OUTSIDE IN TOKYO
Jean-Pierre Jeunet Interview

オードレイ・トトゥを有名女優に押し上げた『アメリ』の監督と認識する人もいるジャン=ピエール・ジュネ。だがそんな彼は『デリカテッセン』の不思議ワールドで熱狂的なファンを抱える映画通好みの監督でもある。そんな徹底的に作り込んだマニアックさと、かわいくコミカルなエンタテインメント性を併せ持つ監督は、実は珍しい。そして『ロスト・チルドレン』でもシュールな世界を追求した後、相方として歩んできたマルク・キャロと離れて挑んだのが、なんとあのヒット・シリーズの『エイリアン4』だった。ハリウッドに挑み、それなりの成功を収めた彼だが、さすがに自分のスタイルに染めるところまではいかなかったようだ。そしてそんな消化不良をぶつけるようにパーソナルな視点で作りあげた『アメリ』という小品の大ヒットのおかげで、彼はもう予算取りに困ることはないかのように見えた。ところが、ハリウッドとの契約など、様々なしがらみから、次の戦争と寓話性を内包した意欲作『ロング・エンゲージメント』を撮るまでに3年、更にこの新作『ミックマック』を撮るまでは5年も要してしまう。そんな待望の新作は、彼の鬱憤を晴らすかのような、強いエネルギーに満ちている。要は、彼のこれまでの映画作りの全てが詰まっているのだ。

幼少時代に強盗の流れ弾に当たりながら奇跡的に生還した主人公が、その頭に残った弾丸のおかげで人生を狂わせた武器製造会社に復讐するという物語。一見、政治的だが、監督は、とぼけた風貌のダニー・ブーンが醸し出すコミカルさに白羽の矢を立てた。そこへ彼を家族のように受け入れ、復讐の手助けをする、監督が”白雪姫と七人の小人”と形容する、各々が一つ秀でたところのある“家族”のおかげで、映画は超ドタバタのスラップスティック・コメディを突き進むことになる。

主演のダニー・ブーンは、最初は人のために書かれた脚本を一時は断りながらも、監督の熱意に押されて引き受けた。そんな中、彼自身が監督した映画『Bienvenue Chez Les Chtis』も大ヒットし、『アメリ』どころか、『タイタニック』さえ抜いてしまう興行成績をあげた。そんな成功に思わず嫉妬してしまったと話すジャン=ピエール・ジュネに、今の彼の全てが詰まった映画『ミックマック』について聞いてみた。

1. 絵画のように美しいこと、そうした美意識を追求している

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):ご機嫌はいかがですか?
ジャン=ピエール・ジュネ(以降JPJ):あまり気分がよくないんだ。

OIT:そうですか。気分が悪いんですか?
JPJ:冷房かな。この前はテキサス州オースチンにいたから。

OIT:テキサスでは何をしていたんですか?
JPJ:同じで、映画の宣伝だ。映画祭でね。その前がイギリス、スコットランドで、東京の後はまだ香港、スペインと続いていくんだ。

OIT:自分の“ベイビー”の面倒を見ているわけだね。
JPJ:そうだね。でも空港とタクシーしか見てないんだ。でも東京は大好きさ。

OIT:そうなんですね?少しは東京の街は見られそうですか?
JPJ:もう8回目だからね。映画の宣伝や映画祭とかで。

OIT:でも遊びで来日したことはないんですね。
JPJ:そうだね。遊びではないな。楽しみだけで来るには遠いからね。

OIT:そうですか。自分が創作する上で、日本的な影響が入っていたりしますか?
JPJ:自分の作品の中で参照されるのは黒澤明くらいだ。黒澤作品で言えるのは、建築的な要素だけど、壁に飾られた時、それは絵画のようでなければいけないこと。僕もその哲学を手に入れたいと思った。だからそれは大きな参照と言える。その理由は、美意識であり、何か美しいものを作り出したいという思いだ。そうした美意識は日本の伝統の中にもあるものだ。フランスは違うけど。フランスではあまり好まれていないんだ。逆に毛嫌いされている節もある。だってそれは美しすぎるからね。

OIT:そうした美意識は全てのシーンにおいて、この『ミックマック』でも徹底的に追求していますね。
JPJ:うん、その通りだね。最後の色補正にもすごくたくさんの時間をかけたから。

OIT:この映画の絵コンテも自分で描いたのですか?
JPJ:そうだね。絵コンテは自分で描いているね。僕は一生懸命、働くことを信じている。例えば、ピカソはあの有名な「ゲルニカ」を描くために150枚ものスケッチを描いたという。彼は天才だったけど、僕は天才じゃない。だから(余計に)一生懸命やるしかないんだ。自分で絵コンテを描くのはよくないと人は言うけど、それは真実ではないと思う。だって、最後の瞬間に変えることができるから。最後の最後でよりよいアイデアを思いついた時でも。もちろん、無くしたものもあるけれど、自分の描いた絵コンテは持っているよ。


『ミックマック』
原題:MICMACSA TIRE-LARIGOT

9月4日(土)恵比寿ガーデンシネマにて先行公開
9月18日(土)より全国ロードショー

監督:ジャン=ピエール・ジュネ
脚本:ジャン=ピエール・ジュネ、ギョーム・ローラン
美術:アリーヌ・ボネット
衣装:マデリーン・フォンテーヌ
撮影:テツオ・ナガタ
編集:エルヴェ・シュネイ
音楽:ラファエル・ボー
製作:フレデリック・ブリオン、ジル・ルグラン、ジャン=ピエール・ジュネ
出演:ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ、オマール・シー、ドミニク・ピノン、ジュリー・フェリエ、ニコラ・マリエ、マリー=ジュリー・ボー、ミッシェル・クレマド、ヨランド・モロー、ジャン=ピエール・マリエル

2009年/フランス映画/カラー/105分
配給:角川映画

2009 (C) EPITHETE FILMS -TAPIOCA FILMS -WARNER BROS. PICTURES -FRANCE 2 CINEMA -FRANCE 3 CINEMA

『ミックマック』
オフィシャルサイト
http://www.micmacs.jp/
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