所へ行けるだけの予算が集まったからこそ形にできるんだ。

その映画はDV、それともフィルムで撮影したの?
35ミリで撮ってるよ。というか、いわゆるシネマスコープ・フォーマットの、スーパー35だね。

カルロスに惹かれたそもそもの理由は?
最初はテレビ・プロデューサーのダニエル・ルコントから連絡が来た。彼は長いこと知りあいだったけど、一緒に仕事したことはなかった。それである日、彼が4ページの企画書を送ってきた。「シノプシスを送ったけど、興味はあるか?」って。でもそれはカルロスが物語のベースではなく、漠然とカルロスのイメージで書かれた、基本的にテレビ映画用の素材だった。その4ページと一緒に、ジャーナリスティックなリサーチのようなファイルが入っていて、カルロスの個人史として知られていることをほぼまとめたものだった。シノプシスを読んで特に興味は持てなかったけど、リサーチの方は読むのを止められなかった。それはある意味、魅力的で、彼に電話して「君が売ろうとしている素材に興味は持てないけど、カルロス自身の物語を映画化することに興味があるなら、考えてみる価値はすごくあるかも」と伝えた。ヨーロッパの左翼主義のストーリーは、たまに暴力的な行動へと発展したわけだけど、とても魅力的だし、その角度からこれまで語られて来なかったように思う。今までいろんなところで触れられてきたとは言え、それは核心を突いたものだった。同時に、現代的な神話となった人物を描いてみるのもおもしろいと思った。これまでの映画で描いてきたキャラクターと違った。これまでの僕の映画では現代史を扱ってこなかった。でもこれは実人生を超えたものであり、いわゆる現代史を扱うことを意味していた。刺激という意味では、僕にとって興味深かった。それに映画でこれまで探求されなかった領域を模索するいい機会だ。そんな理由はたくさんあった。これだけ時間がかかるかとも想像しなかったし、権利を独占するのがどれだけ大変かも分からなかった。でもとにかく、そのアイデアに興奮を覚えたんだ。

それに(スティーブン・)ソダーバーグ監督がチェ・ゲバラを描いたやり方とは明らかに違いそうですね?
そうだね。ソダーバーグの『チェ 28歳の革命/39歳 別れの手紙』とはもちろん描き方が違う。『チェ〜』はとてもよかったけど、アプローチが違う。かなり違うキャラクターであると同時に、『チェ〜』を見ることで自信が湧いた。映画で、あの時代の歴史的再現を、人々が理解できるように撮ることができ、あれほど大きなカンバスで描けるってことで興味深かった。時間をかけて物語を語れるという意味で。『チェ〜』はカンヌ映画祭で2本とも続けて見たけど、とても気に入ったし、全く退屈しなかった。だから自分もカルロスの物語を4時間半で語りながら、観客が退屈しないように撮ることができるかもしれないと思った。それは自分の映画のためのテンプレートみたいな感じだった。


こういうタイプのストーリーテリングでモデルにした映画はありましたか?
いや、特になかったかな。今まで誰もやってこなかったことだから。特にフランス映画では。とにかく、カルロスは国際的なテロリストで、ドイツの左翼とも繋がり、日本の同志とも繋がりながら、もちろんパレスチナとレバノンの、ベイルートのPLO(パレスチナ解放戦線)と繋がりがあった。シリアのために、リビアのためにも動き、冷戦時代は東欧諸国とも繋がっていた。彼の物語は、そうした様々な異なる世界を繋げるという意味でかなりユニークな立ち位置にある。こうした冷戦時代のリアリズムを利用した、60年代のスパイ映画やスリラー映画でも、こうした地理性は捉えてこなかった。カルロスという人間の物語のパワーに潜むオリジナリティーは独特で、歴史的にも究めて重要だ。そしてそういう映画がもたらすことのできるのは、当時の国際的なコネクションを知ることだけど、それは今まで探求されてこなかったことなんだ。

『バーダー・マインホフ』は観ましたか?
うん、観たよ。おもしろい映画だけど、全く違うところから出ている映画だと思う。ドイツ史で言えば極端にローカルだから。そして映画の足りない部分はーーーもちろん、おもしろかったし、そこここでしっかりした要素を感じられるけど、足りないのは、バーダー=マインホフの政治をちゃんと伝えていないところかな。それに資金をどこから調達していたかなど、国際的なコネクションも明らかにされていないし、結果的に、命令系統の源がどこだったのかも見せていない。東ドイツとのコネクションも語れていない。中東とのコネクションも触れられてない。訓練所にいる姿は見えても、それがどこにあるのか、その政治の内側の論理も見えない。だからいろんなレベルで強い映画ではあるけど、僕らがやろうとしているものとは全く着眼点が違うと思う。あと、日本赤軍を描いた若松孝二監督の日本映画も観たけど、それも違う視点だった。それを見て、とてもエキサイティングで興味深いし、映画のある要素に興味をそそられるんだけど、これもまた違うタイプの映画だったと思う。

そして奇遇にもジム・オルークが映画音楽をやっているよね。
そうなんだよね(笑)。

これまでのあなたの映画での音楽と映像の扱い方は、この映画でも見られるのかな?
この段階では時期尚早かな。映画にどんな音楽を使うのかは全く決めていないよ。

それはより普通のストーリーテリングということ?
そうだね。そう言っていいと思う。この映画は、そんなに音楽はないと思う。物語の中で音楽が必要とされる場合に入れるくらい。今の段階で言えるのは、この映画の場合、音楽は可能な限り少なくなる気がするよ。

『バーダー・マインホフ 理想の果てに』についてのあなたの意見はおもしろい、資金の流れや、資金提供元が見えないという意味で。あなたの映画では、そうしたカルロスの世界的なコネクションはもちろん扱うわけだよね?
それはもちろん!カルロスはPFLP(パレスチナ解放人民戦線)のメンバーだから、彼はワディ・ハダド(PELP創設者のひとり)の直接報告する立場にあった。同時に、彼はPLOとのコネクションも完全に切っていなかった。アラファトのPLOと秘密裏に手を組んでいたわけだから。それに悪名高いKGBのエージェントでもあった。とにかく、カルロスはワディ・ハダドの下で働き、最低でも、そのキャリアの初期段階においては彼らの資金に頼っていた。そしてワディ・ハダドの資金は、バグダッド、トリポリから来ており、東欧圏から強い支持を受けていた。ワディ・ハダドの死後、カルロスはシリア人たちに雇われ、実質的にシリアのスパイになっていく。彼はシュタージ(東ドイツの秘密警察・諜報機関である国家保安省)からも明確な支持を受けており、それがカルロスの武器売買を後押しした。シリア人からの大量の資金提供を受けながら、リビア人からも資金を受けていた。それにシリア人もリビア人も彼に売るための武器を流していた。彼は最終的に、バスクのETA(「バスク祖国と自由」スペインの民族組織)やアイルランドのIRAなど、ヨーロッパの様々な地下組織へ武器を売って資金を稼いでいたんだ。

ところで、あなたの家族はユダヤ系ではなかった?
父親がユダヤ人だったんだ。母親はハンガリーのプロテスタントだった。でも、そう、確かに父はユダヤ人だった。

でもあなたはユダヤ教徒ではないの?
そうだね。僕はユダヤ教徒ではないんだ。

レバノンで撮影する上で複雑なのかなと思って。
いや、確かに大きな問題になり得るかもしれないけど、まだそういう問題は起きてないよ。

映画を撮ることにおいて?
うん、そうだね。
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