文化庁が主催する「短編映画製作等を通じた若手映画作家人材育成」（「ndjc：若手映画作家育成プロジェクト」）は、若手映画作家の発掘と育成を目的に、映像産業振興機構（VIPO）が文化庁から委託を受けて運営する人材育成事業だが、具体的には、若手映画作家を対象として、ワークショップや製作実地研修をとおして映画製作に必要な知識や技術を学ぶことに加え、作品発表の場を設けることで、作家たちの今後の活動の助力となるよう支援するものであるという。2006年から始まったこの事業では、村松正浩、岨手由貴子、池田暁、山中瑤子といった監督たちが短編作品（25〜30分間）を製作し、期間限定で劇場公開される機会を得てきた。

今年度（2021年度）のndjcで上映されるのは以下４監督の４作品、竹中貞人『少年と戦車』、団塚唯我『遠くへいきたいわ』、藤田直哉『LONG-TERM COFFEE BREAK』、道本咲希『なっちゃんの家族』、OUTSIDE IN TOKYOは、中でも『なっちゃんの家族』を撮った道本咲希監督に注目し、ここに至るまでの経緯と『なっちゃんの家族』についてお話を伺う機会を得た。『なっちゃんの家族』では、わずか10歳の主人公の”なっちゃん”（上坂美来）が、仲の悪い両親に対して、「離婚してください」というセリフを発する場面がある。『なっちゃんの家族』は紛れもないフィクションとして構成された作品であるには違いないが、ここまで率直に作り手の”真実”が映り込んでいること、そうした事態が、家族３代が生きる時代背景の変遷も含めて、極めて自然な佇まいで画面に収まっていることに驚かされる。皆さんもぜひ、劇場に駆けつけて、お気に入りの若手作家を発見してみてほしい。

1. 高校生の頃から映画監督になりたいと思っていました	1  |  2  |  3  |  4  |  5

『なっちゃんの家族』 OUTSIDE IN TOKYO（以降OIT）：『なっちゃんの家族』を面白く拝見しました。まず最初に、ここまでに至る道のりを教えて頂けますか？ 道本咲希：はい、ありがとうございます。高校生の頃から映画監督になりたいと思っていました。当時、親とあまり仲が良くなくて、親みたいにはなりたくないって思ってたんですけど、嫌なことがあっても、映画を見ると忘れることが出来たんです。高校を卒業してから、大学には行かず、専門学校（ビジュアルアーツ専門学校大阪）へ行って、２年間映像の勉強をしました。その時に監督した作品がPFF（ぴあフィルムフェスティバル）で賞を頂いたのですが、映像を作っていくということに全然自信が持てなくて、卒業をしてから東京に出て、映像制作会社で３年間位、普通に会社員をやっていました。でも、まだ頑張りたいなって、ふと思った時、会社を辞めて、フリーランスになってCMディレクターに弟子入りして、半年位修行をさせてもらいました。その頃、ndjc（文化庁委託事業：『若手映画作家育成プロジェクト』）の公募があって、それに通って、今に至るという感じです。 OIT：『なっちゃんの家族』の前に撮っていた作品は、PFFに出していたわけですね。 道本咲希：そうですね、学生の頃、２年目に前期・後期で１本１本、30分の作品を撮ったのですが、どちらの作品もPFFに出して、前期の作品『１９歳』が2018年のPFFに通って、審査員特別賞を頂きました。後期の作品は『昔の恋人』という作品で、同じ年の奈良国際映画祭で上映して頂きました。それが、私が２１歳、映像制作会社に就職して１年目のことです。 OIT：そうして高い評価を受けたので、この道に進みたいという思いが強まったということでしょうか？ 道本咲希：いいえ、学生の時に撮った作品は、何も考えずに作った作品で、撮ってみたら、すごく見合わないと思うような立派な賞を頂けてしまったという感覚がすごくあって、自信がなかったので、どんどん恐くなってしまったんです。私は何も出来ないのに、何で賞をもらえたんだろう、っていう感じになりました。評価のポイントが、自分がよく考えたところではないのに、それがいい、って言われたようなことがあって、本当は考えてないことがバレるのが恐かった。みんなは計算して作って賞をもらっているのに、私は計算して作れてないのに賞をもらっている、口を開けてみたら何も考えてない、みたいなことがバレるのが恐いし、みんなの方がすごいと思っていました。 『１９歳』 ↑

『なっちゃんの家族』 監督・脚本：道本咲希 製作総指揮：松谷孝征（VIPO理事長） 製作：特定非営利活動法人映像産業振興機構（VIPO） プロデューサー：遠藤日登思、長澤佳也 撮影：大塚亮 録音：渡辺真司 美術：相馬直樹 助監督：野本史生 制作：金森保、柴野淳 スタイリスト：扇野涼子 ヘアメイク：山田みづき 編集：堀善介 音楽：入江陽 スチール：木村和平 出演：上坂美来、白川和子、斉藤陽一郎、須藤理彩、山﨑 光 制作プロダクション：アミューズ © 2022VIPO 『なっちゃんの家族』 文化庁委託事業『若手映画作家育成プロジェクト』公式サイト http://www.vipo-ndjc.jp/ndjc/5338/

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