OUTSIDE IN TOKYO
James Vanderbilt INTERVIEW

ジェームズ・ヴァンダービルト『ニュースの真相』オフィシャル・インタヴュー


テキスト:上原輝樹

2004年アメリカ、再選を目指していた共和党ブッシュ陣営は、対立する民主党候補ジョン・ケリーに対する大規模なネガティブ・キャンペーンを展開、世論調査では、45%がブッシュ再選に賛成、49%が反対という数字が踊る、熾烈な大統領選挙が繰り広げられていた。そんな折、伝説的ジャーナリスト、ダン・ラザーをアンカーマンに擁するCBSのニュース報道番組「60ミニッツⅡ」は、敏腕プロデューサー、メアリー・メイプスの陣頭指揮の下、「ジョージ・W・ブッシュの軍歴詐称疑惑」を報じる番組を放送、このスクープはブッシュ陣営に大きな打撃を与えるはずだったが、新証拠として挙げたひとつの文書が“偽造”であるとするネットに投稿された保守系ブログの記事をきっかけに、CBSは厳しい非難に晒されていく。

本作『ニュースの真相』は、この番組のプロデューサーであったメアリー・メイプスの自伝を読んで感銘を受けたジェームズ・ヴァンダービルトが、脚本、製作、そして、監督を務め、ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード競演という大きな支援を得て撮り上げた一作である。映画『ニュースの真相』は、「ブッシュの軍歴詐称疑惑」報道が、それを裏付ける多くの証言や状況証拠がその“真実”を物語っていたにも関わらず、ひとつの文書が偽造だったか否かの問題に囚われて、番組製作陣の身動きが出来なくなり、巨大権力との対決、さらにはテレビ局の商業主義化の流れが著しく加速していく情勢の下、敗走を余儀なくされていった調査報道の現実を描き出している。

本作が一見に値するのは、“ウォーターゲート事件”をスクープしたジャーナリストの手記を元に、現代ジャーナリズムの武勇伝をスリリングに描いた『大統領の陰謀』(アラン・J・パクラ/76)、本作で描かれた「60 ミニッツⅡ」の前身「60 ミニッツ」が、企業の軍門に下り、商業主義がアメリカのリベラルを蝕む現実を、企業の内部告発者と番組プロデューサーのヒューマンドラマを通じて描いた『インサイダー』(マイケル・マン/99)といった名作同様、アメリカ社会で起きている地殻変動を、絶妙のタイミングで表象し得ているからに他ならない。(話が逸れるが、そのTVジャーナリズムの終焉の後でも、社会の鏡としての”映画”を見続けている者ならば、『シチズンフォー』(14)の出現に、新しいジャーナリズムの可能性を見て取ることが出来るかもしれない。ジャーナリスト、グレン・グリーンウォルドが寄稿した、オバマ政権による盗聴疑惑を伝える、数多の記事と彼の著作(「暴露 スノーデンが私に託したファイル」)、ローラ・ポイトラスが撮った映画『シチズンフォー』、そして、多大な犠牲を払いながら、密やかに計画を立案し、遂行したエドワード・スノーデン、彼らが”人々”<PEOPLE>のためにリスクを賭して行った“行動”、それ自体が21世紀のジャーナリズムの可能性そのものである。 )

その上で、デヴィッド・フィンチャーの傑作『ゾディアック』(07)の製作・脚本家として知られるジェームズ・ヴァンダービルトは、『ゾディアック』が、実際に起きた未解決の連続殺人事件を追った“謎解きサスペンス”であるのみならず、事件を追うジャーナリストたち自らが迷宮に陥っていく“ノワールな人間ドラマ”であったのと同様に、本作も、調査報道の衰退という社会的背景をベースに、“真実”を追うジャーナリストたちが底なし沼に足を絡めとられてゆく窮状を、メアリー・メイプスとダン・ラザーの疑似親子関係の希望の物語と重ねることで、勇敢で、魅力に溢れるジャーナリストたちの立体的な“人間ドラマ”として重層的に描き出すことに成功している。翻って、私たちの国のマスメディアの状況を鑑みてみると、劇中に登場する”FEA!!”の気概を持ったジャーナリストが一体どれだけいるのだろうか?ヴァンダービルト監督のアメリカにおける調査報道の危機を案じる言葉は、私たちの国の現状そのものに対する警告としても響いてくる。

1. ケイトがこの作品を支持して役を引き受けてくれなければ、この映画は存在しなかった

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Q:今作が、初監督作品となりますが、ケイト・ブランシェットやロバート・レッドフォードなど、素晴らしい俳優陣との仕事に気分が高揚しましたか?
ジェームズ・ヴァンダービルト:もちろんさ。こんなに素晴らしい、様々なタイプの役者と仕事が出来るなんて本当にラッキーだった。 彼らが「やりたい」と言ってくれた時、その言葉を信じられなかったくらいだ。
Q:緊張はしませんでしたか?
ジェームズ・ヴァンダービルト:ああ、それはもう緊張したね。彼らは本当に才能あるビッグスターたちだから。でも、それが良かった。ビクビクしていると感じさせてしまったら、却って失礼でしょ? この仕事を、この映画を選んだこと、僕と一緒に仕事をすることを選んだことを後悔させることになる。だから、悪い方向には考えないようにしていたんだ。もちろん、ものすごく緊張してはいたんだけどね。
Q:脚本もお書きになっていますね。この作品は、真実を求め続け、結局、完膚なきまでに打ちのめされた女性の話です。映画の制作にあたって苦労をしたことはありましたか?
ジェームズ・ヴァンダービルト:それはとくに無かったな。キャストを探さなくてはならないから、そこには時間がかかったけどね。この映画は、ケイト無しでは存在しなかった。 彼女が引き受けてくれた時、実は資金の目処が立っていなかったけれど、彼女が資金調達に一役買ってくれたんだ。その後、ボブ(ロバート・レッドフォード)も参加してくれることになった。でも、ケイトがこの作品を支持して役を引き受けてくれなければ、この映画は存在しなかった。だから、全ては、やりたいと言ってくれた彼女のお陰なんだよ。 ケイトとボブが参加してくれれば、この映画は一体どうなるんだろう、と多少不安に思ったとしても、皆、彼らと一緒に作品を作りたいと思ってくれるはず。そうやって皆が、応援してくれたんだ。

『ニュースの真相』
原題:TRUTH

8月5日、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国順次公開

監督:ジェームズ・ヴァンダービルト
製作:ブラッドリー・J・フィッシャー、ウィリアム・シェラック、ジェームズ・ヴァンダービルト、ブレット・ラトナー、ダグ・マンコフ、アンドリュー・スポールディング
製作総指揮:ミケル・ボンドセン、ジェームズ・パッカー、ニール・タバツニック、スティーヴン・シルヴァー
原作:メアリー・メイプス
脚本:ジェームズ・ヴァンダービルト
撮影:マンディ・ウォーカー
プロダクションデザイン:フィオナ・クロンビー
衣装デザイン: アマンダ・ニール
編集:リチャード・フランシス=ブルース
音楽:ブライアン・タイラー
出演:ケイト・ブランシェット、ロバート・レッドフォード、エリザベス・モス、トファー・グレイス、デニス・クエイド、ステイシー・キーチ

© 2015 FEA Productions, Ltd. All Rights Reserved.

2015年/アメリカ・オーストラリア/125分/シネマスコープ/5.1ch
配給:キノフィルムズ

『ニュースの真相』
オフィシャルサイト
http://truth-movie.jp
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