OUTSIDE IN TOKYO
MIYAZAKI DAISUKE INTERVIEW

ブックオフとTSUTAYAのバイトを掛け持ちするケンジ(柳喬之)、ABCマートで働くスー(SUMIRE)、フリーターのニーナ(遠藤新菜)は、神奈川県の大和市でシェアハウスをして3人で暮らしている。地方都市で暮らす若者の描写は、『タンジェリン』(15)、『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(17)のショーン・ベイカー的な”貧しくてポップ”な感性を湛えているが、物語の展開はユルく、ネット通販で海外旅行が当たったニーナとスーは、”グーグル・ローリング”で旅行先をシンガポールに決め、ウーバーとiPhoneを頼りに見知らぬ国へとふわりと旅立っていく。

一昔前の日本で”海外旅行”といえば、パッケージツアーと「地球の歩き方」が基本だったが、本を買うお金も習慣もない若者にとってみれば、シェアエコノミーとスマホこそが現実のリアリティであるに違いない。シンガポールで”マーライオン”を軽くいなして、ショッピングモールへ行ったニーナとスーは、80年代の日本人観光客であれば”ショッピング”をしたであろうところも、やはり軽くいなして、”買う”のではなく、踊り出すところに、21世紀日本映画のリアリティが宿っている。

そして、映画は、次第に不穏な気配を漂わせ始める。主人公のニーナとスーは知りもしないであろう、戦争のモニュメントが唐突に登場するのだ。突如として顕在化した映画作家の意識が、この映画の底に横たわるエッセンスを露わにする。不意に浮上した彼の土地の歴史性に呼応するかのように、緩み切った”観光”の時間に亀裂が走り、ニーナはスーとはぐれてしまい、スマホも無くしてしまうだろう、”本物の旅”が始まったのだ。ここから、ディープなシンガポールに彷徨い込んでいく一連の流れが素晴らしい。是非、劇場に足を運んで、やがて訪れるはずの旅の僥倖の時間をスクリーンで体験して頂きたい。

1. シンガポール国際映画祭の展示用映像の予算は、海外で言う短編映画規模の
 予算、日本では長編映画が撮れなくはない予算でした

1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8



OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):まず製作の経緯についてですが、現代アートの企画で郊外に幽閉された人とそこから脱出する“ツーリズム”というテーマで取り掛かられて、それがこの映画に発展したということなんですが、その経緯をお話しいただけますか?
宮崎大祐:まず、2017年の春にシンガポール国際映画祭から今年の秋の映画祭に何か我々と企画をやらないかという話がきました、どうして僕が選ばれたのかもいまいちよく分からないんですけど。
OIT:作品を何か見たんでしょうか?
宮崎大祐:シンガポール国際映画祭では、それまでに2〜3年連続で僕の作品を上映して頂いたということがありましたが、彼らの初めての試みとして政府系のカジノ、マリーナベイ・サンズが経営するアート・サイエンス・ミュージアムの大きな美術館と映画祭で、映画祭期間を超えた企画をやるのでその第一弾でやってくれないかと言われました。というのは、僕が昔、美術をかじっていて、バンドもやっていたとか、色々なことをやってという話を映画祭の昼食会でしたことがあって、色々出来るんだったらこれも出来るんじゃないかっていう感じで、最初にオファーがあった。その後何も連絡がなかったので立ち消えになったのかなと思ってたんですけど、6月位になってやっぱりやるということで連絡が来ました。あくまで映像展示なんですけど、新しい映像を撮ってほしいと。予算的には海外で言う短編映画ぐらいの予算だったんですけど、日本で言うと割と長編映画が撮れなくはない予算でした(笑)。

『TOURISM』

7月13日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開

監督・脚本:宮崎大祐
撮影:渡邉寿岳
編集:宮崎大祐
録音:高田伸也
スタイリスト:遠藤新菜
へアメイク:宮村勇気
音楽:THE Are Lil’Yukichi
助監督:田中羊一
プロデューサー:Aishah Abu Bakar、宮崎大祐
コー・プロデューサー:Lindsay Jialin、Donsaron Kovitvanitcha、遠藤新菜
出演:遠藤新菜、SUMIRE、柳喬之

©DEEP END PICTURES INC.

2018年/シンガポール・日本/カラー・白黒/77分/16:9/5.1ch
配給:boid

『TOURISM』
オフィシャルサイト
http://tourism2019.net
1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8    次ページ→