OUTSIDE IN TOKYO
Hilla Medalia INTERVIEW

ヒラ・メダリア『キャノンフィルムズ 爆走風雲録』インタヴュー

2. メナヘムは腰の骨を折っていたのでカンヌには車椅子でやってきたのですが、
 いざレッドカーペットに登場すると、車椅子から立ち上がって踊り出したのです!

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OIT:あなたが“失敗”について、つまり、『スーパーマン4』について尋ねると、メナヘムが激怒するという場面がありましたが、彼があのように感情を剥き出しにしたのは、その時だけですか?
ヒラ・メダリア:私の大好きなシーンです(笑)。実はもうひとつだけそういう場面があったのですが、その“失敗”について訊いたシーンは、メナヘムという人のことをよく物語っているシーンだと思います。私が映画を撮り始めた時も、いい映画を撮ればカンヌで上映されるよって、よく言っていました。後に実現することになるわけですが、常に大きな夢を持っている人でした。自分が撮影した映画を当人に見せるというのはいつでも難しいものです。しかも彼は監督ですから、撮影中も照明やカメラの動きに注文をつけてきましたので、彼に出来上がった作品を見せるのは凄く緊張したんです。彼は見終わってから一言だけコメントをしました。エンディングを、“映画を作り続けている”というハッピーエンディングにしてほしいと言ったのです。実際、メナヘムは映画を作っていなかったので、そんなことは出来ませんと言ったのですが、それで凄く揉めたのです。最終的には最後のクレジットの音楽を楽しげな明るい音楽にするということで妥協してくれて、やっと完成させることが出来ました。メナヘムはそういう風に何でも率直に語る人なのですが、とても優しいところもあるんです。“失敗”のところで彼が怒った時も、僕は今まで300本も映画を作ってきたんだぞという感じで威嚇するわけではなく、君はまだとても若いから、わからないかもしれないけれど、、、といった感じのソフトな言葉使いで相手を気遣ってくれる。よく言われているのが、彼の成功は“人間性”から来ている、彼の失敗もまた“人間性”から来ているということなんです。彼はノーと言えないから、ノーと言えずに失敗を招いてしまった例もある、率直でキツい性格だと思われがちなのですが、凄く優しい一面もある人です。

OIT:今の(前半の)お話を伺って、オーソン・ウエルズのドキュメンタリー映画『ディス・イズ・オーソン・ウェルズ』(15)の中で、撮られているはずのオーソンがカットを決めたり撮り直しの指示を出したりして、演出し返している姿が捉えられていて面白かったのですが、それを想い出しました。
ヒラ・メダリア:メナヘムもまさにそんな感じでした。ちょっと想い出したのですが、カンヌ映画祭というのは、メナヘムにとってもヨーラムにとっても、この物語を締めくくるには最高の舞台だったわけですが、彼らがそこへ行くと皆が敬愛の念を示してくれたのです。実はメナヘムはカンヌの2ヶ月前に腰の骨を折っていて、冗談で、83歳で腰の骨なんかを折ってしまうと病院から墓場へ一直線だよ、なんてことを言っていたのですが、カンヌで上映されると決まったことが彼の病状の回復に良い影響を与えたようで、車椅子でカンヌ入りしたものの、いざレッドカーペットを歩くという段になると彼は車椅子から立ち上がって歩き出し、踊り始めたのです(笑)。とても驚かされました。そしてその後、(2014年)6月のエルサレム映画祭で上映された時のことです。それは彼が亡くなってしまう2週間前のことでした。エルサレムで彼は、自分が監督していない作品に出演する気分はどういうものですか?と尋ねられて、「ヒラは世界一の監督だよ。もちろん、私を除けばという話だが!」と答えたんです(笑)。可笑しいですよね。でも彼はこの作品をとても気に入ってくれたのだ、と思ってとても嬉しかったです。

OIT:ヒラさんのキャリアを見てみると、イスラエルの社会問題を扱っているドキュメンタリー作品を多く撮られていると思うのですが、今作に限っては少し毛色が違っていて、より娯楽色の強い、映画産業、映画人についての作品です。監督ご自身は、今後どのような作品を撮っていこうとお考えですか?
ヒラ・メダリア:社会的な問題にはもちろん深い関心を抱いていますが、それを明るく、エンターテイメント性の強い作品として見せることが重要だと思っています。ドキュメンタリーというと、悲しい、暗いという印象を抱かれがちですけれども、例えば『Dancing in Jaffa』(13)という作品は軽いタッチで描いているんです。その方がより多くの人に見てもらえる可能性が高いからです。『Dancing in Jaffa』に関してはNHKが買ったという話もあるようです、確認をしなければ正確な情報はわからないのですが。より幅広い層に見てもらう為に、大切なメッセージを明るい作風で伝えるということを意識しています。私自身、映画を見てハッピーになりたいと思うことも多いですから。この作品は確かに今までの作品とは少し違っていますが、共通点はあって、それはとてもパーソナルな話であるということ、そして映画のスタイルも似ていると思います。つまり、キャノンフィルムズをあまり好きではないという人や、映画史にあまり興味がないような人でも楽しめる映画に仕上がっていると思います。究極的には“二人の人間が離婚にいたるラブストーリー”なんですね。実際、アクション映画には全く興味がなくて、キャノンフィルムズの映画の趣味とはまったく異なる趣味の持ち主である私の両親もこの映画は面白かったと言ってくれました(笑)。これからの作品ということで言えば、やはり社会的な問題と、今作のようなパーソナルな内容を組み合わせた作品になっていくのだろうと思います。今回の作品に関してはエンターテイメント性が強いというだけではなくて、彼らの人生のサクセスストーリーに惹かれるものがありましたし、ハリウッドで大成功を収めるという、大きな夢を追い求める彼らの姿に共感できるものがあったんです。

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