OUTSIDE IN TOKYO
MATSUBAYASHI YOJU INTERVIEW

『オキナワ サントス』は、第二次世界大戦の最中、1943年7月8日にヴァルガス独裁政権下のブラジルで起き、今や、歴史の闇の中に忘れ去られようとしている”日本人移民強制退去事件”に光を充て、かつて事件を体験した人々の記憶や、事件が起きることになった背景を改めて”記録”に留め直す試みである。

ブラジル南東部サントスで起きた”日本人移民強制退去事件”が、僅かな新聞記事とアーカイブ映像を残すのみで、なぜ人々の記憶と”記録”から忘れ去られようとしているのか?そこには、21世紀現在も進行形で起きている”ヘイト”と”差別”に関わる人々の意識の問題が背景にあるが、作中でも明かされている通り、この事件は誰も触れたくない(触れても誰の得にもならない)タブーとして忌諱してきたブラジル日系社会の闇があった。

プロ野球で、ペナントレースの成績はあまり良くない選手が、大事な試合で千載一遇のチャンスをモノにし、ヒーローインタヴューに答え、「自分は記録よりも記憶に残る選手になりたい」などと語ることがしばしばあったが、こうした発言は、”記録はある”ことを前提とした発言であって、その前提がない状況で言えることではない。事実、マイナースポーツの試合や野球でも少年野球の試合にカメラが入ることは少なく、スコアはともかく、開かれた映像記録が残ることは稀である。

翻って、21世紀現在の日本では、政府が新型コロナウイルス対応のための「政府与党連絡会議」の内容を議事録として残すことは考えていないという方針を示した。以前から公文書破棄や隠蔽が指摘されている、この国の政府は、”記録はある”のが当たり前であるはずの、正統的な国家の体を為していないのである。私が思うのは、開かれた映像記録まではないものの、練習試合を含めて全試合スコアを記録している少年野球の運営体制にも遥かに及ばない不透明さ、愛情の欠如の中で、この国の為政者達は人々の生命を危険に晒しているということだ。

そうした時勢において『オキナワ サントス』が撮られた意義は大きいが、この作品の魅力は、時代の流れとは独立したところにあるということも付言しておくべきだろう。『花と兵隊』(2009)でアジアに留まった戦争未帰還兵の人々に、『相馬看花』(2011)で地震、津波、放射能の被害を受けた福島県南相馬市の人々にカメラを向けた松林要樹監督は、本作『オキナワ サントス』では、日本という国を離れ、ブラジルに暮らす移民の人々にカメラを向け、声なき声の主たちの声に耳を傾けている。そこには、想像以上の南国的空気感と、見るものの居住まいを正さずにいない、ある種の厳しさが同居している。

1. 最初は、テレビ番組になってほしいなっていう思いはありました

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):まずオープニングの入り方が面白いなと思ったんですが、窓に反射してる最初のものは那覇の駅のモノレールですね。それが飛行機から見える風景になり、いつの間にかサンパウロに着いている。窓の中の映像を編集された訳ですよね?
松林要樹:そうです。
OIT:こういうオープニングにしようというのは、どの段階で決めたのでしょうか?
松林要樹:編集協力にはクレジットしてないんですけど、信頼の出来る友人の何人かに、未完成の段階でラフカットを見てもらうんです。全くダメだねという意見もあるし、まあ色々言われるんですけど、その内の一人から、せっかく沖縄に住んでるんだから沖縄から飛び立つっていう風にしたら?って言われて、スケッチ的に撮り溜めていた映像をはめ込んでああいう風に繋いだということです。
OIT:その導入の後に、この映画のテーマである、かつて実際に起きた“ブラジルにおける日系人強制退去事件”が、今や歴史の闇の中に忘れられつつあるということを、サンパウロ在住のニッケイ新聞編集長深沢正雪さんが語る。松林監督ご自身も深沢さんからこの話を聞いて知ったのでしょうか?
松林要樹:はい、そうです。この辺はそのまま時系列で、沖縄県人会の宮城さんに資料を見せるところぐらいまではほぼ撮影した順に近い並べ方だと思います。
OIT:ニッケイ新聞の深沢さんにお会いしてその話を聞いたのは2016年くらいのことですか?
松林要樹:そうです、2016年の6月くらいだったと思います。初めにイグナシオ森口さんという方が出てくるんですが、日本語学校に親がいたイグナシオさんの所に行ったのが6月21日ですね。
OIT:その深沢さんの話を聞いて、これはちょっと探ってみようかなと思って動き出したっていう感じですか?
松林要樹:そうですね、まず資料がほぼ無いんですよ。深沢さんがくれた本の中にサントス事件についての記述があるんですけれども、小説みたいな記載で、あんまり本人も現場に立って書いてない記事なんですよね。だからこれを参考にするのも危険だなと思って、それを敢えて飛ばして取材を始めてるんです。それで何もとっかかりが無くて、最初は2〜3人の証言を集めるだけで終わりなのかなぐらいの感じでいました。
OIT:その2〜3人の証言っていうのは、序盤に登場された方々ですね。
松林要樹:そうです。その時点で普天間オルガさんが今から30年くらい前に撮ったドキュメンタリーの証言映像があるっていうことは分かっていたので、その映像を使って何かしらテレビ番組を作れるかなって初めは思ってました。その翌々年にあたる2018年が、日系ブラジル移民110周年だったので、それに合わせて取材が出来ればと。
OIT:じゃあ最初はテレビ番組かなと思っていたっていうことですか?
松林要樹:テレビ番組になってほしいなっていう思いはありましたね。


『オキナワ サントス』

8月7日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

撮影・編集・監督:松林要樹
カラーコレクション:中谷駿吾(ムーリンプロダクション)
整音:川上拓也
取材協力:ブラジル沖縄県人会、サントス日本人会

©玄要社

2020年/日本/90分
配給:東風

『オキナワ サントス』
オフィシャルサイト
https://okinawa-santos.jp
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